残念ながら急遽開催中止となった“第5のメジャー”プレーヤーズ選手権。その公式記者会見でアダム・スコットが、自身が実践する“ゴルフ哲学”をメディアに明かした。在米ゴルフジャーナリスト、アンディ和田が詳しくレポート。

「完璧なスウィングは存在しない」だから動画は見ない

PGAツアーでは近年20代の選手の活躍が目立ちますが、今年で40歳になるアダム・スコットが昨年から好調なゴルフを続けています。先月は「ジェネシスインビテーショナル」で優勝、最新世界ランクは6位まで上昇しています。

画像: 2019-20シーズンで米PGA・欧州ツアーですでに2勝を挙げているアダム・スコット(写真は2020年のWGCメキシコ選手権 撮影/姉崎正)

2019-20シーズンで米PGA・欧州ツアーですでに2勝を挙げているアダム・スコット(写真は2020年のWGCメキシコ選手権 撮影/姉崎正)

2013年にマスターズを制覇し、2014年には世界ランク1位になったアダム。先週のプレーヤーズ選手権(第1ラウンド後にキャンセルとなってしまいましたが)の公式記者会見で、自身が実践する“ゴルフ哲学”を語ってくれました。

現在の最新テクノロジーを利用する時代とは異なり、どちらかというと頑固職人でアナログ的な哲学を実践しているようなので紹介させて下さい。

まず第一に、アダムは自身のスウィングの全体像を「動画などでチェックしない」そうです。

「以前は自分のスウィングを頻繁にチェックする時期もありましたが、これは良くないということに気がつきました。スウィングは良いのにつまらぬあら探しをしてしまって批判的になってしまいます。完璧なスウィングというのは存在しないと思いますし、せっかく良い感じで振れているときも何かを試そうとして違う方向に進んでしまうケースがあります。ですから今年は自分のスウィングは見ていません。自分のフィーリングを頼りにして、信頼できるコーチの意見を聞きポジション的に問題がなければ自分の感覚を信じてプレーします。(形に)縛られずに解放された自由な気持ち、自分の持っている才能を使うというのが私のプロセスです」(アダム、以下同)

ちなみにアダムのスウィングコーチは同じ豪州出身のブラッド・マローン氏。2009年のスランプから脱出し、その後一時は離れたこともあったそうですが、また2年前から専属コーチとして復帰しています。

弾道測定器は使わない

現在のツアーシーンでは弾道測定器を使った練習法が主流となっていますが、アダムはこれを活用していないそうなんです。

「(弾道測定器の)トラックマンは持っていますが、使いませんね……。最後に使ったのがいつだか覚えていません。使うことによって参考になる情報も得られると思いますが、私としては驚くような秘密が見つかるとは思いません。自分自身のゴルフはわかっていますし、自分の球筋がどうなっているのかも理解しています。常に素直に向き合うようにしています」

レジェンド、ベン・ホーガンの言葉で「The secret is in the dirt (秘密は土の中にある)」というものがありますが、スコットも同じでターフの跡やボールの弾道でしっかりと自分のゴルフを把握しているんでしょう。

また飛距離についてはこのように話していました。

「今の時代はパワー(飛距離)を出すのは以前と比べるとやさしくなっていると感じます。しかし同時にショットの精度を高めるのは難しいです。私自身も以前はもっと精度が高かったですが、飛距離を求めるうちにその精度が落ちてしまうことがあったので、この2つのバランスが重要だと常に考えています」

試合数は抑えて“準備”に時間を使う

アダムは2003年からPGAツアーにフル参戦していますが、過去17年間の年間ツアー参戦平均数は17.5試合のみ。比較例として、松山英樹は年間平均23.1試合出場しています。これについても、本人が意図を語ってくれました。

「試合の数を減らすのはメジャー競技やWGC世界ゴルフ選手権などでしっかりとパフォーマンスを出せるようにするためです。しっかりと自分のベース(家)で練習を重ねます。試合で見つかった課題をクリアしないといけませんから。独身の頃とは違い、家族の時間も大切です」

自身のベースとなるバハマ島では練習を重ね、試合を意識したシミュレーション練習をして、試合会場ではウォームアップや軽いクールダウン以外はほとんど試合中に打ち込みをしないのがアダム・スコット流。

「すべては準備で決まるというのが私の考えです。ちゃんと準備をすれば試合でどんなことが起きても理解して対応できるはずです。木曜日のスタート時でも最終日優勝争いに絡むときも同じです。ほかの(競技の)アスリートとも話をする機会がありましたが、多くは自信というのは準備のときに得ていて試合でのパフォーマンス以前に持っているものだと。ベン・ホーガンが以前語った『If you did not bring it, you are not going to find it here(試合会場に来る前に持ってこなかったものは、試合会場では見つからない)』という言葉に同意します」

クラブは基本的に変えない

また、クラブのスイッチについてはこう語っています。

「私はクラブを変えるタイプではありません。上手くいっているのであればできるだけ変えないようにしています。ゴルフは常にいろいろ変化があり、それに対応するようにしないといけませんから、クラブを変えるという要素を増やしてしまうと良くないです」

2003年発売のタイトリスト「680フォージド」をバッグに入れ、ジェネシスインビテーショナルを制したアダム(撮影/アンディ和田)

今年のジェネシスインビテーショナルでの優勝時も、17年前に発売になったタイトリストの680フォージドアイアンを使用していましたよね。

昨年秋のラスベガス開催時の練習場ではタイトリスト910D3(2010年モデル)のドライバーを使っていました。2018年のプレーヤーズ選手権でもこのドライバーを使用していましたから常に信頼できるブルペン/リリーフドライバーなのかもしれませんね。

また余談になりますが、アダム・スコットは現在グリップエンドを身体につけない長尺パターを使用
していますが、世界グローバルでのキャリア31勝中で短い通常パターでの優勝数は18勝、長尺13勝
と短いパターの優勝数のほうが多いのです。

PGAツアーメンバーの中で1980年生まれのスター選手は多く、アダム・スコットやセルジオ・ガルシア、ジャスティン・ローズなどのメジャー優勝者がいます。プロ生活20年を越え、今年で40歳を迎える選手の中でまだまだ若手に負けじと戦うアダム・スコット。

毎年のように日本オープンでプレーする「生アダム様」の凛々しい姿にうっとりする日本のファンも多いと思います。メジャー連続出場はここまで74試合と継続してきていますが、今年は2013年のマスターズに次ぐメジャー2勝目も期待したいですね。

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