“越境通学”する子は成長が早い?
打ち方を教えないコーチングをするようになってしばらくしたころ、一人のジュニア選手が僕のアカデミーに通うようになりました。のちに日本アマチュアゴルフ選手権で優勝し、プロテストに合格した亀代順哉です。
彼はとても素直な選手で、よく練習しメキメキと力をつけていきました。彼より通う回数が多い選手は何人かいましたが、亀代君の成長は段違いです。
当時、高校生だった彼は地元の徳島県から週に2回、片道2時間弱かけて僕のアカデミーがある神戸まで通っていました。週末には神戸に泊まり込んで、レッスンを受けることもありました。
僕は当初、神戸に住んでいてアカデミーに通いやすく、レッスン回数の多い子のほうが成長は早いだろうと思っていました。しかし、亀代君と近隣から通う選手との差は開く一方です。
この差は何だろう。
彼らをフラットな目で観察すると、あることに気づきました。それは質問の回数と質の高さです。
打ち方を教えることをやめた僕のレッスンでは、選手が気になったことを聞きに来るというスタイルになっていました。
しかし亀代君は僕と直接話せる時間が限られている。
そこで自分の課題を事前に考え、聞きたいことをしっかり準備してきていたのです。
質問の回数が増え質が良くなるのは選手が考えている証
移動時間がかかりレッスン回数も限られる環境でしたが、それゆえに持っている覚悟が違いました。
その頃の僕は、実績がほとんどない無名のコーチ。ですがそんな僕から少しでも多くの事を学ぼうという姿勢が、ひしひしと伝わってきたことを今でも覚えています。
皆さんにも同期入社や同じ時期に習い事に通い始めた人が、半年くらい経って自分よりも明らかに実力をつけていた、そんな経験があるはずです。
それらは「器用だから」とか「飲み込みが早い」という言葉で片づけられがちですが、彼らは同じ作業や練習をしていても、亀代君のように自分の課題は何かを考えられているのです。
彼の成長で、考える深さと成長の速度は相関関係にあることに気づかされました。
そこからコーチとして、選手がより自分の頭で考えられるようになるレッスンに注力するようになっていたのです。
「打ち方は教えない。」(ゴルフダイジェスト社)より