昨日幕を閉じた「アース・モンダミンカップ」でついに国内女子ツアーが開幕した。異例の“長いシーズンオフ”を終え、好結果を残した選手、そうでない選手がいた。両者を分かつものはなんだったのか、プロゴルファー・永井延宏が緊急寄稿!

「気・クラブ・体」を維持した鈴木。「気・体」を練り直した渡邉

長過ぎたシーズンオフという表現が適切かどうか分かりませんが、この新型コロナウイルス問題によって開催が見送られていたJLPGAツアー(国内女子ツアー)が、無観客試合という形ながら、ついに開幕しました。

海の向こうのPGAツアーは一足先にシーズンが再開されました。ツアー会場における選手や大会関係者の新型コロナウイルス感染も報じられていますが、とりあえず観客を入れての試合も近々予定されているとのこと。

PGAツアーは、既にツアー再開後3試合を終えました。自粛生活という3カ月に渡る中断の時間を、選手たちがどう使ったのかが興味深いですが、世界ランキング上位の選手や、次期メジャー戴冠候補に挙げられる旬の選手は、それなりに結果を出していて、自粛生活明けでもコンディションを落とすことなく、上々の再スタートが切れたのではと感じます。

女子ツアーは、昨年の12月1日にツアー最終戦が終わりオフに突入。本来なら3月から開幕でしたが、それが約3カ月半遅れて「アース・モンダミンカップ」で開幕。半年超のオフとなった訳ですが、プレーオフで惜しくも敗れた絶対女王の鈴木愛は、昨年のシーズンからそのままワープしてこの試合に突入したかと思わせるプレーぶりを見せてくれました。

画像: 昨シーズン賞金女王の鈴木愛は、開幕戦でもプレーオフの末2位と強さを見せつけた(Getty Images/JLPGA提供)

昨シーズン賞金女王の鈴木愛は、開幕戦でもプレーオフの末2位と強さを見せつけた(Getty Images/JLPGA提供)

本人のコメントには、まだミスが多く本調子ではないとありましたが、バーディパットを狙う際の眼差しと集中は、「結果がすべて」のツアー選手としてナンバーワンのオーラが出ていたと感じました。

開幕戦前の情報によると、鈴木は昨シーズンから大きなクラブ変更はなく、フィッティングして選んだ16本のクラブから、その週のコース特性や調子にあわせて14本をチョイスして試合に挑んだとのこと。たしかに、最近の女子ツアーのコースセッティングでは、距離の長いホールパー4やパー3があるので、そのあたりの距離を打ち分けるクラブを、フェアウェイウッドとユーティリティで選択していると思われます。

パターはマレット型にモデルチェンジしたという情報もありましたが、あれだけ自信に満ち溢れてストロークできている様を見ると、なんら違和感はないのでしょう。

これに対して、昨年の大活躍から「時の人」となり、今季はさらなる活躍が期待される渋野日向子は、初日のルールミスも影響して、まさかの予選落ち。

画像: 渋野日向子はアース・モンダミンカップでカットラインに1打届かず予選落ちを喫した(Getty Images/JLPGA提供)

渋野日向子はアース・モンダミンカップでカットラインに1打届かず予選落ちを喫した(Getty Images/JLPGA提供)

このシーズンオフには、次のステップを見据え、アプローチを中心とした技術のアップデートと、より速くて強いスウィングを目指しての肉体トレーニングにも励んだようです。それによって、ドライバーのシャフトを2019年に使用していたフジクラ「スピーダー569 エボリューションⅥ」から「ベンタス5S」とややハードなモノに変更するなど、セッティング面でもかなり大きなチェンジを経ての開幕となりました。

私が多くを学んだ古武術の世界を現代に伝える振武舘黒田道場宗家の黒田鉄山先生は「気・剣・体一致の武術的身体」の獲得を目指し、代々伝わる型稽古を「基本、即ち極意」と位置付けて、日々の稽古に励んでおられます。

この「剣」を「クラブ」に置き換えると、「気・クラブ・体一致のゴルフ的身体」となります。

ここ数年、それを高いレベルで維持できていて、長いシーズンオフの影響もなくそのまま試合という実戦の場にスッと入り結果を残した鈴木愛は、現代のゴルフ界において至高の存在といえるでしょう。そこには大きなコンセプト変更がなく、一貫したポリシーでモノつくりを続けるピンのクラブとの信頼関係も、大きく貢献していると思います。

一方、同じピンの契約選手でもある渋野日向子は、この開幕戦においては、まだ「気・クラブ・体の一致」までたどり着けていなかったのかもしれません。優秀なコーチ陣が今回の結果を踏まえて、また修正してくると思われますから、次の試合には期待したいと思います。

そう考えると、PGAツアーで話題のブライソン・デシャンボー(編注:中断期間に筋トレに励み、9キロ増量して再開初戦ではロフト5.5度のドライバーを手に平均340超という飛距離を記録した)の、ドライバー飛距離アップへの取り組みは、この長いオフを利用しての成功事例で、「気・クラブ・体」すべてにおいて1ランクアップした感があります。

ゴルフ界的には、あまりの結果に、ドライバーの飛距離を道具で制限するべきだという声も再燃していますが、デシャンボーはルール違反を犯しているわけでもなく、このオフを利用しての筋力アップとそれに見合ったドライバーを選び、真っすぐ遠くに打つための技術を磨いた結果で、「気・クラブ・体の一致」がそこにはあります。

エビデンスや定量化により基準を導くのが当たり前の方々にとっては、このデシャンボーの取り組みが、正体不明で強力な新型コロナウイルスのような未知の存在に思えるのでしょうが、その昔にゲーリー・プレーヤーが45インチのスチールシャフトドライバーを使いこなすため筋トレに励み、その結果飛距離アップを果たしてマスターズを優勝。グランドスラマーとなったのと同じ、ゴルフのストーリーのひとつです。

PGAツアーで昨日の朝に優勝を果たしたダスティン・ジョンソンは、従来のエースパターとはまったく違うタイプの新製品パターを手にしていました。クラブの性能から見ると、かなりかけ離れた性能のパターですが、契約メーカーの新製品に対して積極的に使ってみようというポジティブマインドは、ダスティンの特徴で、パターだけでなくウッド型ハイブリッドクラブを2本バッグに入れていたのも新しい取り組みです。

こういう関係を続けながら、13年連続ツアー優勝という結果を出すのは、「気・クラブ・体」の関係で見ると、圧倒的に「体」のポテンシャルが高く、「気・クラブ」を吸収してしまうのでは? と思われます。同じタイプに感じるのは、いよいよ50歳の誕生日を迎えシニアの資格も得たフィル・ミケルソン。絶妙なウェッジワークに目が行きますが、それを支えているのは「体」のパワーだと思いますし、根っからのギャンブラーという「気」も、ミケルソンの攻撃的なパフォーマンスに関係しているでしょう。

昨日、プレーオフの末に、5年ぶりの復活優勝を遂げた渡邊彩香が手にしていたのは、その前回優勝の頃に使っていた5年前のドライバー。

画像: アース・モンダミンカップで5年ぶりの優勝を果たした渡邉彩香(Getty Images/JLPGA提供)

アース・モンダミンカップで5年ぶりの優勝を果たした渡邉彩香(Getty Images/JLPGA提供)

その頃の自分へ戻ろうと、同じドライバーを手にし、自分を信じて「気・体」を再び練り直した結果の復活劇だったと思われます。プレーオフでの渡邊のドライバーショット、シビアな数値で評判の弾道計測器が出したボール初速は71m/s。男子プロ並みのボール初速でした。

今回は、日米ツアー共々、長いシーズン中断を経てのスタートとなりましたが、自粛生活中からの取り組みが結果として現れて、悲喜こもごもが見え隠れする試合となりしました。

まだまだ出口の見えないコロナ禍により、先行きはやや不透明ですが、今後も「気・クラブ・体の一致」による高次のパフォーマンスで、ゴルファーに夢や希望、そして感動を与えてくれるプロゴルフツアー。あらためて、我々ゴルファーには必要だと感じました。

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