数百万円と高額ながら、今やトッププロの多くが練習場で使用するようになった弾道計測器「トラックマン」。高校2年生でその存在を知ってから、購入のために貯金を始めた植竹が、今年念願かなって購入したのは既報の通り。
そのトラックマンを、植竹は「先生」だという。
「アタックアングル(クラブの入射角)、フェースアングル(フェース向き)、クラブパス(インパクト時のクラブ軌道)、ダイナミックロフト(インパクト時のロフト)の4つの数値が適正であれば『ちゃんと打てている証拠』なんです。なので、誰かに『トップはここに上げて』とか言われるよりも、アタックアングルやフェースアングルを数値で言われたほうがその通りに打てるんですよね。あとは試合前にフェードとドロー、それぞれで各番手の距離を測ります」(植竹、以下同)
感覚的にではなく、数値で自分のスウィングや、試合ごとにコンディションが異なる中で変化する飛距離を把握する。まるで“ゴルフの科学者”ブライソン・デシャンボーのようなロジカルな思考だ。
結果はすぐに出た。まず、パーオン率が目に見えて上昇したのひとつ。そして、ステップ・アップ・ツアーの開幕戦での優勝だ。
「パーオン率が圧倒的に上がったというのと、ステップアップの開幕戦が勝てたというは凄い自信になりましたね。とくにステップに出場しているときは『自分が一番うまい』と思いながら強気にプレーすることができるようになったと思います。去年に比べて自信という部分は大きく変わったな~と実感していますね」
この背景には昨年の5月から通うメンタルトレーニングの影響もある。クラブ、トラックマン、メンタル……技術面だけではなくあらゆる方向からゴルフのために何ができるかと考えているのが植竹希望というプロの特徴であり、強みと言えそうだ。そして現在彼女が取り組んでいるもののひとつが“将棋”だ。
「ゴルフのために将棋とチェスをやっています。元々は元ヤクルトの古田敦也さんの本を読んでいて、『データで野球をする、将棋をやるように野球をする』というような内容が書かれていたんですよね。それをゴルフに置き換えたときに1人競技だからもっと(将棋のようにプレー)できるかもと思って、将棋とチェスを始めたんです。最初はルールを覚えるのが大変でした(笑)」
共通点がありそう。やってみたい。そう思って終わり、というパターンが多いが、やろうと思ったらやるという実行力が植竹の強み。早速、オンライン将棋ゲームでルールを覚え、実戦を重ねる中で、マネジメントにも変化が生じてきたという。
「他のプロもそうだと思いますが、ピンポジに対してどこに落とせばいいか、そこに打つためにはセカンドショットをどこに打てばいいか、一番打ちやすい位置を探して、さらにそこに打つためにはティをどこに差せばいいかな、どういう球を打てばいいかなと考えるんです。そういった逆算するスピードが速くなったと思いますね」
ティを差す、その瞬間にはもうバーディパットをどこから打つのかのイメージができている。どのプロもやっていることだろうが、処理のスピードが速ければ、早い段階で戦略を確定でき、迷いなくショットに臨めるのは想像に難くない。
さらに今年は新たな試みとして初めてプロキャディを採用。「テストの問題用紙を2人で解いているという感覚」と好感触を得ている。
「今年のNECで初めてプロキャディをつけたんです。いつも自分1人で考えていたのを全部先に計算してくれて、テストの問題用紙を2人で解いているという感覚でした。だからケアレスミスがない。ミスの幅が狭まって、頭も疲れないので打つことに対しての集中力が上がったし、精度も良くなって、不安要素がなくなったと思います」
ゴルフを将棋だと仮定した場合、二人がかりで“指す”メリットはたしかに大きいはずだ。すべてをゴルフのために。いつだってそう考えるからこそプロキャディに帯同してもらうことのメリットを誰よりも感じ取れるのかもしれない。
なにもそこまでやらなくても……と周囲が思うことを徹底的にやって全米オープンに勝ったのがブライソン・デシャンボー。植竹のやっていることも、いつかきっと実を結ぶに違いない。
事実、今年は6戦して予選落ちはわずか1度。トップ10も一度あり、トップ20が2度、30位台が2度と安定している。ステップ・アップでの戦績はさらに見事で、開幕戦の優勝以降も、3試合連続でトップ10フィニッシュ(うち1試合は2位タイ)している。
かつてないレベルの戦いが繰り広げられている国内の女子ツアーだが、植竹希望はなにかやってくれそうな気配を持っている。