世界ランク1位のDJが横綱相撲で勝った。そんな印象だった今年のマスターズ。84回の歴史のなかで優勝したDJが史上初めて20アンダーというスコアに到達し、2位タイのキャメロン・スミスは4日間連続60台のスコアというこれまた史上初の偉業を達成しながらも、優勝には手が届かなかった。
厳しい寒さとタフなコースコンディションがマスターたちを苦しめるだろうという戦前の予想は覆され、超ハイスコア決着となった今年のマスターズ。その影響は「次のマスターズ」に確実に出ると井上透は分析する。
「(2021年4月のマスターズで)優勝するには、仮にセッティングが同じであれば21アンダーを目指さなければなりません。DJを越える21アンダーのプレーを自分がするにはなにをすべきかというところから、技術やトレーニング、クラブセッティングなどを考える必要があるということです。飛距離は300から310ヤードがキャリーで必要。200ヤードをピンポイントで狙えて、アプローチではスピンを自在に操ることができる。そのレベルが求められます」
DJが20アンダーというスコアの壁を突き抜けたことで、今後はそれ以上のスコアが優勝のためのベンチマークとなる。もちろんスコアはコースコンディション次第なのでもっと低い数字になる可能性は大いにあるが、少なくとも「DJが今年20アンダーを出したプレー」を上回らなければ勝てない。そう考えるのが世界のトップだということだ。
誰かがスコアの壁やプレーの限界を壊すと、他の選手たちがそれに追いつくべく研究と努力を重ね、さらに限界を超えていく。その絶え間ない循環が、PGAツアーを世界最高峰の環境に保ち続けている。そして、それを可能にする要因のひとつが“データ“だと井上は言う。
「トラックマンやGCクワッド(いずれも計測機)を使って、PGAツアーの選手たちは1打ではなく、0.1打を命をかけて削り出している。その背景には、PGAツアーが出しているスタッツ(部門別データ)の存在が大きい。たとえばパーオン率は近くに乗せても遠くに乗せても率は変わりませんが、(PGAツアーの場合)どの距離からどれくらいに寄せたかまでが詳細にわかります。そのため、データをもとにした客観的かつ的確なトレーニングができるんです」
客観的なデータに基づき、課題を明確にした上で練習をし、トレーニングを行い、クラブセッティングを組み上げる。コースに出ればキャディの存在を除けば主観がほぼすべてのゴルフというゲームにあって、世界のトップたちは計測機、スタッツといったデータに基づいてレベルアップをしている。そして、DJの20アンダーという数字が刻まれた今、次のマスターズではどんなプレーが見られるのだろうか。答えが出るのは早くも5カ月後、2021年の4月だ。