ミスの経験が重なり、思い切り振れなくなっていた
賞金女王争いも、シード権争いもない。そこに無観客も加わり、今年のエリエールレディスは独特の雰囲気の中行われている。
二日目が終わり首位に立ったのは笹生優花、西村優菜の二人。そんな中、久々に上位に顔を出したのは、松田鈴英。今年は予選落ちが半分と、不本意なシーズンを送っていたが、今大会は黒宮コーチをキャディに起用し、今年初めて予選二日間をアンダーでまとめた。今年の不調、そしてこの二日間のできについて、キャディとして一番近くで見ていた黒宮コーチに電話で話を聞いた。
「今年は予選落ちが続いて、技術的に足りないところがあるのかと思っていました。でも、練習を見ても、スウィングの見た目もデータもまったく問題ありませんでした。むしろ、昨年よりよくなっているほどです。それに、今回練習ラウンドを見ていても、めちゃくちゃいい球が出る。それなのに試合になると上手くいかない。多少の差なら、それほど気にならないんですが、人が変わったようになってしまう。じゃあなんで上手くいかないかと思ったときに、やっぱり気持ちの部分が大きいんだと感じましたね。初日の数ホールを見て、確信しました」(黒宮コーチ)
技術は十分でも試合で結果が出せない。そんな日々が続けば、それがやがて焦りに変わる。焦ることで、スウィングにも悪影響を及ぼしていたと黒宮コーチは分析する。
「練習ではしっかり振り切れるのに、試合になると、真っすぐ飛ばしたくて合わせにいくスウィングになっていました。ミスの経験が重なり、思い切り振れなくなっていたんですね。具体的には、切り返しからダウンスウィングにかけて、上体が先に動いて下半身が止まっていました。本来は逆で、下から順番に動いてこないと体を使ったスウィングはできません。だから、曲がってもいいからしっかり振ることだけ考えろと伝えました。それで曲がったらそこから考えればいい。でも、やるべきことをやって、振り切れたら、球はそんなに曲がりません。そのことに、“試合で”気づいてほしかったので、初日の5ホール目くらいで言いました。少し、強い言い方になってしまったのですが……そこから彼女の目が変わったように思います」(黒宮コーチ)
焦れば焦るほど失敗を重ね、それがやがて怖さとなり、振れなくなる――。当然、成績は出なくなり、気持ちは落ちたまま……それでも試合は毎週ある。ここ数試合は怖さしかなかったのではないかと黒宮コーチ。そして、一番の薬は“成功体験”だと話す。成功を重ねることでしか、自信は取り戻せない。黒宮コーチは、そのきっかけになってほしいとの思いを込めて、松田に伝えた。そして松田は、その言葉を機に吹っ切れたのか、初日を2アンダー、2日目も1アンダー、トータル3アンダーで8位タイの位置に。
「2日間アンダーで回れたのは、彼女にとって少し自信になると思います。自信を取り戻せばもっと彼女らしいプレーができるはずです。彼女の技術力なら、スコアが出ないほうがおかしいですから。気持ちを強く持ってあと2日、戦ってほしいですね」(黒宮コーチ)
黒宮コーチに闘魂注入され復活した松田。明日以降、彼女の爆発に期待したい。
写真/岡沢裕行