普段と違う舞台で活躍できるメンタルは「空気を読まない力」
近年ゴルフや野球、サッカーなど国内で活躍していた選手が海外のメジャー大会やリーグに参戦する姿を多く見るようになり、私たちの楽しみも増えたように思えます。
海外メジャーに挑戦するプロゴルファーにおいても、国内で素晴らしい結果を出せていても海外ではなかなか結果を出せないでいるゴルファーもいます。
もちろん、このような結果の裏には多くの成功要因、失敗要因が含まれているものだと思います。コースや芝の違い、技術面、フィジカル面、語学力、天候や気候への順応度、メンタル面など沢山の要素が複合的にからみ合い結果に繋がっています。
ここではではメンタル面に特化して海外メジャーなど普段の自分のいる場所と違う舞台で活躍できるゴルファーとそうでないゴルファーについてメンタルコーチ的目線で考えていきたいと思います。
さて、海外メジャーなどで活躍するために必要なメンタルスキルは、ありきたりの言葉ですが「集中力」が挙げられます。ある意味、「空気を読まない力」と言ってもいいかもしれません。海外という慣れない環境で、いかに他人の評価や想定外のミスなどを気にせずにプレーに没頭できるかという集中力が絶対的に必要になります。
ちなみにゴルファーが集中力を低下させてしまう思考要因はたくさんありますが、その中でも代表的な二つの要素「過去への思考」と「未来への思考」という視点で昨年末に開催された全米女子オーブンに出場した選手のコメントなども参考に解説してきたいと思います。
はじめに「過去への思考」について解説します。想定外のミスや大きなミスに対して「なぜあんなミスをしたのだろう?」と過去への思考が向いている状態では、ミスへの雑念が多く前頭葉の使用容量が多くなり、今ここの目の前のワンプレーへの集中力は低下し、脳も疲れやすくなります。
原英莉花選手を例に挙げると、初日の出だしをダブルボギーでスタートし予選ラウンドの2日間を12オーバーと原選手らしからぬ成績で終えました。初日のコメントで「一つのミスショットが尾を引いてしまう」と語っていたことから、過去の結果を手放し目の前のプレーにうまく思考を切り替えられなかったと考えられます。過去の記事でも申し上げましたが、試合では「過去はコントロールできない」と過去思考を切り離し、今に目を向ける思考パターンをつくることが大切です。
一方で最終日まで優勝争いを展開した渋野選手は初日が終わっての「100点以上、出木杉くんです(笑)」という言葉にもあったように、想定以上に良いゴルフ、スコアが出せたことで2日目まで過去への思考が少なかったように思えます。しかし、決勝ラウンドの3日目、4日目は我慢のゴルフになりミスが増えることで過去への思考が本来の集中力を奪ったように感じられます。
集中力を奪うものの二つ目が「未来への思考」です。「今日もトップを維持して終わりたい」「最終的にスコアを崩したら嫌だ」など、未来の理想や不安を考えすぎると過去への思考と同じように「今ここへの集中」を低下させてしまいます。
渋野選手は2日目を終わりトップに立ちました。試合後のインタビューで「(スタートからの)2日間のようにはうまくいかなくて、やっぱり首位にいるという緊張感が最初からあった」と語っているように、首位をキープした3日目からは、考えないようにしても頭のどこかで首位にいることへの意識や勝利への意識をせざるをえなくなったのはないでしょうか。
他の試合後のインタビューでも「(優勝した2019年の)全英女子オープンの最終日は何も考えてなかった」と言っていましたが、全英女子オープンでは冒頭で記した「空気を読まない力」、つまり過去や未来を見ずに今に没頭することができていたのです。
もちろん、経験やキャリアが長くなることで考える視点が増えるからこそゴルフの引き出しやマネジメントの幅も広がるわけですが、デメリットとして「空気を読めるようになる」ことで未来の勝利や結果への意識が生まれ、目の前のプレーへの集中力を奪ってしまう傾向にあります。
このように「過去」や「未来」への思考は特に慣れ親しんだ日本の環境ではなく、海外のアウェイな環境のほうがマネジメントが難しくなります。それらへの対処として色々とメンタルトレーニングの方法はあるのですがやはりおすすめなのはマインドフルネス(『今という瞬間に意識のすべてを向ける』という意味合いの言葉、またそれを実践するための方法)です。
今回は海外メジャーで戦う選手に必要だと感じる「空気を読まない力」について記していきました。一朝一夕で身につくスキルではないので必要なゴルファーにはぜひ実践してほしいメントレです。