先日開催されたマスターズで日本勢初、アジア人初の優勝を果たした松山英樹選手。優勝の瞬間に解説、ゲストの方が号泣をし、またテレビの前のファンも多くが涙したのは「日本人がマスターズで優勝することは難しい」という想像の限界を超えた姿がそこにあったからではないかと感じます。
想像を超えた状況でも最後まで自分のベストを尽くされた松山選手の姿が本当に感動的な優勝でした。それでは松山選手の印象的なコメントから大舞台でどんなメンタリティがパフォーマンス発揮につながったのかを、メンタルコーチの目線で解説していきます。
まずは3日目に65のスコアをマークし、首位に立った際のコメントから。
「この3日間、あまり(心に)波を立てることなくあまり怒らずできた。明日はそういうことが大事になって来ると思う。それができればすごくチャンスがあるんじゃないかと思います」
このコメントから最近の試合や今回のマスターズで「心に波を立てることなくプレーする」という心理面の目標があったことがわかります。過去の試合ではミスに対していら立ちクラブを叩きつけることもあった松山選手ですからいら立ちが後の好プレーにつながらずにスコアを崩す傾向があることなどが自己分析できていたのでしょう。
また、優勝後の「自分のベストを尽くすことだけを考えて(プレーした)」というコメントからも、ミスや想定外の状況に対しても波を立てることなくプレーするために「毎ホール、ワンプレーで自分のベストを尽くす」という「今ここ」への集中も大きなテーマの1つだったのでしょう。
「自分のベストを尽くす」とはありきたりでアスリートであれば誰もが使う言葉ですが、本当に今日のベストを尽くすことに目を向けられているゴルファーも多くはないです。人は気がつけば過去のミスを悔いたり、未来の結果に対して不安になったりするもの。コントロールできるのは「今のワンプレー」だけなのは分かっていてもそれを実践するのは簡単ではないことです。きっと、強く強くワンプレーへの集中を意識していたのではないでしょうか。
さらに「夫人、家族や友人の応援に対してどういう想いがあったか?」という問いに対して松山選手は「それを考えずにずっとプレーしていたが、本当にいいプレーを見せられて良かったです」と語っています。試合中は他者評価や外的要因をできるだけ考えずにそれらの思考を手放していたようで、これも目の前のプレーへのパフォーマンス発揮には重要です。
私もメンタルコーチとして多くのプロアスリートのサポートをしてきていますが、他者評価や他者期待に対してアスリートにより2種類のとらえ方があります。1つ目が他者から観られていること、大きく期待されていることが良いプレッシャーとなりプレーへの集中力が増すタイプ。2つ目が他者からの目線や期待がプレッシャーとなり、プレーへの集中力を欠かせる要因になるタイプ。おそらく松山選手は自分が後者だということを知っていたからこそ、「それ(他者評価・他者期待)を考えずにずっとプレーした」というメンタルマネジメントをしていたのでしょう。
しかし、最終日のゴルフは本当に難しい心理状態でのゴルフだったことは間違いないでしょう。日本人だけでなくアジア人も踏み入れたことがない前人未到のマスターズ制覇に向け、最終日をトップでスタートする際、松山選手には想像以上のプレッシャーが押し寄せていたはずです。
記者から「どれほどのプレッシャーがあったのか?」という問いに「そうですね。今日は朝からずっと緊張していたので、最後まで緊張しっぱなしで終わりました」とコメントしているように、最終日はどうしても「優勝」というものを意識せざるを得ない状況でプレーしていたことが伝わってきます。この緊張感の中で優勝をたぐり寄せた成功体験は、松山選手だけでなく日本人ゴルファーの自己効力感、いわゆる自信を高めてくれます。
最後に、コメントで「これまでメジャーで勝てなかった僕が勝ったことで、これから先、日本人が変わっていくんじゃないかと。僕がもっともっと勝てるように頑張りたいです」という言葉にさらなる松山選手のモチベーションが表われています。
さらなる野望に向けて進む松山選手のメンタリティに、今後も注目してきたいと思います。