「この地(クエール・ホロー)は愛称のいいコースで、初めてこのコースにきて以来、大好きなコースだ。過去3勝を挙げた選手はいないという話だし、とても最高だよ」
マキロイは昨年3月、コロナ禍でツアーが休止するまでは、絶好調だった。2019年にフェデックスカップで総合優勝を果たし、2020年シーズン初頭の6試合では、「WGC・HSBCチャンピオンズ」で優勝。他の5試合でも、全てトップ5入りを果たすほど調子がよかったのだ。
だが、ディフェンディングチャンピオンとして臨んだ「プレーヤーズ選手権」が、コロナウイルスの影響で中止になってからというもの、ツアー再開後の試合では、中断前の勢いはなりを潜め、「ミニスランプ」に。世界ランクでもトップ10から外れ、予選通過はしているものの、優勝争いに加わることはなかった。
その最大の原因は、昨年の9月に開催された「全米オープン」で優勝したブライソン・デシャンボーにあった。デシャンボーはコロナでツアー中断中に肉体改造を試みた結果、圧倒的な飛距離をゲット。難コースとして知られるウィングドフットでの「全米オープン」を力でねじ伏せて優勝した。それを見たマキロイは「自分もスウィングスピードがもっと欲しい。飛距離が欲しい」と考え、スウィング改造に踏み切ったのだ。
これに対し、マスターズチャンピオンのベルンハルト・ランガーは「ロリーは、なぜそんな改造をするんだ? 十分飛んでいるじゃないか。私はデシャンボーのように飛ばそうとしている彼が理解できないね」と苦言を呈している。
望む成績を挙げられず、スウィング作りに悩んでいたマキロイ自身も、「デシャンボーのようになりたい」という考えが過ちであることに気づき、路線修正を試み始めた。自分の持ち味、長所を生かしたゴルフを取り戻そうと考えたのである。「どうすれば調子のいいゴルファーになれるのか、どうスウィングし、どうクラブを動かせばいいのか」――これらはもともと彼自身が慣れ親しんだものであり、目新しいことではない。自分自身を取り戻すため、彼は、欧州のカリスマコーチ、ピート・コーウェン氏をコーチにつけた。
コーウェン氏は、ヘンリク・ステンソン、ブルックス・ケプカなど何人ものメジャーチャンピオンを輩出している人物で、ドバイを拠点にアメリカにも頻繁にきては、選手たちのスウィング作りをサポートしている。マキロイは、幼少の頃から北アイルランドのマイケル・バノンだけにスウィングの指導を受けてきたが、バノンがコロナ禍で渡米が難しいことと、高齢のため遠距離の旅が難しいこともあり、長年ツアーで互いによく知っていたコーウェンにコーチを依頼したのだった。
「先週、フロリダ(自宅)でピートに見てもらったが、いいセッションができたよ。彼は僕のスウィングがよくなっていることや、なにがうまくできているのかを理解させてくれた。そして、ボールを打つ時の体の回転について、思い出させてくれたのはすごく大きい。もっと右サイドを回転させれば、自然ともっといい軌道でクラブが降りてきて、最終的にはいいショットにつながると理解させてくれたんだ」
マキロイは技術面だけでなく、メンタル面においても新しい取り組みを始めている。ゴルフ界では非常に有名なスポーツ心理学者、ボブ・ロテラ氏と契約し、アドバイスを受けているのだ。コーウェンは技術面とメンタル面のバランスについて、マキロイに以下のように語っているという。
「もし私がいい仕事をしていなければ、ボブの仕事もうまくいかない」
つまり、技術面の指導がうまくいっていなければ、メンタル面の指導もうまくいかないというのだ。コーウェンとロテラの「心・技」の指導がうまくいっているおかげで、マキロイは自分自身を取り戻し、優勝できたと言っていいだろう。
コロナパンデミックにより、いろいろなことが変わってしまったマキロイの人生。特に、エリカ夫人との間にポピーちゃんが誕生し、父親になって初めての優勝だっただけに、彼の人生でも忘れられない思い出になったはずだ。
「母の日に勝てて、エリカのこと、故郷の母のことを思い出した。すごくいい気分だ」
来週は、海外メジャー第2戦「全米プロゴルフ選手権」がキアワアイランド・オーシャンコースで開催される。マキロイは同コースで2012年時に全米プロ優勝を飾っているが、その直前で優勝できたことは、彼にとってこの上ないタイミングだ。
「間違いなく、すばらしいタイミングで勝てたね。自分のゴルフが(2012年に)優勝した時の状態に近づいていると、大きな自信になった。今は完璧とは言いがたい状態だけど、正しい方向に向かっている」
自信を取り戻したかつての世界ランク王者が、完全復活への道を辿っていることは間違いない。眠れる獅子が目を覚まし、2014年「全米プロ」優勝以来のメジャー復活優勝を、かつて勝利したコースで実現できるだろうか?