大会4日目の日曜日にやっと予選ラウンドが終わろうかという波乱の展開となっている米ツアーのプレーヤーズ選手権。現地で取材に当たっている週刊ゴルフダイジェストのツアー担当・ケンジロウが感じた日米のトーナメントの違いとは?

こんにちはケンジロウです。フロリダのジャクソンビルよりお届けしています。そう、今週はPGAツアーの第5のメジャーと言われるプレーヤーズ選手権の取材に来ております。

今年のプレーヤーズ選手権は、事前にはまったく想像もつかない予想外の展開になりました。

まず驚かされたのが、松山英樹のケガによる棄権です。木曜日のスタート前、練習場で何球か打ってウォーミングアップしたあと、「さあこれからしっかりと球を打つぞ」というときに、松山選手はバックスウィングの途中で顔をしかめて首を横に振りました。

「フルスウィングは無理だ」

そんな言葉を早藤キャディと交わしたように見えました。その場でグローブを外し、トーナメントオフィスに顔を出して棄権する旨を伝え、足早に会場を去っていきました。

 前週に首から肩甲骨の辺りを痛めていて、今週は練習ラウンドもまともにできず、ほとんど練習もできていませんでした。マスターズまでもう1か月を切っていますから、このタイミングでの棄権はちょっと心配ですよね。自宅のあるオーランドに帰って、治療に専念する模様です。しっかりと治して早く帰ってきてほしいですね。

予想外の展開のもうひとつは「悪天候」です。雷、大雨、強風、そして気温の低下……。とくに雨はフェアウェイに水たまりができるぐらいの土砂降りで、フロリダでこの時期にこれだけ悪天候が続くのは珍しいとのこと。気温もだいぶ下がっていて、土曜日の最低気温は氷点下にもなりました。

実際にこの一週間はまるで全英オープンのように天気が目まぐるしく変わりました。練習日の火曜日は快晴で気温も高く、半袖と短パンで過ごせる陽気でしたが、試合の始まる前の水曜日から天気が下り坂に。

水曜日の夜から雨が降り始めて、木曜日のスタートは早くも1時間ディレイ。その後も試合初日は雨が降り続き、お昼過ぎには雨でプレー中断。プレー再開は翌日金曜日となりましたが、金曜日はもっと雨がひどくなり、途中でまたまたサスペンデッド。

結局、金曜日が終わった時点で、1stラウンドが終了していない状態でした。

画像: 強風で帽子が飛ばされぬよう、初めから被らないでプレーするジョーダン・スピース(写真上)とブルックス・ケプカ(写真下) (写真は2022年 プレーヤーズ選手権 撮影/KJR)

強風で帽子が飛ばされぬよう、初めから被らないでプレーするジョーダン・スピース(写真上)とブルックス・ケプカ(写真下) (写真は2022年 プレーヤーズ選手権 撮影/KJR)

 選手たちの服装も、練習日は半袖だったのが、試合が始まるとセーターを着たり、はたまたレインウェアを着たり、ニット帽をかぶったりと、プレーする選手も大変ですよね。松山英樹もケガ負いの状態で無理して出なくてよかった、そう思ってしまうぐらいの悪天候です。このままいくと試合予備日の月曜日を使うのは確定で、土曜日の天候いかんでは、「最終日は火曜日にもなるのでは?」と話す現地記者もいるほどでした。

そんな中、金曜日の午後に、今後の天気の状況を鑑み競技委員長が会見を開きました。そこで発表されたのは以下のこと。

・月曜日は使うが、火曜日までは持ち越さない

・土曜日は午前中が悪天候なので最も早くて12時スタート。朝の7時にもう一度、スタート時間を何時にするか判断する

・土曜日は風が強いのでテントやゴミ箱などを撤去する

・プレーオフがあったとしても月曜日の18時半までに終わる

会見を聞いていて思ったのが、彼らは競技短縮などは考えておらず、とにかく、「プレーヤーズ選手権」という大会を次の試合に迷惑がかからないように月曜日までに終わらせるということに尽きます。アメリカは日曜日にサマータイムに変わるので、それによって日没も遅くなるところまで加味した判断でした。

画像: 競技委員長のゲーリー・ヤング氏の口から月曜日まで使って、次の試合にも迷惑がかからぬよう72ホールで競技を成立させると発表された(写真は2022年 プレーヤーズ選手権 撮影/KJR)

競技委員長のゲーリー・ヤング氏の口から月曜日まで使って、次の試合にも迷惑がかからぬよう72ホールで競技を成立させると発表された(写真は2022年 プレーヤーズ選手権 撮影/KJR)

 私が今回書きたかったのは、このPGAツアーの「試合をやり切る姿勢」についてです。PGAツアーにはいつもながら「72ホールを完走させる」という意思を強く感じます。ファンの安全はもちろん保ちつつ、さらに試合の面白みも残したまま、次の試合にも影響のない範囲で走り切るわけです。

 これだけの悪天候になると、日本であればすぐに「競技短縮」が頭によぎりますがこちらはそもそも「競技を短縮する」という発想がないように思えます。ゴルフ競技は72ホールやってなんぼ、プライオリティの第一がそこにあるように思えます。選手も72ホールやることへの疑いがまったくなく、ツアーが決めた変更に対して、最善の準備をし、その中でいいスコアを出すように努めています。
 ローリー・マキロイやダスティン・ジョンソン、ジョン・ラームなど、世界ランク上位のそうそうたるメンバーの選手たちが、不満も口にせず黙々とプレーしています。不測の事態でも迅速に対応するツアーのやり方に信頼をおいているんでしょうね。

今回、ゴルフネットワークのラウンドリポーターで現地を訪れていた杉澤伸章さんもPGAツアーの対応に舌を巻いていました。
「2ndラウンドのホールロケーション(ピンポジ)を木曜日の夜に一度発表したのですが、金曜日の朝に再度12ホールを修正して発表したんです。バンカーを絡めないようにしたり、いつもよりセンター寄りに切ったり、フラットな場所にしたりと、よりやさしいピン位置に変更したんです。
 なぜそうしたかというと、金曜日は大雨、強風の予報だったので、ただでさえプレーが遅くなる。なんとか月曜までに試合を終わらせるため、ピン位置をやさしくして時間がかからないようにしたわけですよね。たとえば3番パー3は2段グリーンですが、当初は段をのぼってすぐの右上の狭いところに切っていたのを、修正後は手前の広いところに切り直しました。4番のパー4も左の池に近かったピンポジを、より安全に狙える右サイドに変更しました。そのいっぽうで浮島グリーンの17番ホールは、伝統あるピン位置をそのまま使用しています。プレーを遅らせないように配慮しつつ、試合の面白さも残す。そのあたりの匙加減がうまいなぁと思いますよね。
 またそうした情報も随時Twitterで更新しているので、選手も関係者もみな「えっ!?」とはならないんですよね。今週は本当に想定外の天気だと思うんですが、PGAツアーの想定外に対しての適応能力が凄い。トップダウンで作業も迅速、そして大きな組織なのにとってもフットワークが軽い。また決断したことについての情報も惜しみなく発表しているので、どこからも不満が出ない。
 プロゴルファーはスコアを出すのがプロですが、PGAツアーはまさに試合を成立させるプロだと思います」(杉澤)

画像: 72ホールの試合をやり切るために1度発表したピンポジションもやさしい位置に変更された。緑が2日目の新しいポジション、青が2日目の元々のポジション、赤が初日のポジション(写真は2022年 プレーヤーズ選手権 撮影/KJR)

72ホールの試合をやり切るために1度発表したピンポジションもやさしい位置に変更された。緑が2日目の新しいポジション、青が2日目の元々のポジション、赤が初日のポジション(写真は2022年 プレーヤーズ選手権 撮影/KJR)

土曜日は平均13m/sという強風の中、名物の17番ホールではじつに29個のボールが池に吸い込まれました。史上まれにみる悪天候のプレーヤーズ選手権。果たして、現地月曜日の夕方、賞金4億円を手にしているのは誰なのでしょうか?

*「PGAツアーレポート」は毎週火曜日発売の週刊誌でも紹介していします。そちらも合わせてお楽しみください!

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