メジャー第1戦「マスターズ」が4月7日から4日間の日程で開催される。日本からはディフェンディングチャンピオンの松山英樹、金谷拓実、中島啓太の3選手が参戦。プロゴルファー・中村修が現地からのレポートをお届けします。

前週の女子メジャー「シェブロン選手権」で渋野日向子選手の4位タイフィニッシュを見届けたあと、オーガスタに移動してきました。オーガスタ空港に到着するとクラブハウスのような内装で、レイモンド・フロイドの銅像や松山英樹選手が表紙を飾るフリーペーパーが目に留まります。

画像: 空港からマスターズの気分が盛り上がる! フリーペーパーの表紙には松山英樹

空港からマスターズの気分が盛り上がる! フリーペーパーの表紙には松山英樹

一夜明けていよいよオーガスタへと向かうと、プレスルームは今まで見てきたメジャー大会のプレハブのそれとは違い専用に作られた大きな建物で、ホテル並みのレストランや400名以上の席が用意されていて、まるで大学の大きな講堂のようでその規模や設備に驚かされます。すべての食べ物や飲み物は無料でメニューも朝食、昼食も豊富に選べるのはほかのメジャーでも同じですが、「マスターズ」は別格といわれる理由がここでも感じられます。

画像: 入場ゲートから1番ティーに向かうところには大きなリーダーボード。撮影スポットのひとつだ

入場ゲートから1番ティーに向かうところには大きなリーダーボード。撮影スポットのひとつだ

デスクにはタッチパネル式のパソコン画面が2台用意されていてリーダーボードやコース情報など必要な情報にアクセスできるように整っています。プレスセンターだけで浮足立つ気持ちをおさえつつ、打ち合わせを済ませ、いよいよコースに向かいます。火曜日の今日はお昼ごろから雷雨になる予報でしたので足早に写真を撮りながらコースを見て歩きました。

画像: プレスルームはほかのメジャーと比べても最大級

プレスルームはほかのメジャーと比べても最大級

1番ティーに向かう手前にパトロンたちが入場ゲートから入ってくる場所に大きなリーダーボードが設置されていて記念撮影のスポットになっています。そこからコースを見渡すと一面に敷き詰めらた緑の絨毯の中にオーガスタナショナルGCが広がっています。

オーガスタの空気を胸いっぱいに吸い込み、上り傾斜を歩いて1番ティーに向かいます。ティーの後ろにあるパッティンググリーンで早速、タイガー・ウッズに遭遇しました! 事故で負傷してから今回のマスターズで復帰するというビッグニュースは、驚きと喜びをもって世界中を駆け巡っています。足を引きずることなくさっそうと歩くタイガーに後ろ髪をひかれながらも、天候が悪くなる前に1番ティーからコースを歩いてみることにしました。

画像: 事故以来の復帰戦となるマスターズで足を引きずることなくさっそうと歩くタイガー・ウッズ

事故以来の復帰戦となるマスターズで足を引きずることなくさっそうと歩くタイガー・ウッズ

よくテレビ中継でコースのアップダウンが伝えられないと聞いてはいましたが、やはり実際にコースを歩いてみると本当にかなりのアップダウンがあることがわかります。1番ティーはクラブハウスと同じ小高い丘の上にあり、打ち下ろして2打目はグリーンに向かって打ち上げていきます。

画像: ティーイングエリアから打ち下ろして右にドッグレッグしながら打ち上げる1番ホール

ティーイングエリアから打ち下ろして右にドッグレッグしながら打ち上げる1番ホール

ほかのメジャーでは「インサイド・ロープ」というロープの内側を歩いてもいいというメディアの特権が得られるのですが、マスターズに関してはその特権はありません。パトロンたちと同じロープの外から観戦するのもマスターズならではです。もう一つ大事なことは、スマホをコースに持ち込んだことがバレるとその場で即刻退場となりメディアとして二度と登録できなくなると聞きます。練習日まではカメラを持参するパトロンも多いのですが、スマホで撮影しているパトロンはひとりもいませんので、スマホ持ち込みは要注意です。

中継を見てお気づきかと思いますが、オーガスタのフェアウェイは、芝を刈った際にできる順目と逆目のラインがありませんよね。これはすべて逆目に刈られているからなのですが、「昔は半分ずつ順目と逆目に刈られていたんだけれど、それだと打つべきラインの目安になるし、セカンドショットの難易度を上げるためのタイガー対策と言われているんだよ」と同宿に宿泊する宮本卓カメラマンが教えてくれました。

ロープに沿って歩くとフェアフェイ、ラフ、松の枝が敷き詰められたエリアに分かれていることに気づきます。タイガーが出現して以来、コースを伸ばしたりティーイングエリアを横に移動させたり高さを低くしたりと改修を重ねるオーガスタGCは、今年もマナーチェンジをして選手を待ち受けています。

画像: フェアウェイ、ラフ、松の枝が敷き詰められたエリアに分かれ最高のコンディションで選手を待ち受ける

フェアウェイ、ラフ、松の枝が敷き詰められたエリアに分かれ最高のコンディションで選手を待ち受ける

おっと興奮のあまり、まだ1番のフェアウェイまでしか話が進んでいませんでした……。ただここだけでも微妙にドッグレッグしていること、フェアウェイが傾斜していることにも気がつきます。

ドッグレッグしているとホールによってドローやフェードの弾道の打ち分けを求められることになります。そこにフェアウェイの傾斜が加わることで、難易度のスパイスが効いてきます。

たとえば、右ドッグレックのホールでライはつま先上がり、グリーン右サイドに切られたピンに対してはどんな弾道でピンを攻めてくるのか、といった攻め方をオーガスタは試してくるのです。

わずかに右ドッグレッグで距離の短い350ヤードパー4の3番ホールで、練習ラウンド中の一昨年の覇者ダスティン・ジョンソンに遭遇しました。ドライバーで打ったあと、グリーン周りからのアプローチを入念におこなっていました。

画像: 距離の短い3番ホールのグリーン周りで入念にアプローチをチェックするダスティン・ジョンソン(真ん中)

距離の短い3番ホールのグリーン周りで入念にアプローチをチェックするダスティン・ジョンソン(真ん中)

アップダウンやフェアウェイの傾斜の次はグリーン周りの難易度を見てみましょう。セカンドショット地点から打ち上げのホールでグリーンまで傾斜が続くホールもあれば、7番ホールのように打ち下ろしのホールですが、グリーン手前で傾斜が変わり砲台グリーンになるというホールもあります。

グリーン周りにはさまざまなマウンドやバンカーが設置されていて、ピン位置によって「ここに打って来なさい」とピンポイントで打っていく場所をホールから要求されます。「とりあえず、グリーンセンターに打っておこう」といったアバウトなマネジメントはこのコースでは一切許されないのがわかります。

かつてメジャー大会を制したボビー・ジョーンズがその年のマスターたちを集めて開催した大会ですから、しっかりと難易度を考えて待ち構える哲学がホールの隅々にまで散りばめられているのでしょう。ドライバーの弾道、セカンドショットの距離感と正確性、グリーンを外した際のアプローチの技術、すべてが求められます。

そして最後はグリーン上を見てみましょう。

画像: 打ち下ろしてから打ち上げになる9番ホールのグリーンは縦長でうねるようなマウンドに奥に向かって下る傾斜をもつ

打ち下ろしてから打ち上げになる9番ホールのグリーンは縦長でうねるようなマウンドに奥に向かって下る傾斜をもつ

オーガスタのグリーンは大きさも形もさまざまで、フェアウェイに対して斜めにグリーンを配置するレダンと呼ばれる手法はもとより、打ち上げのホールなのにグリーン面は奥に向かって下り傾斜になっていたり、エリアを分けるうねるような傾斜が所々に見られます。

中継画面でそんなに難しいのか、と思う場面もあると思いますが、実際にグリーン上でピン位置を想定して練習している選手を見ていると、ピン位置のエリアに打てなかった場合のパットは、上り下りに左右の傾斜が入り組んだ難易度の高いパットを要求されることがわかります。

11番のグリーンまで歩いたところで雷雨警報が鳴り響き、予報では回復の見込みがないことからコースはクローズになり、すべてのパトロンたちも引き上げなければなりませんでした。11番グリーンの横には、短いながらも難易度の高い12番パー3が待っていました。オーガスタの難易度を上げるもうひとつのエッセンス「風」については、明日現地で確認してお伝えします。

画像: 11番グリーンでは釣竿のような棒でバンカーの砂を払いながら刷り込むボランティアを見かけた

11番グリーンでは釣竿のような棒でバンカーの砂を払いながら刷り込むボランティアを見かけた

最後に日本では目にしない光景を紹介します。グリーン周りのバンカーからグリーン上に散らばったバンカーの砂を釣竿のような伸縮する棒でグリーンに刷り込むボランティアの姿を見ました。先が細くなっていて長さは3メートルほどで縮めると人の背丈ほどになるもので、ボランティアの人に釣竿みたいだねと声を掛けると「軽くて砂を払うのにちょうどいいんだ」と笑顔で答えてくれました。

そうそう、たくさんのボランティアの人やセキュリティの人が各ホールに配置されているのですが、どの人も笑顔で「エンジョイ、マスターズ」と声をかけてくれます。なんだかディズニーランドに入場したときの気分を思い出しました。ゴルファーにとっては夢の舞台、夢のコースを歩く機会に恵まれたことを改めて感じながら日曜日までレポートをお届けします。

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