3年前の「ZOZOチャンピオンシップ」で見た、あのタイガーが帰って来ました。自動車事故のけがの度合いは足を切断することも選択肢にあったといいますから、どれほどのリハビリに耐え抜いてきたのか、復帰戦にマスターズという最高峰の舞台を選んだのか。マスターズで復帰するからにはそれだけのレベルにちゃんと戻せているということなのだろうかと、いろいろ考えましたがスーパースターにそんな心配はご無用でした。随所にタイガーらしいプレーを見せ1アンダー10位タイと上々の滑り出しを見せてくれました。
練習日を含めてギリギリまで出場するか確信をもてない状況でしたので、今日、朝の練習場に現れたときには、久しぶりにタイガーのプレーが見られる! と素直に喜びました。スタートは松山英樹選手のひと組前の10時34分だったのですが、朝方の雷雨のため30分遅れてのスタートになりました。
タイガーの練習を見てから1番ホールに向かうと、昨日までとは比べ物にならないくらいの人垣が幾重にも重なり、しかもここはアメリカ、背が高く体の大きい人ばかり……。
少し離れた場所から陽光がタイガーを照らす復帰初日の第1打を見守ると、右のバンカー方向へ……。さすがのタイガーでも復帰1打目は緊張もあったのではないでしょうか。しかし、2打目をグリーンに乗せるも傾斜でエッジまで戻ると、段の奥30ヤードに切られたピンに対するアプローチを見事に寄せてパーで発進しました。
2番では先回りしないとタイガーのプレーは間近では見れないと思い、2打目はあきらめてグリーンへと向かいます。3打目のアプローチはタイガーらしく引き球でキュキュッとスピンを効かせ寄せてきます。惜しくもバーディは奪えませんでしたが、ショットもショートゲームもタイガーのプレーが戻ってきていると感じました。
455ヤードと距離のある5番ホールは残り220ヤードあまりをアイアンでピンに4メートル弱につけるナイスショット。続く180ヤードパー3の6番ホールでは、ライン出しショットでピンの根元に落とすと大歓声は数ホール先まで聞こえるくらいの大きさで、夢のマスターズの舞台でタイガーのスーパープレーをこの目で見ていることに思わず歓声を上げていました。
8番パー5で、50ヤードほどの3打目をグリーンに乗せられず、寄らず入らずのボギーとしたことに関してラウンド後の会見では「失望したよ」と話しましたが、9番では左の林の中からパーをセーブし流れを引き戻します。
今日は朝から風がありました。オーガスタの難しさは丘陵地のアップダウン、左右のフェアフェイの傾斜、グリーン周りとグリーン上だけでなく、風というエッセンスが加わると難易度は大幅にアップしスコアが伸びなくなります。しかしオーガスタでの経験豊富なタイガーであればこそ、12番からの難ホールを攻略できたのではないでしょうか。
距離のあるアゲンストの11番、その横に位置する有名な難しいショートホールの12番。ひとつ後ろの松山英樹選手は池に入れてナイスボギーで上がりましたが、横にある11番グリーンの旗を見ると右から左の横風なのですが、12番のグリーンではアゲンストになっています。ティーイングエリアから30ヤード離れたスタンドではアゲンストは感じられませんでしたが、ティーイングエリアのロープ際まで行くとかなりのアゲンストを感じました。このホールで距離感を合わせる難しさが少し理解できたような気がしました。
タイガーは12番ををピンの左に乗せパーとすると、大きく左にドッグレッグする13番で2オンしバーディを奪いますが、14番でまたしても左の林に曲げます。グリーン奥まで運びましたが寄せきれずにボギーとします。
しかし16番の池越えのパー3でまたしても、あの大歓声を生んでくれました。奥いっぱいに切られたピンにアゲンストの中、手前8メートルからのバーディパットがカップに沈むと大歓声が一気に湧き上がります。「これぞマスターズ!、これぞタイガー・ウッズ!」という瞬間を味わせてくれました。
18番でもドライバーを左に曲げセカンドショットをレイアップすると、奥の段の上に切られたピンに対して70ヤードあまりの3打目をスピンでピタリと止めてみせました。このときもグリーンを囲んだパトロンたちの大歓声にニンマリしてしましました。
じつはこのショットを間近で見られたのにはマスターズならではのルールのおかげ。折りたたみの椅子をティーやグリーンの決められた場所に置いておくと戻ってきたときに自分の椅子に座れるようになっているのです。椅子はオーガスタのショップで30ドルで売っているのでたくさんのパトロンが購入しゲートが開くと同時に歩いて椅子を置きに行くのです。
タイガーは、復帰第1戦目の風のあるオーガスタの初日を1アンダーで終えました。オーガスタナショナルGCはご存じの通りアップダウンが強いのですが、グリーンを終えて次のティーに向かう際も上っていくことが多いので、とくに後半の上りホール17番、18番の打ち上げの2ホールはかなりの負担がかかるのではないかと思っていました。
しかし最後までしっかりとした足取りで回り切り、最後のパーパットを決めると手を挙げて声援に応えていました。そこには、この場に帰ってこれたというホッとしたような笑みがあったように思えました。
パトロンたちにとっては「タイガーのいないマスターズは寂しかった、帰ってきてくれてありがとう!」とお互いが称えあっているような光景に初日から胸がいっぱいになりました。
明日の2日目は、イーブンパー19位タイで終えた中島啓太選手、3オーバー60位タイで終えた金谷拓実選手を追いかけてみようと思います。
撮影/Blue Sky Photos