かつては、横尾要、片山晋呉、宮里優作、有村智恵、佐伯三貴などのバッグを担いだ佐藤賢和(よしかず)キャディ。今は石川遼、イ・ボミ、渋野日向子らのバッグを担いでいるが、プロキャディの先駆けでもある彼は、2013年の全英女子オープン(セントアンドリュース・オールドコース)で佐伯三貴のキャディをやった。佐伯は2日目を終えて首位と1打差の2位に立ち、最終的に7位タイに入った。その奮闘劇を、オールドコースの攻略法とともに振り返る。

「ベスト10ならロレックス買ってくれる」冗談がまさかの現実に…

佐藤賢和キャディほど、全英オープン&全英女子オープンでバッグを担いだことのある日本人プロキャディはいないかもしれない。2013年の佐伯三貴(セントアンドリュース)、同年の片山晋呉(ミュアフィールド)、2014年の石川遼(ロイヤルリバプール)、2019年の浅地洋佑(ロイヤルポートラッシュ)、2019年のテレサ・ルー(ウォーバーン)と、日本とイギリスの間を何度も往復してきた。

画像: 10年前に初めて行った全英女子オープンを振り替える佐藤キャディ。佐藤キャディは東北福祉大ゴルフ部出身。佐伯三貴は大学ゴルフ部の後輩にあたる

10年前に初めて行った全英女子オープンを振り替える佐藤キャディ。佐藤キャディは東北福祉大ゴルフ部出身。佐伯三貴は大学ゴルフ部の後輩にあたる

そんな佐藤キャディは、「全英は日本人選手にチャンスがあると思います」と言い切る。その理由を聞くと……。

「全米オープンでも4、5回バッグを担いでいますけど、米国では一回も予選通ってないんです。全米はフィールドが厚すぎるのと、300ヤード地点に越えなきゃいけないバンカーが多いですからね。それこそ松山英樹選手ぐらいの飛距離なら、ゴルフ場の見え方も変わってくるんでしょうけど、その設定だとなかなかスコアを出すのは難しいと思います」(佐藤キャディ)

「いっぽうで、イギリスは地面が硬くて、ティーショットを海外の選手は刻んで打ってきますが、日本人選手はスプーンやドライバーで打っていく。そうなると結局、2打目地点で打つクラブが意外と変わらないんですよね。ポットバンカーから冷静な対処ができたり、アプローチのバリエーションがあれば、上位にも行けるチャンスがあると思うんです」

そんな彼を初めて“全英”の舞台に引っ張り出したのが、大学の後輩の佐伯三貴だった。

「三貴プロはこのとき、『あまりにも絶不調だから、明るいキャディじゃなきゃやってられない』という理由で僕を指名したそうです(笑)。初めての全英女子がセントアンドリュースで、しかもその後、一週間空いてミュアフィールドで行われた男子の全英オープンでもバッグを担いだんです。ボスが違うから一度日本に帰って、また渡英したのを覚えています。今年は男子がセントアンドリュースで、女子がミュアフィールドですから、ちょうどその逆でしたね」

そんな明るい佐藤キャディを起用したのが功を奏したのか、2日目を終えて佐伯は首位と1打差の2位に入った。決勝ラウンドの3日目は荒天でサスペンデッド。最終日に36ホールを最終組で回ることになるのだが、佐伯&佐藤のタッグは最終的に7位タイに入ったのだ。

「2日目は、2回2打目が直接入って「66」を出しました。それがコースレコードタイだったんです。いまだにクラブハウスのボードに三貴プロの名前が載っていますよ。じつは渡英前に、三貴プロが、『ベスト10入ったらロレックス買ってあげる』って言ったんですよ。2日目終わって2位だったんで、2人で「あれれれっ?あるんじゃない」て(笑)。その時は、ロレックス話が盛り上がっていたのを覚えています」

画像: 2013年の部分にMiki Saikiの名前が。ボビー・ジョーンズやトム・モリスJr、ローリー・マキロイといった名だたるメンバーの中に名を連ねている

2013年の部分にMiki Saikiの名前が。ボビー・ジョーンズやトム・モリスJr、ローリー・マキロイといった名だたるメンバーの中に名を連ねている

さて、ではそのセントアンドリュース、いったい何が難しいのか? プロキャディ目線で語ってもらおう。

「何よりもターゲットのとり方が難しいです。ティーイングエリアからポットバンカーの位置が見えづらく、どこからどこまでがヒースなのかも見えにくい。ティーショットをどのラインに打っていくかがとってもシビアなんです。テレビ塔や教会の建物、次のホールのティーマークだったりを目印にしてターゲットをとったのを覚えています」

「例えば3番ホールのティーショットを打つとき、『4番ティーのティーマークより左に行かなければバンカーには入らないよ』とか。そのぐらい細かく設定しないと、簡単にポットバンカーに入っちゃうんです。さらにタテの計算も入ってきますからね。キャリーをどこにするか、転がってもバンカーに入らないタテ距離を考えてクラブを選びます。ティーショットからアプローチ感覚ですよね」

ティーショットをバンカーに入れないのが鉄則だが、バンカーに入れたとしても、そこで狙うのか、出すだけなのかの冷静な判断が必要だという。

さて、風の影響は?

「基本的に横向きが多いんですよね。横向きですからアゲンストなのかフォローなのかが微妙で、とても判断が難しいんですよね。右からの風でフェードヒッターだったら、どんなに頑張ってもアゲンストにしか感じませんが、逆にドローヒッターにとっての右風は、フォローに感じます。そこもオールドコースが、『プレーヤーに挑戦してこい』と言っているように思えます。基本的にアウトコースは、ずーっと左風が吹いて、折り返してインコースは右風が吹くイメージです。持ち球によって得意な風、不得意な風が必ず出てます」

今やグリーンブックは主流になっているが、佐藤キャディは以前、ほかのキャディと協力して5ヤード刻みでグリーンの傾斜を測っていた。当時のセントアンドリュースでも、その計測をやったというのだ。

練習日にグリーン上で、5ヤード刻みに傾斜計測器を置いて、グリーンの傾斜を測ったのだ。その計測値をもとに、傾斜の度合いを色分けしてグリーン図を作り、見た目のビジュアルで傾斜をわかるようにしていたという。

画像: 1番と2番のグリーン面の傾斜を5ヤード刻みで色分けしたメモ。2番ホールの傾斜のきつさがよくわかる

1番と2番のグリーン面の傾斜を5ヤード刻みで色分けしたメモ。2番ホールの傾斜のきつさがよくわかる

「赤が2.5度以上。緑が1~2.4度。青が0.9度以下。これを見ると、2打目やアプローチでグリーンを狙うときに、面のイメージが湧くと思うんですよね。三貴プロもアプローチで球を転がすほうなんですけど、さすがにグリーン面が読みづらくて、この色分けを見ることで面のイメージがわいたはずです。ピンポジを仮想して、いっちゃいけないゾーンも書き込みました。グリーンも入り組んでいるので、書いておかないとイメージわかないですからね」

佐伯は2日目に2回、2打目を入れてチップインイーグルを取っている。佐藤キャディのメモが役立ったのは間違いないだろう。

さて、今年の全英オープンでは、日本人選手の活躍が見られるか。期待して見てみよう。

画像: 18番ホールでコースレコードを出した佐伯三貴と。今年の男子で日本人選手の活躍はいかに

18番ホールでコースレコードを出した佐伯三貴と。今年の男子で日本人選手の活躍はいかに

画像: my-golfdigest.jp
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