感謝の気持ちは、育ててくれた練習場やコースに対しても変わらない。スターになった今もそこで腕を磨いている。
蟬川泰果が今も変わらず練習の最初に行うのは「片手打ち」。
「やらないと気持ち悪い。手と体の同調の練習です。でもやりすぎると逆に手が動かなくなって、僕の場合感覚がおかしくなるので、5~10球でやめます」
自らを感覚派だという蟬川泰果は、自分のスウィング自体はまったく意識しないという。動画などもあまり撮らないし見ない。感覚を養うためには球を打つことこそが大事だという。
「(中島)啓太なんかは150球くらいに集中してスウィングづくりにフォーカスしてやっていますけど、僕は1球でも感触がよければいい。どのクラブも100%打てる状態だと信じられるときが一番結果が出るので。全部のクラブを打って感覚を養いますね」
「パッティングは、大学2年まで下手くそやったんです」
ただし、左に振り切ることは常に意識する。
「つかまりすぎのときは体が止まったときなので、次に打つ場合は修正しきちんと捻転させるように意識する。逃げ球が出たときは振り遅れの状態なので、少し手元を持ってくる意識。僕のイメージの仕方って独特ですよね」
パッティングは、小学生のときから毎日パターマットで100球連続入れる練習もしていたらしい。
「でも、大学2年まで下手くそやったんです。もともとタイガーやPGAの選手に憧れて、クラブを少し吊って構えて打っていましたけど距離感が作れない。だから手元を下げて重心を落として、ボールから遠目に構えたら打ちやすい。“自分の形”に気づいたらよくなってきました。パターの『ピンPLDカスタム アンサー』に出合ったのも大きいですね」
クラブにもこだわりは強い。
「ライ角とかもかなりいじりますし、シャフトにもこだわります。ウェッジは今『モーダス3システム3』。PWから4Iまではモーダス3のプロトタイプのものですが、昨年のダイヤモンドで見つけて、すごくいいんです」
人との出会いもクラブとの出合いも重なり、すべてかみ合い、よいほうに転がっていく。
「今は120Y以内の距離感の調整が特に課題です。バックスピンがかかりすぎてイメージが悪くなってきた。ヘッドの入り方が問題」
日本オープンのラフが深くグリーンが硬いセッティングが、実はラッキーだったという蟬川。「周りの選手が(ボールが)止まらなかったので。僕は何せバックスピンがかかりますから」
アメリカのコースのグリーンが呼んでいる気がする。
日本オープン優勝時に語った「30歳までは国内ツアーで盛り上げたい」との発言が一部で物議をかもしたらしい。意外にもヤフコメなどを“エゴサーチ”したという。
しかし、蟬川泰果は、海外に行きたくないわけでは決してなく、誰よりも、日本のゴルフ界の盛り上がりを願っているのだ。
「今の世の中、海外に行って、勝ってこそ評価される。でも、確かに海外に行きたいという気持ちがすごく出てきました。理想としては、日本と両方出ること。PGAツアーで勝って日本に帰ってきたほうが盛り上がるのも事実ですよね。だからこそ挑戦したいです。もちろんPGAより上のツアーはなく、賞金も大きいですし、いろんな選手と触れ合える、すごく大きな経験になるので、少しでもチャンスがあるなら挑戦したいです」
目標は変わって進化していくものだ。何より蟬川泰果にはその先の大きな夢がある。
夢は4大メジャーを制覇することです(蟬川泰果)
「プロとして1勝を挙げるのが直近の目標ですけど、取りこぼさないように勝てるだけ勝ちたい。チャンスを逃がしたらもったいないので。そのためにも自分のレベルを上げていかないと。夢はずっと語っていますが、4大メジャーを制覇することです」
今年の初戦は、PGAのソニーオープンに出場する。同級生の中島啓太との“バチバチ”の戦いも楽しみだが、言葉とは裏腹に、いたって冷静に自分を見つめる蟬川泰果。
「他の試合も決まりそう。ずっと仕事ができるのは気持ち的にも落ちないまま取り組める。そして基礎を徹底的に。もっともっと上手くなりたい部分があるので、海外の経験も含めて、頑張って頑張って頑張って積み上げていきたい」と「頑張って」を3回繰り返した蟬川泰果。努力家の顔がのぞく。
そして、多数の同年代のライバルから抜け出す覚悟だ。
「同世代はいい刺激です。啓太以外にもたくさんいてるから。でもやっぱり負けたくないです」
今、いい顔していますね、と伝えると、少し恥ずかしそうに、「顔のドアップは恥ずかしい。小栗旬さんみたいに生まれたかった。そうしたらもうちょっと楽しいと思うんです」と自虐ネタ。その真っすぐなまなざしで、突き進め、「GO タイガ!」
※週刊ゴルフダイジェスト2023年1月24日号インタビュー「蝉川泰果~"魅せて"勝つ」より