普通じゃないパーで勝ち、「セベっぽいな」と感じた
セベが2度目のマスターズ制覇を果たしてから40年目の快挙に、「言葉にならない」とラーム。優勝を争ったブルックス・ケプカがスコアを落とすなか、ジョン・ラームは鉄壁の守りを見せていた。
それが突如変わったのが72ホール目の18番。ティーショットを大きく右に曲げ、あわやOB。暫定球を打ったがセカンド地点に行くと、1球目がセーフ。
林の中から狭い木の間を抜き、グリーン手前まで運び、パーを拾って勝った。「あれがセベのスタイル」とラームが言ったのは、憧れの先輩が全盛期にショットを曲げ、絶体絶命のピンチから、わずかなすき間を射抜くスーパーショットで勝利をものにしてきたから。
全英オープンでは駐車場から打ってバーディをもぎ取り、勝利を決めたこともあった。今でもオールドファンの間では、パーキングロットショットと語り継がれている。
「普通のパーじゃなく、ちょっと変わったパーで上がれたのはすごくセベっぽいな、とホールアウトしてから感じたんだ。意図せずだけど、彼のプレースタイルを踏襲していた。今日は、セベが僕を見守って(優勝に)導いてくれたと思う」
思い返せば、2017年にセルヒオ・ガルシアが、セベ・バレステロス、ホセ・マリア・オラサバルに続きスペイン勢3人目のマスターズチャンピオンに輝いた日もセベの誕生日だった。
ライダーカップでのセベの活躍がなかったら、今の自分はない
2017年のマスターズ。空が漆黒に染まる直前のオーガスタで、ガルシアはトロフィを抱えて天を指さしセベに勝利を報告。“神の子”と呼ばれながらメジャーに勝てなかった不甲斐なさを胸に、「遅くなってごめんなさい」と心の中でつぶやいた。
前年の2016年にプロになり、マスターズに初出場したラームは、ガルシアの雄姿を見て祝福した。「あの優勝を見て目標が決まった」と話した。
そう、オーガスタにはセベがいる。マスターズ2勝、全英オープン3勝の実績もさることながら、ライダーカップが初めてスペインで開催された1997年、キャプテンとして欧州チームを劇的な勝利に導いた姿がラームの胸を熱くした。
「小さな頃に(その記録映像を)何度も見た、1997年のライダーカップが僕のゴルフの原点。もしあれがなかったら今の自分はない」。セベからラームへ。スペインゴルフの系譜は受け継がれている。
※週刊ゴルフダイジェスト2023年5月2日号より(PHOTO/Blue Sky Photos)