ツアー解説でおなじみの佐藤信人プロ。今回はマスターズでのR・マキロイ、S・シェフラー、そしてB・ケプカについて感じたことを語ってくれた。
画像: マスターズでローリー・マキロイと一緒に練習ラウンドをしたブルックス・ケプカ(Photo/Blue Sky Photos)

マスターズでローリー・マキロイと一緒に練習ラウンドをしたブルックス・ケプカ(Photo/Blue Sky Photos)

ゴルフはやはり「expectation(期待)」が影響するスポーツ

非常に見応えのあった今年のマスターズ。そんななかから、ボクが感じた雑感を今回はお話ししたいと思います。

この連載でも何度か指摘しましたが、マスターズでは長年、年が明けてから優勝もしくは好調の選手がグリーンジャケットに袖を通してきました。その論から言えばスコッティ・シェフラー、ローリー・マキロイ、ジョン・ラームの3強を中心にした展開になる、と予想をしていました。

ですから、ラームの優勝は予想通りでしたが、意外だったのがマキロイの予選落ち。今年は悪天候に見舞われた大会でしたが、マキロイの場合、ラッキーなほうのスタート時間だったにもかかわらず、上位に名前が出ることもなくコースを後にしました。

しかし改めてゴルフは「expectation(期待)」が影響するスポーツなんだと実感。

特にマキロイの場合、キャリアグランドスラムがかかるマスターズ。どうしても期待値が高まります。ドライバーを半インチカットし、シャフトのフレックスを調整。オーガスタでの下見ラウンドで好感触を得てWGCマッチプレーでも結果がよかった。だからこそメディアやファンからの期待値はよりアップ、結局その重圧に負けてしまった感は否めません。

「結果は神のみぞ知る、自分はできることをやるだけ」という宗教観で期待値を下げる力のあるシェフラーも、今年は2連覇という目に見えない重圧との闘いだったのかもしれません。

その観点から言えば、マスターズ前の3戦ではけして本調子でなかったラームが、結果として周囲からの期待値が下がり、高いパフォーマンスへとつながったともいえるかもしれません。いずれにしてもマキロイのキャリアグランドスラムは、また来年へと持ち越されました。

PGAツアー時代と同じナイキのウェアで戦ったブルックス・ケプカ

さて、もうひとり目が離せなかったのがブルックス・ケプカです。18、19年に絶頂期を迎えたケプカですが、ケガもあり思い悩んだ末のLIVゴルフへの移籍だったようです。強いときのケプカはその発言は過激で、ノシノシと歩く姿も手伝って、ふてぶてしい強いイメージの選手でした。

しかし、LIV移籍への葛藤を垣間見ると、お金が理由だけではない人間の弱さ……人間味みたいなものを感じます。

「去年、今ぐらいの体調だったらLIVゴルフ移籍の決断は難しかった?」というメディアの質問に、「そうだね……たぶん……正直言うとそうだと思う。でも自分の決断には満足しているよ」と答えたケプカ。

LIVの選手は所属するチームのロゴをつけたウェアを着たのですが、ケプカは「契約だから」と、PGAツアー時代と同じナイキのウェアで戦いました。火曜日には自分からマキロイを誘って、練習ラウンドで9ホールを回ったり。PGAに戻ってきたいのかな、と思うような行動です。

もちろんそう簡単ではない。今回の成績で来年のマスターズの出場権は確定しましたが、19年全米プロの優勝で与えられる5年シードは来年で切れます。

ただ”メジャー男”と呼ばれ、誰よりもグリーンジャケットに強い思いを描くケプカです。彼の目指す居場所のひとつがオーガスタであることを思わせてくれた優勝争いでした。

※週刊ゴルフダイジェスト2023年5月2日号「うの目 たかの目 さとうの目」より

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