硬く速いグリーンに厳しいピンポジションのため予選ラウンドのカットラインは9オーバー。決勝ラウンドの3日目は強風が吹き、最終日は風に加えて雨と難コンディションの4日間を制した吉田優利選手。ショット、アプローチ、パットの技術と体力、メンタルの総合力が試される大会となりましたが、これまで積み重ねてきた一つ一つの練習やゴルフに向き合う姿勢が成し遂げた勝利でした。
上田桃子選手と同じく師事する辻村明志コーチには、いつも試合会場でお話を聞かせていただいているのですが、吉田選手の優れている点を聞くと
「年末、毎年シーズンの目標とその目標に対して、課題を紙に書いて持ってきます。それだけなら誰でもできますが、だからどうするということまで最後まで書いてくる選手はなかなかいません。そこまでつなげられるのが吉田優利です」(辻村明志コーチ)
目標を設定し、そのために単純な練習でも継続することができる。自分で考えプロとしてゴルフに向き合う姿勢が23歳にして備わっていることが、初メジャー制覇につながりました。
静かな切り返しで大きな捻転差を作る
フェアウェイキープ率と飛距離を掛け合わせたトータルドライビング1位のドライバースウィングを見てみましょう。
オーソドックスなスクェアグリップで握り、ボール位置は左わきの下で頭はボールよりも右側とお手本になるアドレスです。(画像A左)
テークバックで右足を踏み込みながら胸を右に回していきます。左腕が地面と平行になる位置で背中はターゲットを向き、早い段階で肩のラインと腰のラインの捻転差を作っています。(画像A右)
そのまま胸を回しトップでは左への加重が始まります。切り返しで左ひざはアドレスの位置に戻り腰のラインも正面に戻りますが、胸は右を向いたまま。この動きこそが吉田選手の特徴である、静かな切り返しを生んでいます。(画像B)
後方からの画像と合わせて見てみると、アドレス時よりもわずかに右を向いた顔の向きをキープしたまま、下半身を巻き戻すことでダウンスウィングの早い段階でインパクトでのシャフトのラインに乗っています(オンプレーン)。
吉田選手のスウィング映像では、ゆっくりと始動して切り返しの後にシュッと加速していくように見えますよね。切り返しで一気に負荷をかけるのではなく、クラブがプレーンに乗ってから加速することで、安定した軌道で打つことができています。この胸を右に向けたまま腰のラインを正面に向ける動きを真似してみるだけで、クラブをインサイドから下ろす感覚が体感できるはずです。
そのまま下半身で作った回転で上半身を引っ張り、インパクト前にブレーキをかけるように左足を伸ばすことで上半身が下半身を追い越していき、大きなフォローへとつながっていきます。(画像D)
オフには様々なドリルや、徹底した基礎練習を積み重ねて来たことで、体を目一杯使って飛ばすドライバーから、ゆっくりと動かすアプローチやパットまで、手先の感覚は生かしながらも体幹を使って打つことで安定したスウィングを身につけています。
スウィングだけでなくメンタル面のエピソードを紹介します。2日目を終えた後の会見で、林に曲げたホールでリカバリーできたことについて「前が開いてて運が良かった」と答え、運を引き寄せるためには?と聞かれると
「イメージとしては徳を積むというひとつと、周りの人に対する態度とか姿勢というのは、両親からもそうですし、周りの方からもいっぱい教えていただいたので、そこに関してはゴルファーとしても人間としても一番大事なところなんじゃないかなと思っているので、そこを意識して生活しています」
人の見ていないところでゴミを拾うといった”徳を積む”という言葉を23歳の優勝者から聞き、記者一同、自分に当てはめて恥ずかしさを感じた瞬間でした。
タフなコンディションの中で、最後まで崩れず勝ち取ったメジャー優勝は吉田選手にとって大きな自信になったことでしょう。昨季は2位が5回ありましたが今季は優勝が5回あるかもしれませんね。