「私はこのまま『2人とも頑張れ』と両方を応援していきます」(母)
KKT杯バンテリンレディス最終日18番パー5。明愛が短いウイニングパットを決めると、グリーン脇で千怜が先に頬を濡らした。明愛は同組で優勝を争った申ジエから「おめでとう」と声を掛けられ、感極まった。そして、千怜が駆け寄ってハグ。2人がともに涙したシーンは、ギャラリー、視聴者の胸を打った。
明愛は初優勝の会見で、率直な思いを語った。
「ホッとしているのとうれしいのと…。千怜の初優勝もああいう感じだったので。千怜が優勝して『自分も勝てるかな』と思っていましたが、今日はスタートから終わりまで、気の抜けない緊張感の中にいました」
昨年8月、千怜がNEC軽井沢72ゴルフトーナメントに初優勝を飾った際、明愛は大粒の涙を流した。
理由は「一番身近にいる人が優勝して感動したので」。
ただ、関係者は「先を越された悔しさ、自分も優勝できるのかという不安もあっての涙に感じた」と話していた。
翌週、千怜がCATレディースで史上3人目の初優勝からの2連勝を史上最年少で飾ると、明愛は「見ていて緊張しました。すごいメンタル」と感心しきりになった。複雑な思いはあったことだろう。
表彰式には明愛も呼ばれた。「私も頑張ります」と言い、ギャラリーからは「次はお姉ちゃんだ」と声を掛けられた。周囲は「明愛が重圧を受けるのでは」と心配したが、母・恵美子さんは「私は明愛に気を使いません。普段通りにします」と言った。理由は明確だった。
「勝負の世界ですから。1人がいいのなら、もう1人は背中を追うか、抜かすしかない。あとはどれだけ本人が努力できるかですし、私はこのまま『2人とも頑張れ』と両方を応援していきます」(母)
幼少期から、負けず嫌いで切磋琢磨してきた姉妹
2人は幼少期から競い合ってきた。小学校の持久走大会では、必ず姉妹がスタートから抜け出し、小1では明愛1位、千怜2位だったという。その順位が毎年繰り返されたが、5、6年は千怜が1位。
ゴルフでは、小学、中学と緊張もプラスに転換できる千怜の方が好成績を残していた。
ゴルフダイジェストジャパンジュニアカップでも、千怜が高校時代に大会3連覇(2018~20年)を達成しているが、明愛も高校から急成長。2020年の日本女子オープンでは、ロ―アマを獲得した。
顔は似ているが二卵性双生児で、性格とゴルフスタイルは違っている。
明愛は繊細で感情豊か。それでいて、ゴルフになると「イケイケ」で、パー5の2オン狙い、池からのショットもいとわない。
一方、千怜は外国人プロにも話しかけるなど社交的。ゴルフになると、「慎重に組み立てたいタイプ」というが、昨季は明愛の積極果敢なプレーを見習うようになり、それが生きた場面が多くあった。明愛も千怜の勝負強いパットを目の当たりにし、オフはコーチとパットの改善に取り組んでいた。
それでも、そろって負けず嫌いで、切磋琢磨してきた2人。側で見て来た父・雄士さんは「ゴルフについては、スコアが悪かったほうに『気にするな』と声を掛けていました」と振り返る。互いが精いっぱいの努力をしていることを分かっているからだ。
そんな2人の目標は「一緒に最終日最終組で回って、優勝争いをする」だ。プレーオフもイメージしながら、「そうなっても、最後まで応援しながらプレーをしたい」と声をそろえている。両親から「正々堂々」のスポーツマンシップ、「人に優しく」を教え込まれてきた姉妹。
ゴルフファンは2人が早期に目標を達成し、最後に「おめでとう」「お疲れ」と声を掛け合うシーンを心待ちにしている。