「睡眠が絶好のチャンスだった」というジャック・ニクラス
「もう昔のことになりますが、私はよく自分のスウィングの夢を見ました。悩んでいるときは寝ている間、自分で自分にレッスンしていた。で、翌朝就寝中につかんだヒントを試すと、これが結構うまくいったのです」
さすがレジェンド、夢は起きると忘れることが多いといわれるが、ニクラスの場合、この夢を大きな大会の前によく見たそうで、そのヒントが「優勝に役立った」というのだ。
興味深いのは、「練習場ではスウィングを直そうとしても直せないのに、夢の中ではすんなりそれができた」とニクラス。「寝ているときに突然考えがひらめく。ヒントが降りてくるといってもいいでしょう。何もする必要がないから、私にとって睡眠は絶好のチャンスだったのです」。
一般的なアマチュアゴルファーが見るとすれば、ミスショットに冷や汗をかく夢くらいだろうが、実はニクラスも冷や汗をかく“悪夢"を現役時代よく見ていたという。
「最近はなくなりましたが、スタートホールのティーに決してたどり着けないという夢を頻繁に見ていました」とニクラス。「懸命にティーを目指すのですが、誰かが私にぶつかってきたり、さまざまな妨害にあって、まったくたどり着けない。そして、ティーショットの番がくる前にパッと目が覚めるのです」。
当然コースのレイアウトは熟知しており、「スタートホールに行く道もわかっている。それなのに、突然トイレに行かなくてはいけなくなったり、ボールを持っていなかったり、キャディがいなくなったり……。ティーにたどり着けないのは本当に悪夢です」。
ツアー73勝を挙げ、グリーンジャケットを6着持つレジェンドも、我々と同じようにプレッシャーを抱え、悪夢も見る。ニクラスの人間味を感じさせるエピソードである。
※週刊ゴルフダイジェスト2023年5月23日号「バック9」より