「右利きへの矯正は本人も嫌がるし、生まれたままの感じがいい」(父)
羽川豊以来、レフティとして32年ぶりの優勝が期待される20歳の細野勇策。生まれつき心臓に持病を抱え、生後2カ月で手術、激しい運動を止められゴルフを始めた。
「今はもう普通の生活を送れています。父は野球をさせたくて、兄と一緒に球を打ったりはしていました。右に変えろとはまったく言われなかったですね」
父・誠一さんによると、
「野球でも左のバッティングだけがよくて。ゴルフで右打ちは1、2回、50球も打っていません。全然ダメなのでやめようと。日常生活でも右利きへの矯正は本人も嫌がるし、生まれたままの感じがいいと。もちろん、道具はないし、練習場も難しかったですね」
そもそも“出来合い”の道具が嫌いだという誠一さん。
「子どもの成長に合わせてクラブを変えるべきだと。兄の野球のグローブやバットも同じなんです。お金もない時代なので大変でした」
その発想が、勇策を“マイノリティ”にしなかったのだろう。もちろん練習場の左打席は少なく、今も遠征中、探すのに一苦労。
「マットを変える“両打ち”タイプなら真ん中の打席もあるけど、自動ティーアップだと端っこ。今通っている練習場は1、2階で5打席ありますが、昔から端で打つクセはついています」
細野はドローヒッター。右端の打席が好きだ。
「左端だとフェードが打ちやすい。でも、確かに練習場で人によけられたりします。その辺の悲しみは共有できます。僕にできることは、活躍して左の打席を増やすことですよね」
レフティで得したことは「とにかく目立つ」(父と勇策)
「左打ちはスウィングに特徴があるのであまり見ません。綺麗なスウィングが好き。でもバッバ・ワトソンに似ていると言われます(笑)」
好きなスウィングは、ザンダー・シャウフェレやコリン・モリカワだ。
「ザンダーはフェースローテーションがまったくなくて安定感があるので動画を見ます。コリンはあまり振らない。パワーヒッターではないけど精度を高める意識が出ている。自分とマッチしないので動画はあまり見ませんが……人間性もよくて、すごくいいなって」
父と二人三脚でつくってきたスウィング。寝食を忘れて勉強したと誠一さん。
「全部自己流です。本や映像を見て、部屋中をホワイトボードだらけにして、どうやったらどうなるかと考え、小3、4までに大学ノート10冊にはなりました。僕は専門家ではないので、ニュートラルにしてやりたかった。そうしておけば、専門家に預けたときに味付けしやすいですから。中2までは庭で野球のトスバッティングのケージを狙ってテニスをさせました。面の使い方が野球のバッティングよりゴルフに近い。体が勝手に動くようになるのが大事ですよね」
レフティで得したことを聞くと、親子で同じ答えが返ってきた。
「とにかく目立つ。どこにいても“ああ勇策だ”とわかるし、練習場でも皆さんすごく声をかけてくださって嬉しいです」(父)
「自分が右打ちだったらまだ特集されるようなプロではない。でも目立ちますから。今からは嬉しいことばかりかなと思います」(勇策)
「右打ちにすればよかったと、心から後悔したことはない」(羽川)
僕はお箸も筆記も左右どちらとも、としか言いようがない。どちらでも不便を感じませんから。これは左利きの特長かもしれませんね。
親から右利きにと強制されたわけでもなく、自由にさせてもらって、それは感謝していますね。なので“両刀使い”です。
レフティにしたのは、子どもの頃、野球をやっていて、左投げ、左打ちだったからで、ゴルフもそのほうがやりやすいと思ったからです。
実家がゴルフ練習場をやっていて、右打ちのゴルファーばかり見ていたのにレフティを選択したのは、やはりそれが一番僕にしっくりきたとしか言えません。
クラブの選択幅が少ないなんていうのは、当時は考えなかったですね。その点からいうと、やはり、自分のやりやすい打ち方を選択してよかったと思います。
右打ちにすればよかったと、心から後悔したことはないですね。ただやはり困ったのは、レフティ用クラブが極端に少なかったこと。それとグローブ。今でこそ多くなりましたが、僕の時代はほんと、少なかったですから。
大きいクラブ――ドライバーの類いはむろん――、アプローチ、ウェッジまで数少ないなかから選ぶしかなかった。
グローブはプロ入り後は自分だけの型を作っててもらえましたが、当時はサイズも少なかった。
ただ、これは今からすれば、「それしかなかったから打ち込めた」ということも言えますね。
たくさんあるなかから、このクラブを“1本”選ぶというのもこれまた大変なこと。あり過ぎるというのは、混沌です。ポジティブに考えるならそういうことになります。
「細野くんは、小さくまとまらないで、このまま突っ走ってほしい」(羽川)
細野くんには期待しています。というのも、「東建ホームメイトカップ」2日目、61でしょう。
昨年「ISPS HANDA欧州・日本」で出した62も更新した。
試合でこういうスコアを出すというのが素晴らしいんです。練習でいくらいいスコアを出しても、それはノンプレッシャーで、それでは価値がありません。試合で出してこそプロフェッショナル。これからも小さくまとまらないで、このまま突っ走ってほしい。
スコアをまとめようとか考えないで、今は思い切り振って、その可能性を広げる、そんな時期です。僕にも経験があります。いずれ、ゴルフの怖さを知る時、スコアをまとめなければならない時期は必ず来ます。
それまでは思い切りやってほしい。表からも陰からも応援していますよ。それまでは思い切りやってほしい。表からも陰からも応援していますよ。
THANKS/レークスワンCC美祢C
PHOTO/Norimoto Asada、Tadashi Anezaki
※週刊ゴルフダイジェスト2023年6月6日号「ようこそレフティの世界へ」より