今年のゴルフダイジェストアワードで「レッスン・オブ・ザ・イヤー」を受賞した辻村明志プロにインタビュー。恩師である故・荒川博氏や指導する上田桃子や吉田優利への想いなどを聞いた。
画像: 故・荒川博氏と出会ったころの辻村コーチと上田桃子(撮影/野村誠一)

故・荒川博氏と出会ったころの辻村コーチと上田桃子(撮影/野村誠一)

王貞治のコーチ、荒川博"先生"との3つの約束!

辻村明志には、4人の師匠がいる。

ゴルフの道に導いてくれた亡き父。生まれ故郷、福岡・田川のレッスンプロ“向井のおいちゃん”(故・向井輝雄)には、10歳からアジアンツアーを回る選手時代までアドバイスを仰いだ。選手生活に見切りをつけた辻村に、“教える”を生業とする基礎を作ってくれたのがプロコーチのパイオニアである江連忠だった。

そして4人目の師匠が、受賞の挨拶で「真っ先にその墓前に報告したい」とした故・荒川博である。  

荒川といえば言わずと知れた世界のホームラン王、王貞治の一本足打法の生みの親である。

「江連さんの元から独立し、(上田)桃子のコーチになったのが2014年。先生とは翌15年の5月に初めてお会いしました。当時、桃子は30歳になる直前で極度の不振に陥っており、真剣に引退を考えていた時期です。ボクもコーチとしての自信を完全に打ち砕かれた時期でもあり、まさにわらにもすがる思いで、先生の元を訪れたんです」 

当時、週刊ゴルフダイジェストで荒川博と片山晋呉との対談企画『1日1000回振れ!』を連載していた。きっかけは上田桃子の

「晋呉さんとあのお爺ちゃんの記事、あれ面白いですよね」

というひと言だった。 

荒川はその年の暮れにこの世を去るが、その約半年間は辻村のゴルフ人生のなかで最も凝縮された濃い時間だった。試合会場では日に何度も携帯電話でアドバイスを受け、試合の終わった月曜、ときに上田桃子が予選落ちをした土曜から3日間は、神宮外苑のゴルフ練習場に3人の姿があった。

ちなみに神宮は早大でスター選手として活躍、その後、ヤクルトスワローズの初代監督となった荒川の聖地ともいうべき地である。

「先生が亡くなってから知ったのですが、ボクたちを先生に紹介してくれた記者の方は、先生とこんな3つの約束をしていたそうです。ボクと桃子を王さんに会わせてくれ、先生の学んだ合氣道場に連れていってくれ。そして3つ目が“辻村を日本一のコーチにしてやってくれ”。

10月には王さんに会わせていただき、合氣道場には11月30日に連れていってもらいました。それが先生との最後になったのですが、実はこのとき、先生は記者の方に“オレは約束を全部守ったぞ。あとはツジが日本一のコーチになるだけだ”とおっしゃったそうです」 

辻村は選手ごとにノートを作り、そこに“気づき”を毎日、書き綴っているが、これは荒川の“王ノート”から学んだものだ。その王の、

「荒川さんはいつもボクを気持ちよくグラウンドに送り出してくれた」

という荒川評は、プロコーチとしての辻村が心に刻む座右の銘だ。その王を通じ、今ではソフトバンクホークスを中心にプロ野球の選手やコーチが、辻村の元を訪れるようにもなった。ゴルフの指導を求めにやってくるのではない。

辻村の理論や練習法から、野球に通じる何かヒントを求めに来るのだ。荒川の遺伝子は辻村を通じ、再び野球界に還元されている。

「日本一のコーチになれたとは思いませんが、この受賞でそこに少しだけ近づけたのかな、とも思っています」

と辻村。荒川の墓前に真っ先に報告したいという思いも理解できるというものだろう。 

「ボク自身には教えるという感覚はなく、選手と一緒に学んでいる」(辻村)

画像: サロンパスカップで初のメジャー優勝を飾った吉田優利と喜びを分かち合った辻村(撮影/姉崎正)

サロンパスカップで初のメジャー優勝を飾った吉田優利と喜びを分かち合った辻村(撮影/姉崎正)

さて、辻村にとって教えることとは、どういうことか。また、指導者の立場から上達のコツを聞くと、こんな答えが返ってきた。

「ボク自身には教えるという感覚はなく、選手と一緒に学んでいる、という感じでしょうか。教えることは二度学ぶこと、とは江連さんがよく言われた言葉でしたが、いろんな気づきが、それに対するアクションが自分を磨いてくれていると思います。実際、ボク自身、ゴルフが上手くなっている気がしますし(笑)。その意味で、頭のいい悪いではなく頭を使うこと、それが上達のコツではないでしょうか。

考えてみる。ナニかに気づいたらやってみる。その結果をもう一度、考えてみる。その繰り返しが強くなる、上手くなる唯一のコツではないでしょうか。教え魔と呼ばれるような存在になってはいけませんが、仲間と一緒に考えたり、教え合ったりすることは、上達の近道かもしれません」 

ゴルフ界では辻村たちは「チーム24(つじ)」と呼ばれており、その団結力の高さに定評がある。その源泉は、仲間同士で考え、教え合うコミュニケーションにもあるようだ。

「頭のいい選手、自分の頭を手や足を使いこなすように、フルに使える選手が増えているのが、今のゴルフ界のような気がします。今回、一緒に受賞した特別賞の蟬川泰果プロや、ジュニア大賞の馬場咲希さんは、その象徴ですね。だからこそアマチュアで優勝もするし、世界で戦えるのだと思います。もちろん世界で戦うには技術の高さや体の強さも求められますが、自分の頭をフルに使う能力はとても大事だと思います。それに心技体の心、強いメンタルは脳が作り出すとボクは思っていますから」 

さて、先のワールドレディスサロンパスカップの吉田優利の優勝は、コーチとしての辻村の通算19勝目、メジャー初優勝となった。7月にはその吉田と上田とともに全米女子オープンに挑戦する。

「2人のコーチとして渡米しますが、舞台はペブルビーチだし、とにかくワクワクしています。今はペブルビーチで開催された19年の全米オープンの映像なんかを入手して、その対応に追われていますが、頭を使っている時間が本当に楽しいですね。少しでもゴルフ界を元気にできる、またゴルフをやってみたいという人が増やせるような戦いをしてきたいですね」 

インタビューは、そんな言葉で締めくくられた。(文中・敬称略)

取材・文/大羽賢二

※週刊ゴルフダイジェスト2023年6月13日号「さあ、世界は舞台だ」より

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