今年のレッスン・オブ・ザ・イヤーに選ばれた辻村明志コーチが指導している一人、吉田優利がワールドレディス サロンパスカップで国内メジャー初優勝。吉田優利はこれで通算3勝目。同大会で3位タイに入った上田桃子も同門の大先輩。辻村コーチのもと、シーズン中も、シーズンオフも続けているという練習法がある。

辻村コーチが重視するのは、「クラブヘッドの芯で、ボールの芯を強くとらえる」こと。すべてのドリルは、それが目標でもある。どんな経緯をで生まれたのか、辻村コーチに聞いていった。

画像: ワールドレディス サロンパスカップ優勝直後、ボランティアの方たちと記念撮影

ワールドレディス サロンパスカップ優勝直後、ボランティアの方たちと記念撮影

ボールを打つ前に、立ち方が何よりも大事

「スウィングの天敵は力みですが、唯一、力んでいいところが下半身です。力めというのではなく、どっしりと言ったほうが適切でしょうか。逆説的に言えば下半身がどっしりしていないから、上半身が力むのです」(辻村)

辻村はボールを打つこと以上に立ち方にこだわる。最初に指導を開始した上田桃子とともに‟生涯の師匠”と呼ぶ、荒川博氏との出会いが大きく影響している。

2人が荒川の元を訪れたのは、2016年5月。当時30歳になろうとしていた上田は絶不調で、‟引退”の二文字が脳裏をよぎる時期でもあった。きっかけは週刊ゴルフダイジェストの連載『1日1000回クラブを振れ!』という荒川氏と片山晋呉との連載対談だった。

荒川氏といえば王貞治を世界のホームラン王に育てた名伯楽。だが、ゴルフの世界では門外漢。周囲には反対の声も大きかったが、辻村と上田が指導を仰いだのは、光の見えないトンネルの中にいたからだ。

「最初、‟その立ち方じゃ勝てないよ”とひと言。桃子にアドレス姿勢で構えさせるのですが、指1本でぐらつかせてしまうのです。当時、85歳で病気を抱えていた先生がです」(辻村)

「90キロあった僕も、先生には簡単に締め上げられました。最初は、ほとんど立ち方や“氣(気)”の話で、これはエライところに来たぞと、桃子と顔を見合わせたものです」と、辻村は振り返った。

画像: 荒川博氏から指導を受ける上田桃子。荒川氏は2016年12月に86歳で逝去

荒川博氏から指導を受ける上田桃子。荒川氏は2016年12月に86歳で逝去

だが、指導を受けるにつれ、荒川の言う意味が少しずつ理解できるようになっていった。たとえば片足で立つ。すると崩れたバランスを保とうと、上半身に力みが生じる。スウィングの天敵である。

「選手たちには、下半身は象のように、上半身はキリンのようにと教えています。上半身を自在に速く動かすのは、ドッシリした下半身があってのもの。たとえば、飛距離はパワーではなくスピードですから、この立ち方は極めて重要なんです」(辻村)

そして今、チーム辻村が目指すのは、究極の“手を消すスウィング”であるという。それは、どういうものか?

「簡単に言えば、手から動かない。文字通り手なんて、最後の最後に勝手についてくる、というスウィングです」

そして、そのためのキーワードに“下内大”を挙げる。辻村によれば、ミスはトップの‟浅速”によって引き起こされる。トップが浅く、そして切り返しが速いことだ。これは、アマチュアはもとより、プロであっても同じらしい。

その原因が「‟下内大”の反対、つまり上(半身)、外(の筋肉)、小(さな筋肉)から動くからなんです。もっと言えば手から動こうとする。‟下内大”の意識が難しければ、スウィングは、足から始まり、足で終わる、そんなふうに考えてもらいたいものです」(辻村)

最初は、氣だの臍下丹田など、荒川氏の発する言葉は、辻村にも上田にもチンプンカンプンだったと言うが、「臍下丹田に氣を鎮めろという先生の教えは、そういう体の使い方だったのかもしれません。ボクの使命は、先生の遺伝子をわかりやすい言葉で伝えていくことです」

下半身は象、上半身はキリン、あるいは手を消すスウング。生涯の師匠に一歩ずつ近づいている。

頭を押さえる超基本。頭は押さえても意識は常に下半身

画像: 上田桃子と辻村コーチ。頭を押さえられても、意識は常に足にある

上田桃子と辻村コーチ。頭を押さえられても、意識は常に足にある

どっしりした下半身に上半身がしっかりと乗る。スウィングの第一歩は、ここから始まる。武道でいう重みは下。頭を押さえられても、意識は常に足にある。

手を消し、“芯を強く貫く”には、エネルギー効率が欠かせない。辻村は指導中、選手たちへ「体の重みをボールに伝えろ! 重いボールを打て!」と、発破をかけることもしばしば。重みをボールに伝えるコツはあるのか?

「大事なのはクラブを下ろす順番です。足(下半身)で上げたクラブは、やはり足から下ろさないとダウンスウィング中にエネルギーはロスします。つまり、ボールに重みが伝わらないのです」。そのためのドリルの数々。

手打ちを防止する、ゴムひも縛り打ち

画像: 体と右ひじをゴムひもで巻いてスウィングする吉田優利。足を踏み込みことでスウィングする感覚を身に付ける

体と右ひじをゴムひもで巻いてスウィングする吉田優利。足を踏み込みことでスウィングする感覚を身に付ける

ゴムの伸びによって、「そこからもう一歩の捻転を作り出せ!」と辻村。それがスウィングに求められる「間」となり、下半身からの動きにつながるという。

捻転と間の時間が長ければ長いほど、下半身からダウンが始まり、腕が勝手に下りることをゴムの戻る強さが教えてくれる。「足で踏み込んでクラブが遅れて動き出す感覚をマスターできます」

足裏を意識する、親指ゴムティー

画像: 写真のように両足の親指のわきでゴムティーを挟む。これを倒さずにスウィング

写真のように両足の親指のわきでゴムティーを挟む。これを倒さずにスウィング

両足の親指にゴムティーを挟んで、足裏を意識するドリル。「グリップで大事なのは手よりも足です」。足裏は体で唯一、地面と接する部分。

下半身と上半身の連動は「足裏が地面を噛むようにしっかり立つことから」と解説。指に挟んだゴムティーを倒さずに振る(打つ)ことが目標だ。

足からの動き出し、ゴムひもお尻と連動

画像: 左手でクラブとゴムひもの端を握り、いっぽうの端は右手でお尻のところへ。ゴムひもの長さは60~70センチ

左手でクラブとゴムひもの端を握り、いっぽうの端は右手でお尻のところへ。ゴムひもの長さは60~70センチ

これもチームでよくやるドリル。手を手で動かすのではなく、足を踏み込んでお尻をポンと動かすことでゴムの張りが解かれ、腕とクラブが勝手に下りてくるという原理を、体で理解するためのドリル。

画像: 足を踏み込み、お尻を動かすことで、手とクラブは勝手に付いてくる。それを体得するドリル

足を踏み込み、お尻を動かすことで、手とクラブは勝手に付いてくる。それを体得するドリル

左手でゴムひもの端を握って、もう一方の端を右手でお尻に付けて、左手1本でクラブを振る。

足を意識する、おもかる素振り

画像: ネック部分にグローブを3枚巻いて素振り

ネック部分にグローブを3枚巻いて素振り

吉田優利が「一番やりたくない練習だけど、一番やっている練習」が、クラブヘッドのネックにグローブを3枚巻いての素振り。

最初はグローブ3枚巻き、次に2枚、1枚、グローブ無し、と5回ずつ、計20回の連続素振り。空気抵抗で下半身がどっしり、振りが強くなり、なおかつ、体とクラブが反対方向に引っ張り合うカウンターの動きも身に付くようになる。

画像: 最初はグローブ3枚、次に2枚、1枚、ナシで5回ずつ素振り。これで速く振る力を高めた

最初はグローブ3枚、次に2枚、1枚、ナシで5回ずつ素振り。これで速く振る力を高めた

「素振りはスウィングの‟角”をとり、手を消す最適なドリルです」。角とは無駄な動きを指している。吉田優利はプロ合格時、40m/sを出すのが精一杯だったヘッドスピードは、このドリルの成果で現在43m/sまで伸びている。

※週刊ゴルフダイジェスト2023年4月18日号より(TEXT/Kenji Oba、PHOTO/Yasuo Masuda、THANKS/鎌ヶ谷CC、AIGIA)

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