現在、世界ランク1位のスコッティ・シェフラーや女子ツアー最強の山下美夢有が実践する「1ボール1パット」練習。果たしてどんな目的があるのか? そしてどんな効果があるのか? 女子プロの藤田さいきの復活優勝を支えたパットの専門家の大木研太郎プロに聞いてみた。
画像: シェフラーのキャディがランダムに置いたボールは傾斜も距離もバラバラ。その都度、シェフラーはラインを読み、タッチを合わせ、1パットに集中。外すと1クラブ離して再パットするという練習。これが「1ボール1パット練習法」だ

シェフラーのキャディがランダムに置いたボールは傾斜も距離もバラバラ。その都度、シェフラーはラインを読み、タッチを合わせ、1パットに集中。外すと1クラブ離して再パットするという練習。これが「1ボール1パット練習法」だ

1ボール1パット練習は集中力が上がる練習法

スタート直前のスコッティ・シェフラーのパット練習は「1ボール1パット」だった。キャディがランダムにボールを置き、そこから1パットで決めるという、シンプルなものだが、この練習にはどんな目的や効果があるのか? 

藤田さいきの復活優勝を支えたパットの専門家、大本研太郎プロに聞いた。

「ゴルフはゲームです。いかにスコアをまとめられるかが重要です。そういう意味では、シェフラー選手の1ボール1パットは、まさに実戦を想定した練習といえるでしょう。1ボールでやれば、その都度、違う場所から打つことになります。

私はパットに限らず、ショットもすべて1球1球、狙いを定めて打つことが大切だと考えています。ラウンドでは、同じ場所から何球も連続で打つことはないからです。いかにパッティングの精度を上げるか、その目的が明確に伝わってきます」

画像: 「1ボール練習をしている山下美夢有選手や小祝さくら選手、勝みなみ選手などは、迷わず打つ代表的な選手です。実戦を想定した練習を繰り返すことで、本番でも高いパフォーマンスが発揮できているのでしょう」(木本プロ)

「1ボール練習をしている山下美夢有選手や小祝さくら選手、勝みなみ選手などは、迷わず打つ代表的な選手です。実戦を想定した練習を繰り返すことで、本番でも高いパフォーマンスが発揮できているのでしょう」(木本プロ)

さらにもうひとつ大きな効果が期待できると大本プロは語る。

「1ボールでさまざまな位置からラインを読み、狙って打つ。このルーティンは実戦とまったく同じです。つまりラウンド前にすでに何ホールも回ったことになるのです。そうするとプレーに集中しやすくなります。集中は右脳モードですが、右脳モードは一度入ると続けて入りやすくなるんです。

1ボール1パット練習をしておくことでより集中しやすくなるのです。この1ボール1パット練習はシェフラー選手だけでなく、女子プロも取り入れている選手は多いです。より実戦的で効果が高いからですが、集中力に関しては個人差もあります。あまりまじめになり過ぎると本番で集中力が続かなくなることもありますので、集中し過ぎないのもコツですね」

距離感を磨いて、3パットを減らす練習法

画像: 「PGAツアーの昨季のスタッツを見ると約2メートルの入る確率は平均で60%でした。『449ホール3パットなし』の大記録を持つドナルド選手はファーストパットを2メートル以内に寄せていたのです。これは距離感なくして成し得ない記録といえます」(大本プロ)

「PGAツアーの昨季のスタッツを見ると約2メートルの入る確率は平均で60%でした。『449ホール3パットなし』の大記録を持つドナルド選手はファーストパットを2メートル以内に寄せていたのです。これは距離感なくして成し得ない記録といえます」(大本プロ)

スタート前の1ボール1パット練習はアマチュアにも効果が高いというのはわかったが、実際にやるとき、どんなことを意識すればいいのか? 

大本プロによると、

「方向性は考えなくていいです。距離感だけを意識してください」

そもそもパットが決まる要素は方向性と距離感と言われる。だが、大本プロは距離感だけでいいというのだ。その理由とは?

「パットの名手、ルーク・ドナルド選手は449ホール3パットなしという大記録を打ち立てています。これは方向性よりも距離感が大切だということを物語っています。たとえば、読んだラインに対してフェースをスクエアにセットしたとしても、スクエアにインパクトできる保証はありません。さらにスパットの位置やフェースの向きに意識が向く(方向性)と距離感は失われてしまうのです。

これはフェースやスパットに目線が集中することで左脳モードに入ってしまうからです。その点、距離感はどのくらい打つか、というイメージの世界なので、右脳モードのまま打つことができます。だからこそ、距離感(タッチ)を最優先してほしいのです」

画像: パットで重要なのは距離感だと力説する大本プロ。その理由は方向性を意識した時点で左脳モードになり、タッチが失われるからだ。フェースの向きにこだわる必要はない。「階段を下りるように全体をボヤッと見るイメージ」と木本プロ

パットで重要なのは距離感だと力説する大本プロ。その理由は方向性を意識した時点で左脳モードになり、タッチが失われるからだ。フェースの向きにこだわる必要はない。「階段を下りるように全体をボヤッと見るイメージ」と木本プロ

距離感だけでいいという大本プロの言葉に疑問を抱くアマチュアもいるだろう。では、方向性はどこで調整すればいいのか?

「狙いを定めるというルーティンがカギになります。まずは傾斜や芝目を読み、狙いたいラインを脳内に描きます。このときカップに対して正対していることが重要です。アドレスしたときの横向きでは、方向も距離も合わせられないからです。体の正面で狙ったラインをイメージし、その映像を消さないようにセットアップし、あとは打つだけです。これで距離感も方向性もどちらも整います。

パットで重要なのは距離感です。同じところから何球も打てば、誰だって距離感は合います。1ボール1パット練習なら1球ごとに距離感を作っていけます。距離感を磨くうえで最も理想的な練習なのです。この練習が習慣化できれば、3パットは間違いなく減っていくはずです」

「距離感は体の正面でイメージすることが大事」(木本プロ)

画像: 女子プロの藤田さいきプロの傾斜&ライン読みからストロークまでのルーティンを参考に、距離感がぴったり合うルーティンをマスターしよう

女子プロの藤田さいきプロの傾斜&ライン読みからストロークまでのルーティンを参考に、距離感がぴったり合うルーティンをマスターしよう

傾斜や芝目をしっかり確認

パットの成否はライン読みが2割を占めるという大本プロ。傾斜や芝目を考慮しつつ、狙うべきラインを探っていく。1ボール練習ならラインを読む予行練習になるし、習慣化もしやすくなる。

ボール後方から狙いを定めラインを映像化

距離感を作るには体の正面でイメージすること。「体が正面を向かないと奥行きは理解できません。必ずボール後方で正対し、狙いを定めます。この動きを習慣化しましょう」(大本プロ)

ラインの映像を消さないようにセットアップ

パットは方向性と考えているアマチュアは要注意だ。ボール後方で作ったラインのイメージを消さないようにセットアップすることが大事だと大本プロ。ここが決まれば、方向性は自然に合う。

ボールやスパットフェースを凝視しないでストローク

セットアップしたらあとはタッチのことだけを考えて打つだけだ。見た景色を変えずに打つのがポイントだと大本プロ。景色が横へブレたり、ボールやフェースを凝視しないのがコツだ。

PHOTO/ Blue Sky Photos、Hiroyuki Okazawa、Yasuda Masuo

※週刊ゴルフダイジェスト2023年6月27日号「『1ボール1パット』練習のびっくり効果」より

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