
勝っても喜びより不安が募ったことを告白したミッシェル・ウィ。全米女子オープンを最後に現役引退した(撮影/Yasuhiro JJ Tanabe)
賞金総額高騰や盛り上がりの裏で、悩みを抱えるプロが増えている!?
昨年の全米女子プロでメジャー3勝目を挙げたチョン・インジは20代で成功をつかんだが、その後うつ病を発症。
「完璧でなくてはならない」という強迫観念から心の病に陥った。その後彼女は自らのメンタル問題を公にしたが、その裏には「私だけではなく誰もが困難を抱えている。その人たちの助けになれば」という思いがあった。
メジャー2勝のステーシー・ルイス(38)は、長年ツアーにスポーツ心理学者の派遣を求めてきた。「デビュー当時はもっとリラックスして楽しめた」が、年を重ねるごとに楽しくなくなってきたというのだ。
「選手たちの多くは、ゴルフが人生そのもの。だから成績が悪いと人生さえも否定された気持ちになる」
最近ツアーにはスポーツ心理学者のジュリー・アマト氏が帯同し、問題に対応しているが、完璧を求めるあまり心のバランスを崩す選手は多いという。
今年の全米女子オープンの賞金総額は過去最高の15億円超。これ自体は素晴らしいが多くのお金を求めてプレーすることの副作用をルイスは指摘。
「年上の人間が中心でチームが形成され、同世代の人間と過ごす時間が減り、選手たちは孤独化する」
仮に全試合に出場すれば、移動距離は地球3周半分という過酷な状況。
ケガをしても休むことができない選手も少なくなく、10代から騒がれたミッシェル・ウィも手首のケガから低迷したが、その時期は「王者は王者らしくなければいけない」という思いから、勝っても喜びより不安が募ったと告白。全米女子オープンを最後に引退することを決めた。
大いに盛り上がる国内女子ツアーでも、同様の悩みを抱える選手はいるだろう。
しかし米国ほど問題は表面化していない。
だが人の心はわからない。自分だけが苦しいと思わずフランクに悩みを打ち明けられる環境が必要だ。
※週刊ゴルフダイジェスト2023年7月25日号「バック9」より