女子メジャー第4戦、アムンディ・エビアン選手権がフランスのエビアンリゾートGCでまもなく開幕。今年の女子メジャー大会は、ここまですべてメジャー初優勝者! まだ、よく知られていない彼女たちは一体どんなゴルファー? 米ツアー事情に精通しているレックス倉本プロに聞いてみた。
好不調の波もあるが、ハマったときの強さはすごい元世界アマランク1位のリリア・ブ
今年の全米女子オープンを最後に引退したミッシェル・ウィ・ウェストに憧れて育ったというリリア・ブ。ミッシェルは韓国系、リリアはベトナム系という違いはあるが、同じアジア系アメリカ人ということが理由。
ベトナム戦争から逃れるため祖父と母は米国へ渡ったが、その壮絶な渡航体験を聞き、彼らを尊敬しているという。
また、安田祐香、西村優菜、吉田優利が日本代表として参加した18年世界アマで、ジェニファー・クプチョ、クリステン・ギルマンとともに米国代表入りし、優勝した。
米国ゴルフ事情に詳しいレックス倉本にリリアについて、こう分析する。
「リリアは恵まれた体格を目いっぱい使って振り切っていくダイナミックなスウィングの持ち主で、ボールストライキングに秀でた選手。シェブロン選手権の前身であるANAインスピレーションで2021年に優勝したパティ・タバタナキットは大学時代のチームメイトで、当時リリアは彼女よりも強く、チームの中心でした。
その証拠に、アマチュア時代には合計で31週にわたり世界アマランク1位に輝いたほどです。プロ入り後も期待されていましたが、いろいろな問題があり、プロの壁にぶち当たった感じでした。リリア自身もその頃を『友達も知り合いもいないなか、良いパフォーマンスをしなければと自分に大きなプレッシャーをかけていて、試合に出る精神状態ではなかった』と言います。
苦労して移民してきた祖父がコロナ期間中に他界したそうですが、尊敬の念はインタビューでよく語っていて、芯が強い印象を受けます。好不調の波も激しいですが、ハマった時の強さはすごい。ドライバーの飛距離もそうですがパットも上手く、総合力のある選手です」
大舞台に強いメンタルと高い身体能力を持つ中国出身のイン・ルオニン
20年中国ツアーのQT1位の資格でプロ転向し、同年デビュー戦から3連勝を成し遂げたイン・ルオニン。古江彩佳、渋野日向子と同じ21年のQシリーズで4位タイとなりLPGAに参戦中。女子では同胞のフォン・シャンシャン、男子ではコリン・モリカワに憧れ、コリンのことを「非常に安定していて、ゴルフへの向き合い方とやさしい笑顔が好き」と話す。
リディア・コーの最初のコーチであるガイ・ウィルソンとインの出会いは16歳のとき。それ以来、ニュージーランドを拠点に4年間彼のもとでゴルフを学ぶ。
「身体能力が高く、躍動感あふれるスウィングが特徴です。ニュートラルなアドレスから、コンパクトな位置にトップを収めていますが、アリセン・コープスと違って右腰が深く捻転しています。背筋のねじれ具合はスーザン・ペターセンを彷彿とさせます。
切り返しでは下半身リードで右腰を元の位置に戻しながら腕でタメを作り、前傾もキープ。フォローでは跳ね上がるようなダイナミックさがあります。これは高い身体能力と柔軟性の賜物です。ドライバーは飛距離が出て、アイアンではキレの良さがあり、日本人でいうと笹生優花選手のようなイメージです。巧みなボールストライキング能力で、難セッティングで力を発揮するタイプ。
このスウィングは柔軟性があってこそできるので、20代半ばに向け、体の変化とともにどのようにスウィングと折り合いをつけていくかが、長く活躍できるかのポイントだと思います。インタビューを見た印象は中国人らしく、いい意味で自己中心的。とはいえ、自分の芯があり、相手に流されないのはゴルファー向きの性格でしょう」(レックス倉本)
ハワイ出身でミッシェル・ウィの後継者! おっとりとした性格のアリセン・コープス
バラク・オバマ元大統領やミッシェル・ウィ・ウェストを輩出したハワイの名門私立プナホウ・スクール出身のアリセン・コープス。2008年にウィの記録を抜き、10歳3カ月9日で全米女子アマ・パブリックリンクスを史上最年少で予選通過している。
また、学業も優秀で南カリフォルニア大学では経営学を学び、その後、同大学院でグローバル・サプライチェーンマネジメントの修士号も取得した。フィリピン人の父と韓国人の母との間に生まれた長女で弟がいる。コープスが8歳のときにハワイに移り住み、コープス自身はアメリカ国籍を取得した。
「おっとりした性格の持ち主で、スウィングにもそれが表れています。力感のないアドレスからしなやかにクラブを上げていき、コンパクトなトップへ。この時、右腰の捻転がなく、回旋はあまりしていません。
ここからが素晴らしいのですが、切り返しから下半身リードで腰を回転させ、クラブを上手くコントロールしながらインサイドから下ろしていきます。インパクトからフォローにかけて右ひじを伸ばし切らずに左手の下に潜り込ませる動きでフェースをかぶりにくくし、コントロールされたフェードを生み出しています。
リーダーズボードを見て気持ちを高めるのではなく、自分のスコアに集中して淡々とプレーしていくタイプ。インタビューからは冷静ながら芯の強さを感じました。爆発力があるタイプではなく、マネジメント重視の選手なので、ネリー・コルダやブルック・ヘンダーソンのようなスター性があるわけではないのですが、どのような試合でも常に20位前後をしっかりキープするような安定した成績を残す選手といえるでしょう」(レックス倉本)
※週刊ゴルフダイジェスト2023年8月8日号「2023女子メジャー勝者 球人辞典」より