「アイドルなので怒らないように、笑顔でずっと頑張った」(菅沼)
18番パー4で行われたプレーオフの2ホール目、菅沼は1.5メートルのバーディパットを沈めて、決着をつけると笑顔で右手を高々と掲げた。
そして、グリーンサイドで待っていた同い年の稲見萌寧とハグ。
「萌寧ちゃんとか待ってくれている人の姿を見たら、優勝した感が出てきて泣きました」
1999年度生まれの菅沼と稲見は98年度生まれの黄金世代(勝みなみ、畑岡奈紗ら)と2000年度生まれのプラチナ世代(古江彩佳、吉田優利ら)に挟まれた世代。
自分たちを“はざま世代”と呼んできた仲間の祝福を受け、笑顔の初優勝は涙の初優勝に変わった。
初めてシード選手として迎えた昨季は出場33試合でトップ10が15回(うち2位2回、3位3回)と抜群の安定感を発揮し、メルセデスランキング8位とトップ選手の仲間入りを果たした。
最終日の平均スコアはツアー1位(69.78)。勝負強さを示すようなデータとは裏腹に、初優勝にはどうしても手が届かなかった。
今大会は2位に3打差の単独首位で最終日を迎える、これまでにない大きなチャンス。
「昨年も、今季も気負ってしまうことが多かったので、今日は私を見に来てくださるギャラリーの方の前でアイドルになり切った気持ちでやりました。アイドルなので怒らないように、笑顔でずっと頑張って、楽しく回れました」
オフには乃木坂46の公式YouTubeに出演。“推し"の一ノ瀬美空(5期生メンバー)にゴルフを教えていたが、初優勝に必要だったメンタルは乃木坂46に教えられた。
「自称アイドル風ゴルファー頑張ります!笑」(X・旧ツイッター)
「私は本当に乃木坂さんが大好きで、本当に可愛くて……。(私は)全然可愛くないんですけど、アイドルみたいなプロゴルファーがいてもいいのかなと思って、ポーズとか色々研究してやってます」
テレビ中継でカメラに抜かれると、時折視線を向けてポーズを取る菅沼流の「カメラ目線」も乃木坂46から学んだものだ。
コース上では笑顔を絶やさない菅沼だが、「広場恐怖症」という持病と戦う一面もある。パニック障害の一種で、菅沼の場合は電車、飛行機、船など、自分の意思で外に出られない公共交通機関が強い不安や恐怖を感じる。
そのため、他の選手が飛行機や新幹線を利用する距離でもすべて自家用車で移動。これまで北海道や沖縄の試合はすべて欠場している。苦しい思いをしてきただけに、
「私が活躍することで、同じ病気の方に元気、勇気を届けることが出来ると思います」
と同じように苦しんでいる人たちに寄り添った。
持病を公表し、ファンと苦しみを共有できる気持ちの強さも乃木坂から学んだメンタルとアイドル道だ。
優勝後の21時過ぎには自身のX(旧ツイッター)を更新し、
「この一勝をバネにもっともっと活躍して、自称アイドル風ゴルファー頑張ります!笑」
初優勝には時間がかかったが、確実に実績を積み重ねてつかんだものだけに2勝目、3勝目はきっと遠くはないはず。
女子ゴルフ界では珍しい、自らが「アイドル」を発信していくという個性を武器に、さらなる飛躍を誓った。