キックボクシングに取り組む女子プロたち
2020年、稲見萌寧は筋力アップや下半身強化のため、キックボクシングをトレーニングに取り入れたことが話題となった。そのシーズンに9勝を挙げ、見事賞金女王を獲得している。また昨季大活躍した菅沼菜々もキックボクシングによって体幹強化や軸の安定を手に入れたという。このキックボクシング、実はゴルファーにも最適なんです、と語るのは、トレーナーの斎藤大介氏だ。
「とくに女子プロには効果が高いです。女性はパンチやキックが苦手な人は多いですからね。2020年、渋野日向子選手のトレーナーになったときも、初期のころはチューブを使ったパンチトレーニングをよく行っていました。キック&パンチは速く強く、目標物を打ち抜く動作です。この打撃という動きは、ゴルフのインパクトと同じなのです。クラブヘッドでボールに衝撃を与えるインパクトは、キック&パンチと共通点が多いわけです。だからこそ、ゴルファーにおすすめのトレーニングなのです。私自身、実際のトレーニングメニューとして大いに活用していますから」
「力の出し方などさまざまな効果が得られる」(斎藤氏)
では、キック&パンチを練習することで、どんな効果が得られるのだろうか?
「まずは筋力アップ、体幹強化、下半身強化、軸の安定など、フィジカルトレーニングとしての効果が期待できます。さらに瞬間的にパワーを出すという意味で、力の出し方、伝え方が理解できるようになります。どうすれば速く強く、目標物を叩けるのか、その動きやイメージが、スウィングやインパクトの動きに直結していきます。キック&パンチをトレーニングに取り入れれば、飛距離は間違いなく伸びると思います」
キック&パンチでボールが飛ぶようになるのか? と半信半疑な部分もあるが、キック&パンチはプロだけでなく、アマチュアにも大きな効果があると斎藤氏は断言する。
「腰の回転を止めることでヘッドが走る」(斎藤氏)
そのメリットやノウハウとは?
力強いインパクトを身につけるには、押す力だけでなく、引く力が重要なんです、と斎藤氏。
「スウィング中は、骨盤(腰)が回り続けるものと考える人は多いですが、実は左股関節が回転を受け止め、一瞬骨盤が戻るような動きが入ります。飛距離が出る選手やスウィングがスムーズな選手は、必ずこの動きが入っています。私がトレーナーをしていたリディア・コー選手も腰の回転を一瞬止めてヘッドを走らせています」
それはいったいどういうことなのだろうか?
体の柔軟性とスウィングの再現性が高まる
「キック&パンチも骨盤が回り続けると、速いスピードや強い力は引き出せません。押す力と引く力がぶつかり合うことで回転力が上がり、足先や手先が加速するのです。ゴルフもまったく同じです。右股関節が回転する力と左股関節が受ける力(股関節の締め)がぶつかり合うことで上半身(腕)が走り、クラブヘッドが加速します。
これは『カウンター理論』といって10年以上前にゴルフトレーナーであり、格闘家でもあった故・岩崎恵一さんが提唱したものです。最新のスウィング解析機器のデータもこれを裏付けています」
スウィング中に骨盤が一瞬戻るというのは、なかなか理解しがたいが、プロのスウィング動画をスロー再生すると、そのように見える瞬間が必ず存在するというのだ。
「カウンター理論をスウィングの動きで理解するのは難しいですが、キックやパンチを練習すると簡単に理解できます。そのメカニズムを知るためにもキック&パンチが有効なのです。キック&パンチは全身運動ですからフィジカル強化につながりますし、アマチュアにも絶対おすすめです」
斎藤氏によると男性はキックを多め、女性はパンチを多めに取り入れるのがおすすめだという。
キック&パンチをトレーニングに取り入れると、上半身と下半身の連動性がアップし、瞬発力が上がり、体の柔軟性とスウィングの再現性が高まるのだ。
TEXT/Tomohide Yasui
※週刊ゴルフダイジェスト2023年6月20日号「飛距離が伸びるキック&パンチ」より