ツアー解説でおなじみの佐藤信人プロ。今回は、今シーズン6月の時点でフェデックスランク185位、シーズン終盤で2勝を挙げ、最終的にランク19位まで上がったルーカス・グローバーのゴルフについて語ってくれた。
画像: 6月のメモリアルで長尺パターを投入。復調の兆しをつかんだルーカス・グローバー(Photo/Getty Images)

6月のメモリアルで長尺パターを投入。復調の兆しをつかんだルーカス・グローバー(Photo/Getty Images)

今シーズン前半、ルーカス・グローバーはイップスの深みにはまった

この連載でルーカス・グローバーを取り上げたのは17年1月。09年の全米オープン覇者も15年にはパッティングの不調からシード権を失い、クローグリップに変えて少し明るい兆しが表れ始めた時期でした。ショットのスタッツは超一流ながら、パッティングのスタッツは100位台の後半。そんなグローバーだけに、そこを克服すれば必ずや復活する、との思いで取り上げたのです。

復活優勝は予想より少し時間がかかりましたが21年のジョンディアクラシックで10年ぶり4勝目を果たします。

しかし、そこから全盛期のゴルフを取り戻すかと思いきや、事はそう簡単ではなく。「イップスは腰痛と同じ」はボクの持論ですが、いつ顔を出すかわからないから怖くて思い切った行動ができない、など共通点が多いんです。

特に今シーズン前半のグローバーはイップスの深みにはまり、6月のメモリアルトーナメントまで出場18試合で予選通過が9試合、最高成績が36位タイ、その時点でフェデックスランクは185位。優勝による2年シードも今シーズンで切れ、シーズン後半に差しかかる6月の時点ではシード権獲得に程遠いところにいました。

ところが転機は、そのメモリアルで訪れます。この試合から長尺パターを投入。「長尺で結果が出なければ次は左打ちでいこう」と覚悟していたようです。ほぼ同身長のアダム・スコットと同じメーカー、同じ長さ、同じスペックのパターを準備し、グローバーはこの試合に臨みます。結果は予選落ちでしたが、この試合で何かをつかんだのは確かでした。

ツアー最終戦とプレーオフ第1戦で2週連続優勝!

その翌日の月曜日は全米オープンの予選会で、グローバーはプレーオフまで進みます。ここで彼が50センチを外し本戦出場権を逃したシーンは、グローバーが上位を連発し始めた頃に「1カ月前にはこういうこともありました」という感じでよく映像が使われていました。しかし一緒に戦ったキャディは彼にこう言います。「あのパットなどどうでもいい。なぜならプレーオフまで進めたじゃないか。これは明るい兆しだ」と。

するとその週のカナディアンオープンでは予選通過を果たし、シーズン最高の20位でフィニッシュ。そして翌々週のロケットモーゲージクラシックから3週連続でトップ10フィニッシュ、そして最終戦のウィンダム選手権でツアー5勝目を果たし、プレーオフシリーズに滑り込むと、シリーズ第1戦のセントジュードで2週連続優勝を果たすのです。

結果的にはかないませんでしたが、その時点では、ツアー選手権で優勝すれば年間チャンピオンの可能性も出てきたのです。数カ月前はシード権喪失と引退の危機にあった選手が……ちなみに今年、グローバーは一度もメジャーに出場していません。

アメリカ人ですが、日本でいう「昭和の男」のイメージ。寡黙で我慢強く、それでいて職人肌。グローブをしないプレースタイルで、猛暑のプレーではティーイングエリアの脇に置かれたアイスボック
スに手を入れて汗が出るのを防ぐ。長尺パッティングも、誰のアドバイスも受けずに動画で独学。選手やクラフトマン、メーカー関係者などに玄人受けする選手なのがグローバー。

メンバーには入れませんでしたが、最終戦後のライダーカップのキャプテンピックの際、この43歳の快進撃に、一番頭を悩ませていたのは、キャプテンのザック・ジョンソンだったのではないでしょうか。

※週刊ゴルフダイジェスト2023年9月19日号「うの目 たかの目 さとうの目」より

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