松山英樹のコーチ・目澤秀憲に、レッスン技術に造詣が深いライターDが、最新スウィング理論について話を聞いていく連載「みんなのスウィング3.0」。今回のテーマは「進化するタイガーのスウィング」についてだ。
画像: 左足への踏み込みの強さは変わらないが、それによって得られる地面反力の生かし方に変化がある。以前は、ほ とんどを「縦方向」(伸び上がりによる振り子加速)に使っていたが、現在は横方向(腰の回転)にも使っている

左足への踏み込みの強さは変わらないが、それによって得られる地面反力の生かし方に変化がある。以前は、ほ
とんどを「縦方向」(伸び上がりによる振り子加速)に使っていたが、現在は横方向(腰の回転)にも使っている

いい意味での「迫力のなさ」はアマチュアにも参考になる

D 前回は、タイガーのすごさというのは、単に身体能力が優れているとか、ゴルフの"感覚"がずば抜けているというだけじゃなくて、ちゃんと物理法則とか運動効率を理解していて、それをスウィングに落とし込んでいるところだという話でしたね。

目澤 しかも、それを多分プロデビューする前からやっているところがすごいんです。2020年の「ZOZOチャンピオンシップ」で来日したとき、ちょっとしたレッスン会みたいなイベントがあって、そのときに球の高さを変えて打つにはどうすればいいかというのを説明していたんですが、基本的にはフィニッシュの高さしか変えないという話をしていて。

D タイガーが子どものころに、父親のアールさんから教わったという話ですね。フィニッシュの手の位置が頭の上だと高い球、耳の高さだと中くらい、腰の高さだと低い球になるという。

目澤 これ、一見めちゃくちゃシンプルですけど、実はもっと深い話なんですね。フィニッシュの高さが変わると、スウィングアークの大きさが変わりますから、左足の踏み込みの強さも変わって、そうするとローポイント(スウィングの最下点)も変わります。

ローポイントが変わると、それに対するアタックアングル(入射角)も変わるんですが、たとえば低い球を打つときに、ただ単にロフトを立てて上から打つだけだとスピンが増えてしまいますから、そこで”何か”をしている(笑)。

D おそらく、ヘッドが地面と平行に動く時間が長い。

目澤 それもあると思います。それを、「こういう球」ってイメージするだけで、体が全部その通りに動くようになるところまで、”理屈”と”感覚”を近づけることができているってことですよね。

D タイガーは、ケガや腰痛の影響で長くツアーから離脱して、2018年に本格復帰を果たすわけですが、それ以降のスウィングはどうですか。

目澤 いい意味で”迫力がなくなった”感じがします。見た目には強く振ってないのに、ツアー離脱前より飛距離が出ているというのは、もう「効率お化け」ですよね。

D そのあたりは、復帰前後にスウィングアドバイザーとして関与していた、クリス・コモ氏の影響も大きいですね。バイオメカニズム(生体力学)の知識を使って、いかに体に負担をかけずに、全盛期(2000年ごろ)のスウィングに近づけるかということをテーマに、スウィング改造に取り組んだとのことですが。

目澤 ツアー復帰以降のタイガーは、左足のつま先を開いていて、ダウンスウィング以降に左サイドを回転しやすくしていますよね。地面反力を縦方向と横方向にバランスよく使っているのがわかります。以前よりタイガーの頭の中で、スウィングがかなりシンプルに整理されている印象を受けますね。

身体的にはもちろん全盛期を過ぎているわけですが、脳内の進化が止まっていないというか。2000年ごろのスウィングはタイガーにしかできないですけれど、今のスウィングはむしろ、アマチュアにとって参考になる部分が多いような気がします。

※週刊ゴルフダイジェスト2023年9月19日号「みんなのスウィング3.0 Vol.2」より

This article is a sponsored article by
''.