「普段から"カップと対話"することで、入るようになります」(林先生)
まず必要なことは、「気持ちの脳科学」だと林先生。
「カップの内側に自分がボールになったつもりでカップインする『マイゾーン』をつくること」だという。
脳には「同期発火」という現象がある。相手とマッチングする能力だ。
調子のよい組に入ると皆一緒によくなったり、逆もしかり、の経験がある方も多いだろう。
「パッティングのとき『絶対に入れてやろう』という気持ちを持つ人も多いと思います。そうではなく、カップを相手に『同期発火』を起こすんです。普段から心を込めて『入る』とカップと対話することで、入るようになります」
「マイゾーン」がポイントだという。
以前、柔道の井上康生氏から「なぜ残り15秒になって力が発揮できないのか」という質問をされ、「畳のこのゾーンに入ったら自分の得意技が絶対に掛かると考える訓練をしてください」と答えたという林先生。
ゴルフのカップにも同じようなゾーンをつくるのだ。
そして、「量子力学」の機能も使うとよりパワーアップするという。
「脳の機能では、樹状突起の電気信号を介して情報が伝わると言われています。でも、それを使わなくても、周りの人が興奮すると一緒になって興奮したり、苦しいときは一緒に苦しい、嬉しいときは一緒に嬉しい。これは『同期発火』の現象というだけではなく、量子力学の機能でもあるんです。量子力学では、いつも愚痴を言っている人は、いい気持ちは作れないという。プロゴルファーでも、悔しいとか負けるのが嫌だと思っているうちは、量子力学的にはいいパッティングができません。
このパットを入れることによって、世界のゴルファーがよい思いをするゴルフ界を発展させられる。そのために私は頑張る。という感覚を持つことが大事。量子力学でいう素粒子の流れがそうなっているんです。これは"素粒子のうねり"などと言われ、そのような考え方をするとうねりが非常に高くなって、すばらしい気持ちを生み出すと言われています。脳の働きの1つでもあるんです」
自分のためにゴルフをしていると考えないこと
これが、大きな力につながり、運も強くしてくれるのだという。
ゴルフに限らずいろいろな分野で言えることだと林先生。
「僕は医者ですので、医学の分野でいうと、何とか患者さんを助けてやると考えるより、自分の気持ちを集中させて、医療を進化させるためにやるんだと思うと、手術でも信じがたいような力が出てくるんですよ」
要は、自分のためにゴルフをしていると考えないことだ。
「日本人で海外のメジャーが取れないのは、技術ではなくて、その部分かもしれません」
「僕自身、最近大きな病気を、しかも重複して患った。気持ち的に負けそうになったんです。でも今まで僕が言ってきたことを考えるとこれではダメだと(笑)。家内にも今日から日本一の立派な患者になります、と宣言した。すると一気によいほうに向かいましたよ」
パット巧者になるためには、まずカップインするスタンスが必要
距離感とか方向性とか、ものがどう推移するかというのを察知するのは脳の「空間認知能」の働き。
ゴルフにはとても大事で、「距離感」や「ボールの転がり具合」「クラブをオンプレーンに振る」「再現性」といったさまざまなことに影響する。
空間認知能を正確に働かせるために必要なことは「体軸」の安定だと林先生。
「体軸の重心から整える必要がある。体の重心は頭のてっぺんから体の真ん中を通って、丹田を通って、くるぶし当たりの足裏に達する。足裏をケガすると空間認知能が十分機能しないくらいです。また、丹田は脳の機能を安定させるために絶対に大事。脳と丹田はつながっています」
多くの人は最初にどのようにボールをカップに入れるか考えているが、パット巧者になるためには、まずカップインするスタンスが必要なのだという。
「体軸が安定していない人はカップインするスタンスができていないし、だから何をやっても上手くいかない。安定させるために、ジョン・ラーム選手は丹田と足で固定して、目線が狂わないようにしているんです。ラーム選手は練習しているうちに自然に感じたのかもしれない。運動神経がいい人はそれができますから」
運動神経がよくないと自覚している方は、だからこそ、林先生の提唱する「構え」を試してみよう。
ポイントは"間合い"だ。
「パッティングにおける"間合い"とは、カップとテークバックの位置との距離感です。テークバックの位置からカップの間を距離感として目線で判断する力を人間は持っている。テークバックの位置はボールより15~20㎝後ろがいい。また、グリップより下、10~15センチに注目しましょう。空間認知能により、シャフトにあるX点を感じることができます。これも“間合い”の距離感です。このX点でパッティングするイメージでいいのです」
林先生が描いた「正しいスタンス」を見ながら試してみよう。
X点は練習しながら自分で見つけてほしいという。
「感じて、打ってみてボールがカップに面白いように入る場所がX点。練習すると見つけられ、見つけられれば一気に上達します」
X点が低すぎる人は、カップを低い位置から見ているので、ボールは必ず左に切れるという。
「たとえば姿勢を低くして打っている畑岡奈紗選手がそうです。見直せばきっとすぐにメジャーは取れると思いますよ」
皆さん、疑うなかれ。これらはすべて、脳の機能がなせるワザ。
伸び悩んでいる人こそ、ぜひ試してみようではないか。
◆林成之先生◆
1939年富山県生まれ。日本大学大学院医学研究科博士課程修了後、長く国内外の救命医療に携わる。日本大学医学部教授、マイアミ大学脳神経外科生涯臨床教授を経て、06年日本大学大学院総合科学研究科教授。04年第一回国際脳低温療法学会会長。「勝つための脳=勝負脳」について多くのトップアスリートたちに指導を行い、結果に貢献してきた
PHOTO/ Yasuo Masuda、Blue Sky Photos、Tadashi Anezaki、Hiroyuki Okazawa
※週刊ゴルフダイジェスト2023年9月26日号「メジャーに勝つ! 脳科学」より