ゴルフとサーフィンは、自然に配慮しないといけないスポーツ
――現時点で条件付きではあるものの、2024年パリ五輪の出場権を獲得しました。
五十嵐 今年はパリ五輪に向けて準備の年でした。家族やチーム、ファンの方々など周りのサポートのおかげで、毎日パワーをもらい、いい成績が取れました。そして、毎日のように少しずつですが成長しています。
――来年、プロ入り9年目です。
五十嵐 自分でもびっくりしますが、まだ26歳、ピークまでまだまだあります。17歳でチャンピオンシップツアーに入って、最初の5、6年は"子ども"という感じで、世界チャンピオンになることも考えられなかったけど、少しずつ勉強して上手くなって、この2、3年で世界チャンピオンになれるサーフィンができるようになった。これからがまたスタートという感じです。東京五輪では、メダルを取れるサーフィンのレベルにあるという自信と経験ができました。銀が取れるなら金が取れると思いますので、経験と準備でパリでもメダルを取れるように頑張ります。
――パリ五輪の会場はタヒチです。
五十嵐 タヒチの波は世界で一番危ないかもしれません。一回一回集中して練習しています。実は12~13歳で初めてタヒチに行ったとき、本当に怖くて。1本目から大きな波に巻き込まれて、岩で足を切ったんです。タヒチでは一生サーフィンをしたくないと思い、母に「行きたくない」と言ったイメージがあるくらい。でもたくさん練習して17歳頃から自信を持ってできるようになりました。東京五輪のときは緊張を力に変えるようにしましたが、タヒチでは怖いという気持ちをどうやって力にするか、ですね。
――怖さを乗り越える方法は?
五十嵐 やっぱりチャレンジです。寝るときに、なぜ上手くできないのかと悔しく思ったこともありましたけど、家族のアドバイスもあってそれを変える力を見つけたのかな。自分がやりたくないことをやるのが強くなるためには必要だと、父や母はいつも言っていました。部屋を片付けることなども同じです。練習したくないときこそ、きちんとやってきてよかったと思います。東京五輪(千葉・一宮町、釣ケ崎海岸)では自分のパフォーマンスを100%出す準備をしていましたが、パリ五輪(タヒチ・チョープー)ではパワーがある波のなかでのパフォーマンスになる。タヒチの波は、すごくシンプルだけどビッグウェーブ。海を読む、いい波を探すことがすごく大事。サーフィンは場所でスタイルが変わります。
――ゴルフと同じですね。
五十嵐 はい。自然に配慮しないといけないスポーツ。同じ波はなくて、来る波を読んで自分がどういうパフォーマンスをするのか考えます。タヒチではそれがすごく大事ですから、今年は特に、波の読み方とパワーのサーフィンを強化しました。
ゴルフとサーフィンの共通点は「コア」を使うところ
――13歳の頃からゴルフをしているというカノア選手。忙しいなか、ゴルフはできていますか?
五十嵐 始めたきっかけは、ケリー・スレーター(トッププロサーファー)がやっていたから。今年は昨年より意外とラウンドしているかも。調子も今までで一番いいかもしれません。2カ月くらい前に、地元のハンティントンでラウンドして87でした。でも最後の2ホールで、ダボとトリだったんです。もったいないでしょう。プレッシャーに負けちゃった感じ。やっぱり考えすぎたんです。すごく調子はよかったんですけど、自分で「何だか今までで一番調子がいいぞ!」と考えすぎて、2ホールとも池に入っちゃいました(笑)。
――私たちと同じです(笑)。ゴルフとサーフィンに共通する動きなどはありますか?
五十嵐 やっぱり「コア」をすごく使うところです。体をひねるところもかな。サーフィンではコアから全部のパワーが来るという感じですが、ゴルフもそう。何のスポーツでもそうですが、コアが強ければ、腰やひざのよい動きにもつながるし、ケガから守ってもくれます。
手にはあまり力を入れないけど、足とコアの力でパワーを入れる感じは同じ
――ケリー・スレーターさんが、ゴルフもサーフィンも生体力学と調和していると言っていました。
五十嵐 そうかもしれません! 沈んで上がる力でパワーが出る感じ。手にはあまり力を入れないけど、足とコアの力でパワーを入れる感じは同じです。地面を蹴る意識もありますね。
――結果が悪かったとき、よかったときの過ごし方は?
五十嵐 バランスが大事。気持ちのアップダウンをなくすこと。結果がよくても喜びすぎないように、頭のなかは気持ちいいけれど、上に行きすぎないようにするのが大切。いい波が来てテンションが上がりすぎたら、次の波では下がるということがあります。ゴルフでもバーディを取って「すごく嬉しい!」とならず、次のプレーに集中しないといけない。
――そのためにやっていることは?
五十嵐 常にハッピーでいること。結果は関係なく楽しんで海に入っています。楽しむ気持ちが一番、力を出してくれます。
練習すれば自信は必ずできる
――試合前の自分の保ち方、ルーティンはありますか?
五十嵐 僕は競技がすごく好きですから、自然にテンションが上がるようにする。レゲトンというスペイン語の音楽を聴くとサーフィンに行きたくなります。もちろん気持ちを上げすぎるとよくないので、バランスは取っています。
――世界を目指すジュニアたちにアドバイスはありますか。
五十嵐 やっぱり自信を持って取り組むのが大切だと思う。世界で1番になるためには、自分で自分を一番信じないといけない。「自信」はどうしたらできるかというと、やっぱり「練習」すること。練習やトレーニングをすれば「準備」ができます。準備ができていれば自信は出てくる。そういうステップがあります。何のスポーツでも自信があれば、自分のなかがクリアになる。確かに難しいことだけど、練習すれば自信は必ずできる。僕もまだ勉強している段階ですけど、このステップはすごく自分の助けになることだと思います。
みんなを見て、自分が上手くなる
――小さい頃から世界を回って試合に出ているカノア選手。世界を目指すなら、早めに世界に飛び出したほうがいいですか?
五十嵐 そうですね。やっぱりすごく勉強になると思う。言葉もそうだけど、違う文化や食べ物なんかもたくさん経験するとか、ちょっとしたことでもいいんです。その経験が自分のスポーツにもつながります。僕はサーフィンで世界を回って、違う波、違うコンディションを経験し、あとは違う選手とも戦ってきた。ヨーロッパのスタイルは違うし、オーストラリアのスタイルはまた少し違う。みんなを見て、自分が上手くなる。そのための経験なのかなという感じです。世界を回るのはすごくいいと思います。
――食べ物が合わないことなどはないですか?
五十嵐 子どものときから、なるべく、どの国に行っても、合わない食べ物でも頑張って合わせるようにしています。どこに行っても何の食べ物でもエネルギーになるように、自分を慣らす練習、そういうトレーニングもあるんです。
――どうしたらそんなに外見も内面もカッコよくなれるんですか?
五十嵐 ははは。何だろう。自分のスタイルに自信を持つということです。よいスタイル、悪いスタイルはない。自分で自信を持っていれば、そのオーラが外から見えるんだと思います。
コーチは技術を教えてくれたり、チェックしてくれたり、アイデアをもらえる存在
――今後、重点的に取り組みたいことは?
五十嵐 コーチやチームとミーティングして決めたい。ジムメインでトレーニングしたり、海外のパワーある波で練習したり。今年は最初、コーチを付けずに1人でやろうと思ったけど、シーズンインして2週間後に、やはり必要だと思ったんです。そして途中からコーチが入り、だんだん彼とのリズムも合ってきて、成績もよくなってきました。コーチは技術を教えてくれたり、チェックしてくれたり、アイデアをもらえる存在です。来年は最初から100%で一緒にやっていきたいです。
――サーフィンをいくつまで続けますか?
五十嵐 一生やりたいですね。オリンピックもパリ、ロサンゼルス、オーストラリア……何回も行って金メダルを取りたいという夢がありますから。
――改めて、目標は?
五十嵐 来年はオリンピックもありますから、金メダルを取ることと世界チャンピオンになること。そのために毎日1%でも上手くなりたい。時間を上手く使い自分をコントロールして目標に近づけるように頑張ります。でも、メダルやトロフィはすごく大切で幸せですけど、一番フォーカスしたい夢は、人間として日々"よくなる"こと。いい息子でありいい友人であることが大切だと思いますし、それができればサーフィンの結果もついてくると思います。
PHOTO/Takanori Miki
※週刊ゴルフダイジェスト2023年10月17日号「五十嵐カノアのサーフ&ターフ」より