「南アフリカの選手に多いアイアンの名手」(佐藤プロ)
PGAツアーフェデックスカップランク125位の崖っぷちから、フォールシリーズ5試合目のワールドワイドテクノロジー選手権で優勝。来季の出場権を手にしたのが、南アフリカ出身の33歳、エリック・ファン・ローエンです。
実はこのファン・ローエン、21年終盤のバラクーダ選手権でも139位からの初優勝。この優勝でも崖っぷちからプレーオフに進出し、一気にツアー選手権まで進むという快挙を成し遂げました。PGAツアー2勝目の試合後、「今週はこれで戦ったんだよ」とカメラに見せたボールには「♪JT」とペンで書き入れられていました。
趣味がギターである彼は、今年の初め頃に音符を描くことを思い付いたそう。そこに加えたJTとは、ジョン・トラサマールの頭文字。彼もまたプロゴルファーで、ミネソタ大時代のルームメイトにしてゴルフ部でのチームメイト。結婚式ではベストマンを務めた親友です。試合の週の火曜日、その彼からファン・ローエンが受けた連絡は、「余命数週間」というものでした。JTはメラノーマ(悪性黒色腫)という癌に冒され、4月には一旦寛解したという報告があったようですが、すでに全身に転移。ファン・ローエンのキャディも同じく大学のチームメイトで、2人して試合で優勝を目指すどころではありませんでした。キャディがインタビューで「It was meant to be」と言っていて、2人ともそう感じたのでしょう。「運命づけられた」見えざる力をボクも感じました。こうしてファン・ローエンは2勝目を挙げたのです。
これを見てボクは、91年の尾崎直道さんの日本シリーズでの優勝を思い出しました。大会前日に父の実さんが亡くなり、欠場したジャンボ、ジェットの2人の兄の思いを託され出場した大会です。この試合で連覇を果たすと同時に逆転で賞金王に輝いたわけですが、OBと思った球が木に当たって出てきたり、25メートルのパットが決まるなど、ミラクルと呼ぶべきプレーがあったようですね。“見えざる力”を感じます。
ともかく、優勝を決めた後のファン・ローエンの、「トロフィよりも大事なことがある」という短いコメントに、すべての思いが込められていた気がします。今季、ファン・ローエンの調子は良くなく、出場できなかった全米オープンの週から、ショーン・フォーリーのコーチングを受けます。プレーオフシリーズには進めませんでしたが、スイス、アイルランドではまずまずの成績。2年シードも終わりの年で、崖っぷちからの優勝は、やはり、目に見えない大きな力が働いたと感じます(その親友は、先日亡くなったそうです。優勝後、ファン・ローエンはJTに会うことができたそうです)。
さて、この試合で優勝争いを演じ、2位となったカミロ・ビジェガス。優勝したファン・ローエンに、「友人をハグしてやってくれ」と、祝福したビジェガスもまた、“見えざる力”によって翌週、優勝するのです。このもうひとつの“見えざる力”の話は次週に続きます。
※週刊ゴルフダイジェスト2023年12月12日号「うの目 たかの目 さとうの目」より