最近強いゴルフ部として挙げられる早稲田大学、日本体育大学、大阪学院大学。この3校には、新進気鋭の監督がいて、3人とも50代前半、母校のゴルフ部で監督を務める。それぞれに経歴は違えど、ゴルファーを育てる真剣な気持ちは同じ。3人に、部の教えや育成への考え方を聞いた。全3回にわけてお届けする、1人目は早稲田大ゴルフ部の斉野恵康監督。
画像: ゴルフ専門誌「ゴルフダイジェスト社」の前に立つ斉野監督は、編集者出身という異色の経歴の持ち主

ゴルフ専門誌「ゴルフダイジェスト社」の前に立つ斉野監督は、編集者出身という異色の経歴の持ち主

「自分で考え正しい方向に育っていけるよう手助けを」(斉野恵康)

早稲田大学ゴルフ部は昭和10年に創部された。

「学生ゴルファーの規範たれ」+「競技力を高めて日本一を目指せ」の2本柱をスローガンに、日々“文武不岐”に努める。

学問において己の専門性を見出すことと、競技力向上に邁進することは表裏一体であるととらえているからだ。

監督の斉野恵康は、小学校で柔道と卓球に取り組み、中学でバスケット部に入るもののひざのケガで途中断念。

「成長期の障害です。大学に入り治ったので、ゴルフを始めました」

ゴルフにはすぐにハマった。

「自分が占有していいスペースがどの競技よりも広い。思い切りプレーできる感じが好きです」

常に新しい物事に向かう努力の人だ。

「誰も教えてくれないので、レッドベターのアスレチックスウィングを読んで勉強し練習しました。ただただ練習量だけで成り上がりました。7Iだけをダフらずきちんと当て、狙った場所に打つだけの練習です。打って球拾いをして、をくり返しました」

未経験者にして、レギュラー獲得。プロに、と思った時期もあるが、同期の久保谷健一(明治大)とリーグ戦で争い、大きなレベルの違いを感じた。

「道を誤らなくてよかったです(笑)」

ゴルフ誌の編集者を経て、広告営業、新規事業の企画運営などを行ってきた。現在は日本トレーニング指導者協会の事務局長を務める。

年々増すトレーナーの需要に応えるため、日々知恵を絞り行動している。

30年近く務めていた前任から早稲田の監督を受け継いだのは22年8月。基本、ボランティアだ。

「普通に月~金で働いて本業も忙しい。30代からコーチはしていましたが、本気で関わるようになったのはここ数年。僕はまず、体力面から作り直そうと思いました」

その頃、帝京大学ラグビー部の岩出雅之監督に仕事でインタビューする機会があった。

トレーニングは「強化」だけでは足りない

「就任して10年は勝てず、その後10年勝ち続けた名監督に、何が変わったのか聞きました。"フィジカル"という答えを望んでいたんです。でも、もちろん最新のトレーニング、練習、戦略は取り入れて続けてきたけれど、あえて言うなら『文化』です、という答えが返ってきた。それまで、トレーニング場にテーピングのカスが落ちていたり、寮でスリッパが乱雑に置いてあるのが当たり前だったと。それを下級生にさせるのではなく、気づいた人間が率先して片づける。練習準備やメニュー決めなども4年生が行い、下級生に目的から伝える。そういう『文化』を変えるのに10年必要だったそうです。そこで僕は、トレーニングで体を作るというベースの上で、『強化と文化』で行こうと決めました」

“文化”は、前監督が厳しく伝えてきたので指導する必要はなかった。ただ、強化のほうは手つかずの部分が残っていた。

「人格が素晴らしくてもゴルフが下手だと言い訳になりますから。僕が最初に送り出した主将が、『今まで競技成績より人格形成ばかり言われることに違和感を覚えることもあったけど、両方やるとなったとき、一緒に目指せると思えた』と言ってくれました」

“答え”が容易に手に入る時代だ。

「僕たちの時代は答えを本で探したり知人に三顧の礼で教えを請うたり、努力して手に入れた。今は、ネットなどにすべて答えがある。だから、学生たちに何かを伝えるときも1から10まで、また結論はこうだよと伝えないといけません」

画像: 今年の日本アマで優勝した中野麟太朗。早稲田は関東Aブロックリーグ戦で優勝争いに顔を出すくらい強くなった(photo/Hiroaki Okazawa)

今年の日本アマで優勝した中野麟太朗。早稲田は関東Aブロックリーグ戦で優勝争いに顔を出すくらい強くなった(photo/Hiroaki Okazawa)

今、早稲田は関東Aブロックリーグ戦で優勝争いに顔を出すくらい強くなった。

「たまたま、中野麟太朗を始めとする強い世代が入学してきたからです。僕はラッキーだなと。でも運はあるほうなんです」

と笑うが、

「スターを育てるという意識はない。中野を特別扱いはしないけれど、逆に学生のなかに自然に追いつけ追い越せという空気が出ている。(斉野が長年委員を務める)KGAのジュニアの保護者講習で心と身体の話をします。心は、先にゴルファーになって、次にアスリート(競技ゴルファー)になると。エチケット、マナーが先にくる。身体は逆で、どんな競技もできる運動能力を総合的に高めることからです」

学生のモチベーションアップが仕事

また、技術は体力があってこそ成り立つ。練習するため、継続するためにも必要だと考えてもいる。

「僕の仕事は、学生のモチベーションアップなんです」

そのための工夫は怠らない。

「月に1度、体力測定を行います。数値化して競わせる目的もありますが、測定だと自分の最大限の力を出すから。トレーニングは“過負荷の原理”で自分の記録を越えていく必要がある。測定自体がトレーニングにもなるんです」

また、マネジメントなど“賢いゴルフ”を目指すため、「パーオン禁止」ラウンドも行う。

「パーオンしたら1ペナにすることで、考える要素がどんどん出てきて、マネジメント力もアップします。これは答えを教えません。やりながら自分で答えを見つけてほしいのです」

月に1度のミーティングでは、考え抜いて準備した言葉を伝える。

「たとえば、目的や目標と手段の違いを理解させる。目標や目的を共有していれば手段、方法論は最適なものに変えていい。部のルールを守っていれば、部活は最低限出てプロコーチのもとに通っても、部の練習場でひたすら打っても、各々で選択すればいいんです。世の中には手段だけ継続して目的を見失っているものもあります。

“伝統”というものにはありがち。でも伝統とは、目的や目標、理念や理想を受け継ぐことであり、そのための手段は変えていって構わないと考えています。コーチング理論も学んでいますので、選手を自分のロボットに作り上げようとはしない。自分で考え正しい方向に育っていけるために必要なことを手助けするのだと思っています」

という斉野。

シン・早稲田ゴルフが楽しみだ。

※週刊ゴルフダイジェスト2023年12月19日号「大学ゴルフ部・新進気鋭の監督に聞いた! 育つ力」より一部抜粋

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