最近強いゴルフ部として挙げられる早稲田大学、日本体育大学、大阪学院大学。この3校には、新進気鋭の監督がいて、3人とも50代前半、母校のゴルフ部で監督を務める。それぞれに経歴は違えど、ゴルファーを育てる真剣な気持ちは同じ。3人に、部の教えや育成への考え方を聞いた。全3回にわけてお届けする、2人目は日本体育大学ゴルフ部の木原祐二監督。
画像: 日体大伝統の“えっさっさ”を中島啓太と河本力が実演。今年賞金王になった中島を始め、卒業生も練習場にフラッと顔を出す。現役OBの垣根を超えたゴルフ部の自由な雰囲気が伝わってくる

日体大伝統の“えっさっさ”を中島啓太と河本力が実演。今年賞金王になった中島を始め、卒業生も練習場にフラッと顔を出す。現役OBの垣根を超えたゴルフ部の自由な雰囲気が伝わってくる

「明るく自由に。しかし、自己責任はしっかりと」(木原祐二)

日体大ゴルフ部の部活動は、8年前に校内にできた練習場で、男子は火・木、女子は月・水に行われる。授業が終わった学生から集まり、19時まで活動することだけは決まっているが、あとは自分たちで教え合ったり、自由で楽しい雰囲気のなか行われる。

「情報交換の場にもなります。学生を整列させ、『人間とは……』なんて教訓を話すのは僕らの時代だけですよ」

と言うのは監督の木原祐二。ここで、今ツアーを引っ張る若手プロ、河本結・力姉弟、石川航、そして今年の賞金王となった中島啓太なども練習してきた。

画像: 木原監督が一番意識し、改革してきたことは部活の雰囲気づくりだという

木原監督が一番意識し、改革してきたことは部活の雰囲気づくりだという

「みんなの活躍は本当に嬉しいです。何よりインタビューの受け答えなどがしっかりできているのを見ると、うちの大学特有の良さだなと。これらは教えているのではなく、先輩や他の授業の先生たちから、感じて学んで覚えるんです」

確かに、トップアスリートだらけの環境で得ることは多い。

「ゴルフは視野が狭くなりがち。本校は、いろいろなスポーツに本気で取り組むし、オリンピック選手にもトレーニング方法などを聞けます」

木原が一番意識し、改革してきたことは部活の雰囲気づくりだ。

「日体大のイメージは厳しくてビシッと並んでハイッという感じでしょう。でもそうすると選手が本音を言わなくなる。たとえば、今日は手が痛いからパター練習だけにします、ということを言いやすい環境にしたい。この雰囲気になるまで5年はかかりました」

ゴルフ部の方針は「ボーイズビーアンビシャス」

ここには「これをしなければいけない」はない。

ゴルフ部の方針は「ボーイズビーアンビシャス」。

「夢を捨てないこと。鳴り物入りで入ってきた学生たちにも、初心者にも夢はある。それを諦めないでほしいんです」

技術はあえて教えない。

「物理的なこと。クラブの構造や人の動きからすると、君たちの動きはおかしい、ということは伝えることもある。ダウンでシャフトを寝かせなきゃいけない、などは言いません。もちろん、初心者には持ち方から教えますよ」

ツアープロを目指したこともあるが、「諦めるのもセンスです」。

PGAのティーチング資格を取り、レッスンもしていたが、テーラーメイドから、クラブフィッティングや開発の仕事を、と声がかかった。

「アメリカ修行させてくれたんです。クラブの作り方や研究を教えてもらっている最中に、ゴルフ部の前の先生が病気で倒れられて。僕に授業をしてほしいと。非常勤から教員になりました。テーラーさんには感謝しています。アメリカ経験は役立ちましたね。クラブのことを知れたのはもちろん、休日に中学の野球の試合を観に行くと、皆すごく自由で楽しそうだし、選手やコーチが友達みたいで。衝撃でした」

画像: 賞金王の中島らトッププロを輩出するまで就任から20年かかったという

賞金王の中島らトッププロを輩出するまで就任から20年かかったという

就任当時はゴルフ部には1、2人しかいなかった。練習場もなかった。それから20年、トッププロを輩出するまでになった。今年50歳の木原がゴルフ部に在籍する時代は、上下関係も厳しかった。

「時代もありますよね、でも、やはり世界と戦うとなると、昔ながらの"体育会"は意味がない。それより、自分たちのゴルフがよくなるにはどうするか、自分で考えなさいと。自分でやるのがゴルフ。気持ちも日常からコントロールできるように。自己管理がメインです。遊びも自己責任。それでゴルフがよくなるなら、息抜きのためならいいけれど、そこはもう自分で管理しないと。プロになっても同じですからね」

監督として苦しい時もあった。

「選手に恵まれただけです。ゴルフ部の先輩や後輩、周りの人にも結局助けられて、今は楽しい。最近の学生は、うちはアスリートを目指す子が多いからか少し子供っぽいなと思うことはある。でも、考えている子はものすごく深いです。僕らのときは平均点の学生が多かった気がします」

ゴルフ部の目標は、リーグ戦で勝つことではない

体育大学とはいえ、

「大学を卒業するのが第一、ゴルフはその次」

ときっぱり。

「高校から一つ皮をむいて社会に出ていくわけですから、そこは常に意識します。スターになる選手は素直ですよ。(中島)啓太なんか、本当に素直だし、朝練も一番早く来て、掃除も先にするような子ですから、練習している姿も含めて、いるだけで影響力がある」

ゴルフ部の目標は、

「リーグ戦で勝つことではない。入学時の夢を叶えられること。プレーは褒め称えも、怒りもしない。自分の目標を達成できる環境になっているか、自分がそういうふうに動いているかということが大切です」

自身の目標は、

「ゴルファーを、ゴルフファンを増やすことです」

という木原。見据える先は、部活動にとどまらない。

PHOTO/Tadashi Anezaki

※週刊ゴルフダイジェスト2023年12月19日号「大学ゴルフ部・新進気鋭の監督に聞いた! 育つ力」より一部抜粋

This article is a sponsored article by
''.