還暦まで現役を続けるというスキージャンプの葛西紀明さん。オリンピック8回出場を誇るレジェンドが今も第一線で活躍できる理由は強靭な体力だけではない。その裏にあるのは「思考力」の違いだ。長く現役、かつ活躍し続けるヒントを、他とは違う思考力を持つゴルファーを描く「オーイ!とんぼ」の原作者・かわさき健さんが聞き出した。
画像: ゴルフ好きで知られる葛西紀明に、人気ゴルフ漫画「オーイ! とんぼ」の原作者・かわさき健がインタビュー

ゴルフ好きで知られる葛西紀明に、人気ゴルフ漫画「オーイ! とんぼ」の原作者・かわさき健がインタビュー

「あと10年、還暦まで飛ぶ。もうちょっとできるんじゃないかと…」(葛西)

かわさき あと10年、還暦まで飛ぶとおっしゃってますよね。

葛西 実は(還暦より)もうちょっとできるんじゃないかなと。チームの20代前半の若い選手と一緒にトレーニングしたりキャンプしたりするんですけど、負けないんですよ。僕のほうが動いているぐらい。だから、まだできるんじゃないかって思っちゃうんです。

かわさき 確かに今日ゴルフご一緒しましたけど、走るし、若い。

葛西 50歳になったからといってメニューもまったく変えずに取り組んでいますし、今は楽しくてしょうがないですね。競技で自分が表彰台に上がったりするのは快感ですし、それを応援してくれる声援も気持ちいいし、それに応えたい。海外で「KASAI!」の声援をもう一度聞きたいんですよ。

かわさき なるほど。葛西さんって、もう一回大舞台の表彰台に立って歓声を聞きたいという“動機”が一番最初に来ているんですね。才能とか、環境とか、体とかよりも前に動機がある。そのあとに才能とか環境がついてくる、という感じなんでしょうね。目標はオリンピックであり、金メダル?

葛西 はい、それはブレずに。

かわさき それも動機ですよね。普通はこの年齢になると、体力的にちょっと厳しいかな、って思うじゃないですか。でも逆ですもん。「体力的にも若いやつに負けない」。そこがクリアになっているのがすごい。本当に60過ぎまで飛びそう。まだ10年以上楽しませてもらえますね。

「自分に”リミッターをかけない”思考がすごいですね」(かわさき)

葛西 40歳になった頃から、急にヨーロッパで応援してくれる人が増えて、歓声が変わったんです。30代後半ぐらいはちょっとバカにしたような感じだったんですよ。いい成績でも、「まだやってんのか」みたいな。でも40歳を超えてメダル取ったり、W杯で勝ったりすると逆にリスペクトされて。僕が飛ぶときに誰よりも歓声が大きくなるし、最高に気持ちいいんですよ。心からの応援だなぁって感じたら「もっと活躍したい」って思って。で、50歳になって、海外で戦ったらどうなるのかなと。その期待が今、自分の中にあります。

かわさき ゴルフでもベテランが若者を打ち負かす姿は痛快ですもんね。60歳で葛西さんが表彰台に上ったら、世界的にすごい騒ぎになりそう。でも還暦過ぎてもなんて……。自分に“リミッターをかけない”思考がすごいですね。

「ジャンプは飛べて1日10~20本。簡単に飛べない分、ほかのことでヒントを得ています」(葛西)

かわさき やっぱり、スキージャンプが大好きなんでしょうね。

葛西 はい、大好きだし、難しいんですよ。ゴルフも難しいですけど、スキージャンプ、難しいです。ただ飛んでいるように見えるかもしれないけど、相当な技術と体力、メンタルも必要です。でも練習は簡単にはできないじゃないですか。ゴルフなら1000球だって打とうと思えば打てる。でもジャンプって何百本も飛べないんで。せいぜい1日10~20本。だから上手くなるまでに何カ月、何年もかかる。相当難しい競技です。

かわさき リフトに乗って上っているときにもいろいろ考えるし、もっと言えば、日常生活でも四六時中考えているわけですね。

葛西 僕、走るのが好きなんで毎日走るんですけど、走ってると「あ、これジャンプでやってみよう」ってパッとひらめくときがあるんです。簡単に飛べないぶん、ほかのことでジャンプのヒントを得ています。メモしておいて、飛ぶ前に見て「今日はこうしよう」と。で、ピタッとはまると距離がブワッと出るんですよね。「お~きたきた~ッ」ってなる。その瞬間がまた楽しいんですよ。

画像: この練習の時もイメージをフルに発揮(photo/Getty Images)

この練習の時もイメージをフルに発揮(photo/Getty Images)

「天候不良で“試技なし”の試合もある。すべては考え方ひとつだと思うんです」(葛西)

かわさき ゴルフもイメージが出てないときは、練習なんかしないほうがいいですもんね。

葛西 オリンピックは4年に一度。そこでのたった2本(競技で飛ぶ回数)に合わせるためにすべてやっているわけです。ゴルフだったらボギー、ダボを叩いてもどこかでバーディやイーグルがあるかもしれない。でもジャンプには“かもしれない”がない。1本目失敗して2本目に大ジャンプしたとしても、メダルには届かない。

かわさき 2本のために4年間かける。そのために身も心も研いで研いで先端が尖りまくった状態でそこに行くんですよね。それでも風とか運の部分もあるし……。

葛西 でも運は自分で呼び寄せるものだと思うんです。僕、オリンピックに8回出て、7回目に銀メダルと銅メダルを取ったときはちゃんといい風が巡って来るんですよ。風が来ないときは、もうなんだよこれ! って心の中で煮えくり返ってますよ。でもこれも次のオリンピックのときにいい風が来るための試練なんだ、と思って我慢しましたね。やっと、リズムが(7回目の)ソチでバチッと合ったんです。

かわさき 銀を取ったときは予感めいたものはあったんですか?

葛西 ありましたね。オリンピック前に「W杯で勝つ」とか、全部こうなる」っていうのを手帳に事前に書いていったんですね。成功するために。で、全部それが当たっていくんです。これは完全に取れたなと思いました。「オリンピックで金メダル! ブレーキングトラックで大の字になって号泣」って書いてあって、そこだけ外れましたけど(笑)。

※週刊ゴルフダイジェスト2023年12月19日号「メダリストの『超思考法』に学ぶ」より一部抜粋

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