昨年8月に大規模な山火事に見舞われたマウイ島西部の街、ラハイナ。PGAツアーの開幕戦の舞台、カパルアゴルフ・プランテーションコースから至近の位置にあり、同ゴルフ場も多くの影響があった。当時の様子、そして現在取り組んでいる状況をカパルアゴルフの支配人、アレックス・ナカジマ氏に聞いた。
画像: カパルアゴルフ アンド テニス ゼネラルマネージャー アレックス・ナカジマ氏

カパルアゴルフ アンド テニス ゼネラルマネージャー アレックス・ナカジマ氏

情報が得られず、自分たちの状況がわからなかった

今年もPGAツアーの開幕戦「ザ・セントリー」の会場は、マウイ島の「カパルアゴルフ・プランテーションコース」。カフルイ空港からカパルアまでは車で約1時間。思わず目を奪われる絶景の海沿いを抜けると現れるのが、西マウイ主要の街、ラハイナだ。

画像: マウイ島の西部に位置するラハイナ(Google MAP)

マウイ島の西部に位置するラハイナ(Google MAP)

今もなお、山火事の爪痕がいたるところに残されているラハイナ。目隠しで覆われているものの、その間からは手つかずの焼け跡も垣間見える。フェンスには犠牲者の写真が何十枚と貼られていたり、励ましの絵や手紙なども掲げられている。現在も封鎖されている道路があり、街のこんなところまで火が来ていたのかと、改めて今回の山火事のすさまじさを思い知らされる。

「焼失した住居は約3000件。街の3分の1が火災の影響を受けたとされています。当ゴルフ場でも、やはり3分の1ほどの従業員が被災しました」とカパルアゴルフの支配人、アレックス・ナカジマ氏。火災当時は電気も、もちろんインターネットも遮断、自分たちの状況がつかめなかったという。

「翌日には、ボロボロの服を着て、煤で真っ黒になった人が歩いてやってきたりする。食べ物も、家も車も学校もなくなって、明日からどうすればいいんだ、という人たちが大勢いました。でもとにかく食料だけは確保しなくてはということで、レストランを開放し、1日何千食と作り、教会や学校へ届け、そこから被災した方に渡していきました」

 住居を失い、今もホテルなどの仮住まいを余儀なくされている人は1000世帯ぐらいあるのではという。それ以外にも生活面の問題は多々ある。

「今は医療がひっ迫している状況。病院も被災し、街には小さなクリニックが1件だけ。当然忙しくて予約が取れない。そうなるとコストをかけてホノルルまで行くという人もいます。焼け跡の整備も、まずは表面の灰をブルドーザーでガーッとかき集めたいんですが、敷地の所有者によっては“土の中に遺骨があるのだから、そんなことしてくれるな”という人も。集めた灰や土壌も、バッテリーの中身が染み出したりして汚染されている可能性もあるため、そういった土壌を保管する場所の確保も必要。近隣の地域に持っていくにも住民の反対もあるため、カホオラヴェという無人島へというプランもありますが、昔の爆撃試験場で、50年かけて元に戻そうという動きがあるのにそれでいいのか、という論争も。まだまだ大変なのはこれからです」

ゴルフ場としても、できる限りの支援をしていった。

「被災当初は、数日衛星電話もつながらなかったのですが、高台だと少し電話がつながるということで、高いところにあるカパルアに一時期人が集まっていました。心のよりどころである教会や寺院も焼けてしまったので、人々が集まれる場所としてゴルフ場を開放しましたし、旧クラブハウスを学校として改装し、そちらも今月から本格的にスタートします」

 オーナーの柳井正氏と相談しながら、ユニクロの商品をサイズ別、男女別に仕分けて用意したり、子供たちのためにバックパックや文房具を用意したり……日々変わっていく被災者のニーズに対応していっているという。

開催コースは2カ月間のクローズで例年以上に良いコンディションに

そんな中で、迎えることになった「ザ・セントリー」。開催に向けての準備も始めていった。

画像: ラハイナの街中、また大会期間中のフードトラックなど、多くの場所で「LAHAINA STORNG」の文字が見られる

ラハイナの街中、また大会期間中のフードトラックなど、多くの場所で「LAHAINA STORNG」の文字が見られる

画像: 多くの選手とキャディがレッドリボンをつけてプレー

多くの選手とキャディがレッドリボンをつけてプレー

画像: 大会3日目は、ラハイナのために赤いシャツを着ての観戦を呼び掛けた

大会3日目は、ラハイナのために赤いシャツを着ての観戦を呼び掛けた

「火災後、プランテーションコースは、もう一つのベイコースとともにまず1カ月間閉めました。その後、まずベイコースをオープンし、その1カ月後に今度はプランテーションコースを開けて、ベイコースをクローズに。なので、結果的にプランテーションコースは、2カ月間プレーヤーを入れない状態で、エアレーションを含めじっくりと整備できました。トーナメントを開催するための商品(コース)はいつも以上にコンディションがいい。ただPGAツアーは開催に関して、“ハワイ州がWelcomeなら……”というスタンスだったのでやきもきしましたが、こうして開催できて胸をなでおろしています」

画像: コースの仕上がりは選手たちからも上々の評判

コースの仕上がりは選手たちからも上々の評判

 例年「ザ・セントリー」は、1週間で約2万人のギャラリーを見込んでいるが、今年はおおよそ6割の規模感を想定した。

「マウイ島全体が火事で大変な状況なのでは、という心理的なバイアスもある。ラハイナのレストランも60件なくなってしまったり、仮設トイレも資材を運ぶトラックも、復興作業優先で十分ではありません。そういう中でやり繰りしながらですが、必要かつ十分な用意はできました」

一部には、大会を開催することに反対する地域住民の声もあるようだが、参加する選手たちの“ラハイナのために”という高い意識が、今大会を開催することの意義を深めることになった。

画像: リッキー・ファウラーが企画したラハイナの「L」をあしらったキャップ

リッキー・ファウラーが企画したラハイナの「L」をあしらったキャップ

「プロショップでも販売しましたが、リッキー(ファウラー)は、ラハイナの“L”をデザインしたキャップを企画し、その売り上げを寄付したり、フィナウは、練習日にベイコースでの家族らとのラウンドの様子をライブ配信して、そこでチャリティもしてくれた。ザンダー(シャウフェレ)もジュニアクリニックを開催したり、モリカワも積極的です。PGAツアー側が寄付ということではなくて、内部で話してくれて各選手が自ら動いてくれている、そういう雰囲気をツアー側も盛り上げているという感じです」

 ラハイナによって経済が回っているという西マウイ。普段通りの生活を取り戻すには5年近くを要するのでは、という見立てもあるが、徐々に、しかし確実に街は復興へと向かっている。今回、テレビなどを通じてマウイ島でのゴルフイベントがしっかりと映し出されることで、大きなプラスになることを、住民そして選手たちも期待している。

Photo/Blue Sky Photos

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