目標に向かって一歩ずつ
金谷は、2024年の元旦を瀬戸内海の海上で迎えた。これは金谷にとって初めてのことだ。
「知人が初日の出を見ようと誘ってくれて。今までは、年末年始に地元に帰っても、ゴルフばっかりやっていたから……」
元旦からゴルフする。それも一人で黙々と。これが金谷のスタイルだった。金谷にちょっとした変化を感じる。
「でも、2日からは練習しますよ。昔からお世話になっている郷原CCに挨拶にも行きたいですし、有難いことに、すぐにソニーオープンに出られることになりましたから。そして次は、ヨーロッパツアーの中東の試合にエントリーして、順番がくることを待ちながら準備していくだけです」
目標に向かって準備する。これも金谷のスタイルだ。
“ビビり”の自分を克服し、オマーンでの初勝利へ
金谷は2023年、早くも2月にアジアンツアーのインターナショナルオマーンで優勝した。自身2年ぶりの優勝、プロ入り後、海外での優勝は初めてだった。
「前週に昨年の初戦、サウジで試合があって、ギリギリ予選通過したんですけど、自分の調子はよかったんですね。でも3日目4日目もすごくいい球を打てているのに、ピンが端に切ってあったりすると、自然とグリーンの広いほうに飛ぶんです。
ショートサイドに外したくないんですよ。自分でも気づいていたんですけど、キャディさん(ライオネル・マティチャック氏)が『今日、めっちゃビビってプレーをしてた』と。だからオマーンでは、練習ラウンドからずっと、『今週はもうターゲットだけ見て、そこに打つことしか考えない』と言いながらプレーしていました。それを貫いて優勝できた。自分のプレーに自信を持ち、ハザードなど関係なく打つことはすごく大事なんだと気づけた試合でした」
金谷は21~22年にかけて、どん底に落ちた。海外挑戦するも予選落ちばかり。そのうち自分が何をしているのかさえ、わからなくなったという。
「アマチュアからプロになってすぐは何も怖くないから、自然と1打1打に対して集中してプレーできていたけど、21~22年のプレーがよくなかったから、恐れながらプレーしてしまうんです」
プロ仲間が皆、「メンタルが強い」と口をそろえる金谷だが、本人は大きく首を横に振る。
「いや、めっちゃビビってるから」
一度落ちた気持ちは、なかなか消えてくれない。
オマーンの優勝で弾みをつけ、賞金王を狙って臨んだ日本ツアーでも、開幕から結果が出ていたように見えた。
「やっぱりでも、恐れながらプレーする自分が出るんですよね。するとトップ10には入れても勝つということにはならないんです」
しかし、5月には、ツアー選手権で国内メジャー初優勝。
「もちろん嬉しかったです。でも実はその前週、地元(広島)の近くでミズノオープンがあって(JFE瀬戸内海GC)、母が病気後、久々に見に来る試合だったので、目の前で勝ちたいと強く思っていました。
でもそのときも、最終日最終組で回ったのに、あまり前向きにプレーできてなかった。勝負に徹しきれないというか。母に優勝を見せられずすごく悔しかった。それが次週のツアー選手権につながりはしたんですけど……」
自分が思い描くプレーができてこそ、自信は生まれる。
試合後、母と電話で話をした。
「僕が少し落ち込んで、『優勝を見せたかった』と言ったら、14番のパー3を挙げて『やっぱり左のミスが多いねえ~』なんて。ダメなところを次々指摘されて、母親らしいんですけど、だんだん話をしていてイライラしてきたんです(笑)。今、母は時間があるから、いろいろな選手のプレーを見て、すごくゴルフに詳しいんです」
それでも、「思ったより元気になってよかった。薬を飲んでいるから、それはしんどそうですけど」と、笑いのなかに安堵と心配が見え隠れするのも金谷らしい。
夏には、海外メジャー、全英オープンの出場権を得た。
「全英は自信を持った状態で臨んだつもりでした。調子も悪くなかった。初日も16番までは1アンダーとまあまあよかったんですけど、上がり2ホールでボギー、ダボ。これが実力なんですけど、このミスがいい例え。やっぱり自分を信じきれていないんです。キャディさんにもすごく言われます。『ここぞの試合のとき、ちゃんと勝てると思ってるのか』って。思っていないことはないけど、どこかでビビッてるんでしょうね。国内で試合前の囲み取材を受けるときは、目標を聞かれて『優勝以外何があるの?』と思えるけど、全英など海外の試合に行くと、それを言えなくなるという……。そういう弱さが出てくるんだろうなって。結果を恐れずに自分の力を出し切って失敗するならいいんですけど、そうする前に終わってしまった」
24年シーズンの展望を含むインタビューの全編は、1月23日号の週刊ゴルフダイジェスト「金谷拓実、進化の2024 光の中へー」とMYゴルフダイジェストで掲載中!
PHOTO/Tadashi Anezaki