球筋を作ることのできるツアーアスリートモデル
「RMX VD」シリーズに搭載されている「ブルズアイフェース」は、有効打点エリアに飛びの三要素(打ち出し初速、打ち出し角、バックスピン)に影響を与える機能を集中させることで、弾道の最適化を目指した。ツアーアスリートモデルに位置づけられた「VD/R」は、ソール側に上下(トウ、ヒール方向)に重心を調整できるスライドウェイトを搭載し、自分好みの「つかまり」を設定できるようになっているのが特徴だ。
クラブ設計家の松尾氏は、「VD/R」のヘッド慣性モーメントの小ささの利点に注目した。
ヘッド慣性モーメントとは、スイートスポットを外したときに、どれだけヘッドのブレを抑えてくれるかを判断できるデータになる。基準値が「4600~4799g・㎠」という中で、「VD/R」 は4147g・㎠と「非常に小さい」数値となっており、ミスへの寛容性という点ではあまり期待できない設計となっている。
最近のドライバーは、ヘッド慣性モーメントが大きいものが多く、「ミスに強い」ことをウリにしている。しかしここで注意しなければいけないのは、ミスにも種類があることを忘れてはいけない。
大慣性モーメントのクラブは、スイートスポットを外したときのヘッドのブレが抑えることができるため、打球の直進性が保たれる。しかし、大ヘッド慣性モーメントのドライバーは「ヘッドが返りづらい」という特徴があるため、ダウンスウィングで生じた軌道のズレやフェース管理の修正が難しくなってくる。
フェースの向きが想定よりもオープン(開き気味)でインパクトをしたときは、そのまま右方向に飛んでしまう恐れがあり、スウィング中に生じる「フェース向きのミス」に対しての修正力の低さが大慣性モーメントヘッドの弱点と言える。
ツアーアスリートモデルに位置づけられた「VD/R」のようなヘッド慣性モーメントの小さいドライバーは、スウィング中のフェース向きのミスに対する修正力が高く、「自分の思いのままに打球をコントロールしたい」、「繊細なフェースコントロールで球筋を作りたい」というゴルファーには、うってつけな1本だと言える。
打点の安定しないゴルファーにとっては、高慣性モーメントヘッドはその寛容性がお助け機能として働くが、正確に球をとらえることのできるプロやアスリートゴルファーにとっては、逆に扱いにくい機能に感じることもあるわけだ。
「VD/R」はフェードバイアス設計
ここからは各「RMX VD」モデルと比較しながら凄腕シングルである松尾氏にデータ分析と試打レポートをしてもらいます。
クラブ長さは実測で45.0インチ(以下すべて実測値)と最近では短めですが「標準的」。クラブ重さは305.3gと「やや重く」、スウィングウェイトはD2.6と「大きい」ので、クラブの振りやすさの目安となるクラブ全体の慣性モーメントは290万g・㎠と「大きく」なり、ドライバーのヘッドスピードが「45m/sくらい」の方にとって、タイミング良く振りやすくなっています。
ヘッドは全体的に小ぶりな形状で、時計で言うところの1~2時の方向に張り出し感があります。ツアーモデルらしく球がつかまり過ぎないイメージが出ています。
操作性の良さ、インテンショナルな弾道コントロール性の高さがヘッド形状から想像できます。
実際に試打したところ、アドレスでは米国モデルのような「強いオープンフェース」が特徴で、「VD/M」同様にヘッドのトウ側の高さが低く、実際のライ角よりも更にフラット感が出ています。
また、ツアーモデルの中ではFP値(フェースプログレッション)が「大きく」、リアルロフトもしっかり付けられているため、球の上がりやすさを感じることができます。
今回の試打クラブはロフト10.5度で、シャフトは標準の「SPEEDER NX VTC50」のSでしたが、シャフトは適度なしっかり感があって、インパクトの再現性の高さを感じました。
小ぶりなヘッドのため重心深度は「浅め」で、ヘッド慣性モーメントは「非常に小さく」なっており、フェースの芯を外れたときの安定度(寛容性)よりも、操作性の高さを追求していることがわかります。
ソールのフェース面寄りに付いている(トウ、ヒール方向に動く)スライドウェイトによってヘッドの重心深度が浅くなり、「VD/M」よりもインパクトゾーンをレベルにスウィングしやすくすることで、厚いインパクトとバックスピンを抑えることが可能になります。
スライドウェイトは真ん中(ニュートラル)の位置でも明らかにフェースのトウ寄りの位置なので、結果的に実際のフェース面上の重心位置(スイートスポット)は、フェースの中央よりもトウ寄りにあり、基本性能としては「フェードバイアス」設定であることがわかります。
「VD/R」は3モデルの中では、インパクト音が最も低く引き締まっており、レベルにスウィングをした際に、厚くインパクトしやすく、ダウンスウィングでの操作性の高さを求めた「フェード系」弾道を打ちやすいドライバーだと言えるでしょう。
PHOTO/Tadashi Anezaki
※週刊ゴルフダイジェスト2024年1月23日号「ヘッドデータは嘘つかない!」より