かつての"天才少年"の復活劇始動となるか!?
キーガン・ブラッドリー、アン・ビョンホンとのプレーオフを制し、ソニーオープン・イン・ハワイで7年ぶりの優勝を果たしたグレイソン・マレー。前週のザ・セントリーのクリス・カークに続き、2週連続で、ここ数年アルコール依存症や不安症、うつと闘う選手の優勝となりました。
鬱積の発露を酒に頼った内向きのカークと違うのは、マレーは暴れん坊のアルコール依存症。3年前のソニーオープンでは、ホテルで飲んで暴れて罰金を課せられるという前科もあります。ソブラエティ(医学的療法)による禁酒生活は8カ月になるそうですが、この優勝は依存症を克服しつつあることの証でもあるようです。
7歳からゴルフを始め、12歳から14歳まで世界ジュニア3連覇。09年には当時の2部ツアーのネイションワイドツアーで、当時史上2番目の年少記録、16歳で予選通過を果たしました。その後、アーノルド・パーマーの奨学金でウェイクフォレスト大に進学するもイーストカロライナ大、アリゾナ州立大へと転校を繰り返し、卒業することなく15年にプロ転向。真相はわかりませんが、どうやらその気性から人間関係が…と、想像してしまいます。
15年にプロ転向すると、ルーキーイヤーとなった17年のバーバソル選手権で、23歳で早くも初優勝。その実力からして順調な滑り出しでしたが、同時に問題行動にも拍車がかかります。クラブを叩きつけたり、放り投げるのはしばしば、ラウンド中にキャディを解雇したり、ツイッター(現X)上でケビン・ナと大口論。極めつきは22年の全米オープンで、パターを投げアイアンをへし折り、「正気を失ったゴルフ史に残るクラブ投げ」とも報じられたほど。
場外でも大暴れで、SNSで「欧州ツアーはワールドランキングを上げやすい」と貶し、LIVとの対応でPGAコミッショナーのジェイ・モナハンに噛みついたり。このときは「お前はもっといいプレーをすることが先だろう!」と、ローリー・マキロイに諭されると、「うるせえ!」と一蹴し、一悶着を起こしています。
マレーを見ていると、つくづくゴルフはバランスだなと感じます。彼の暴れん坊ぶりは決して褒められるものではありませんが、しかしその戦闘モードはアスリートには大事な要素です。一方で敵とはいえ仲間でもある他の選手へ優しさや思いやりや礼儀正しさといったものはゴルファーには不可欠なものでしょう。実際にゴルフでは豪快な攻めと、繊細な守りが求められるスポーツです。
ソニーオープンでは1打ビハインドで迎えた72ホール目を果敢な攻めでバーディを奪いプレーオフに持ち込み、3人のプレーオフ1ホール目で10メートル超のロングパットを先に沈めました。72ホール目は右、プレーオフはティショットを左に曲げてからの勝利。一癖も二癖もある、強い選手の勝ち方です。
優勝後のインタビューで「すべてはイエス・キリストのお陰」と語ったマレー。フィアンセの存在もまた、戦闘的な彼に人間的な成長をもたらしたのかも知れません。ようやく絶妙なバランスが備わった、かつての天才少年の今後の活躍に期待がかかります。
※週刊ゴルフダイジェスト2024年2月6日号「うの目 たかの目 さとうの目」より