AIの進化が「ジェイルブレイク」を不要にした
しかしキャロウェイは違った。2019年モデルの『エピック フラッシュ』には、ジェイルブレイクに加え、「Aiフラッシュフェース」が導入された。「ルールを守る」、「耐久性を確保する」、「打球初速をアップする」、この3つの条件をAIに考えさせ、普通にやったら34年かかる開発作業を一気に短縮させた。
AIが作り出したフェース(裏側)は、言葉では表現できない複雑な形状をしており波を打っていた。このAIフェースは、その後の『マーベリック』、『エピック』、『ローグ ST』、『パラダイム』で形状を進化させ、2024年『パラダイム Ai スモーク』では、キャロウェイの「虎の子」とも言えるジェイルブレイクを必要としないまでに進化した。
Ai スモークに採用された「Aiスマートフェース」は25万のスウィングデータと「飛距離アップ」、「スピンの低減」、「弾道のバラつきの抑制」をAIにインプットさせ、シンプルにフェース設計のみでミスショット時の寛容性を高めることができた。レギュラーモデル同士のヘッドの慣性モーメントを比べると前作の『パラダイム』が5346g・㎠だったのに対して、『パラダイム Ai スモーク MAX ドライバー』は5181g・㎠と減少している。
さらにクラブ設計家の松尾氏によれば、「MAX ドライバーはパラダイムと比べてリアルロフト角が大きくなっている」と言う。前作では実測値「9.2度」(表示ロフト10.5度)だったのに対して、Ai スモークは「10.9度」と1.7度寝ている。

左が『パラダイム Ai スモーク MAX』、右が『パラダイム』
ここから見えてくることは『パラダイム ドライバー』はロフトを立てて初速を向上させる必要があったが、『パラダイム Ai スモーク MAX ドライバー』は、大きく設定されたリアルロフトによって、「やさしく高弾道で飛ばせる」ドライバーに進化したと言える。
標準シャフトの「S」はヘッドスピード40m/sと相性がよさそう
ここからは実測データをもとに凄腕シングルでもある松尾氏にクラブ分析と試打レポートをしてもらいます。試打および計測ヘッドはロフト角10.5度、シャフトは「標準 TENSEI 50」でフレックスSです。掲載数値はすべて実測値となります。
ヘッド体積が446ccと小ぶりなヘッド設計だ
クラブの長さは45.0インチ。クラブ重量も303.9gとそれぞれ「標準的」です。クラブの振りやすさの目安となるクラブ全体の慣性モーメントが290万g・㎠と「やや大きく」なっています(基準値:282万~286万g・㎠)。計測数値のみで推察すると本来ならドライバーのヘッドスピードが45m/sくらいのゴルファーにとって振りやすくなっています。
ヘッドを見てみると前作の『パラダイム』(標準モデル)よりも少しヘッドの横幅が広めですが、「パラダイム Ai スモーク」シリーズの『MAX D』や『MAX FAST』と比べるとヘッドはひとまわり小さく感じられます。
実際に試打したところ、アドレスではフェースの丸みが少なく、比較的スクエアな形状です。そしてFP値(フェースプログレション)は「小さい」ですが、米国モデルらしい強いオープンフェースとフラットなライ角でつかまり具合が相殺され、ストレートな弾道を打てるイメージが湧きます。
Sフレックスのシャフトは軟らかめの設定ながらも振りやすく、インパクトの再現性も高かったです。ヘッドスピードが40m/sくらいのゴルファーでも扱えそうな感じがありました。前作の『パラダイム』よりもリアルロフトが「大きく」なり、ヘッドの重心位置が少しヒール寄りになったので、より球を「つかまえやすく」なりました。

上が『パラダイム』、下が『パラダイム Ai スモーク MAX』。見比べてみると今作(写真下)のほうが重心位置がヒール寄りになっている
ヘッドの慣性モーメントは前作よりも小さくなっているとはいえ、基準値(4600~4799g・㎠)よりも大きく、ミスヒットに対する寛容性は高く、安心感があります。ネック軸回りの慣性モーメントが大きく、ヘッドの返りが遅いので、安定したストレートからフェード系の打球が打ちやすいクラブになっています。
※週刊ゴルフダイジェスト2024年2月27日、3月5日合併号「ヘッドデータは嘘つかない!」より