16歳のときタイガーが初めてプロの試合に出場したのがこの大会(当時はロサンゼルスオープン)。天才キッズの名をほしいままにしていた彼の一挙手一投足をカメラの砲列が追う。しかし残念ながら予選落ち。カリフォルニア、ロサンゼルス郊外の高級住宅地にあるリビエラCCは彼にとって地元と呼べる場所だがなぜか相性が悪くこれまで勝ったことがない。
当時と変わらないリビエラCCの美しい景色。大会初日クラブハウスが建つ小高い丘の上から打ち下ろす1番パー5のティショットを300ヤード(正確には299ヤード)飛ばしたタイガーは2オンは逃したもののアプローチを寄せてバーディを奪う好調な滑り出し。
しかし終盤に「背中がつってしまった」と18番のセカンドショットで信じられないミスが飛び出した。フェアウェイ右サイドからピンまで残り176ヤード。そこで彼が放った8番アイアンの第2打は大きく右に曲がり70ヤード先のウェイストエリアへ。
「まさか、タイガーがシャンクした?」 ギャラリーからざわめきが起こる。
「間違いなくシャンクに成功しましたね」とラウンド後悪びれずに語ったタイガー。
「難しかったのはシャンクしたのと同じ8番アイアンで3打目を打たなければならなかったこと。しかも目の前に2本の木があってその間を抜いてパンチ気味のフックを打たなければならなかったこと。まぁ、あの状況ではうまくいったほうです」とピンまで5メートルに運びパー逃しのボギーに収めると一緒に回ったゲーリー・ウッドランド、ジャスティン・トーマスと抱き合った。
ウッドランドはタイガーの推薦で今大会に出場。「彼が直面した死の恐怖を考えるとそこから生還した友人とプレーしたいと思った」とプレーイングパートナーに指名した理由を語る。
ウッドランドは昨秋、脳腫瘍の摘出手術を受け4カ月たたない今年1月ソニー・オープン・イン・ハワイでツアーに復帰した。
本来楽観的で気さくな性格の彼を襲った病魔。昨年は春先から死の恐怖と悪夢に苛まれ、夜中全身が痙攣し目を覚ますとベッドのマットレスに1時間しがみつき「この手を離したら死んでしまう」とさえ思ったという。
当初は薬での回復を目指したが、脳の腫瘍が人間の恐怖と不安を制御する頭蓋骨の一部に位置していたことから、頭の左側に野球ボール大の穴を開け腫瘍を摘出する大手術を受けていた。
「本当に怖かったと思う。想像するだけで辛い。彼が還ってきてくれてとてもうれしい。今日のラウンドも楽しかった」
復帰戦で示したタイガーの思い遣りと友情も心温まるストーリーのひとつだ。