GD 最近、出てくるアイアンはどれも「中空」のような気がするんですが、中空って過去に一度、消滅しましたよね。
長谷部 打感と打音がうまく調整できなかったのが原因で。まだレーザー溶接をする時代ではなかったので、蓋の閉じ方が上手くできませんでした。
GD 溶接技術が上がったことで、中空が復活したんですか?
長谷部 打感と打音をよくするために、充填剤をいれるんですが、昔は発泡樹脂ではなかったり、発泡剤を入れても密着はするんだけど、それが打感のよさには繋がらなかった。結局、そこまでやりきれなかったのが昔の中空アイアンということです。
GD 昔の中空といったら、プロギアが作ったアイアン型ユーティリティ(ZOOM-i)がありました。丸山茂樹や深掘圭一郎、横田真一といった当時、売り出し中の若手プロが武器にしていたのを思い出します。
長谷部 あのようなユーティリティの中空だったら、打音がキンキンいっていても、プロは受け入れていましたが、セットモノのアイアンになると、打感とか打音を気にしていましたよね。
GD プロは打感、打音で距離感を感じていると言いますからね。
長谷部 いくらやさしく、機能的に優れていても、カキンとなった瞬間に大体嫌いになってします。
GD メーカーは、昔から中空のメリットは感じていたわけですか?
長谷部 重心を深く作れるメリットは確実にあって、キャビティだと後ろをえぐっちゃうから、重心はいったん前にいくじゃないですか。それを下(低重心)に持っていくことはできても、後ろにもっていくのは難しい。アンダーカットとか、いろいろえぐり方に細工を施して後ろに加重をかけようとするんですが限界がある。その点、中空は後ろに壁があるから、そこに肉盛りをすればいいんで、容易にできます。
GD ただヘッドの後ろをえぐって、その余剰重量をソール側にもってくればいいってもんじゃないんですね。
長谷部 中空は上でも下でも、重心コントロールがしやすかった。中空で3番から9番まで作ったとき、3番はソールに加重する。9番はヘッドの上に加重する。見た目のデザインを気にせずに重心位置を操作できるんです。
GD キャビティではそうはいかない。セットとしての統一感を出しながら、番手ごとの機能を出すためにえぐり方を変える必要があったと。
長谷部 キャビティだと、キャビティフローとかを考えるんですが、重心を深くするのは難しかったですね。その点、中空ははじめから深い位置で重心の高さをコントロールができるので、スピンの入りやすさも格段に違います。それが中空の一番のメリットで、スピンが入りやすくなると、特にロングアイアンでボールが上がらない人にとっては、打ち出しが低いという原因もあるのですが、スピンが足らずにドロップして飛ばない人が多かったので、そういう意味では中空の効果は圧倒的だと思います。
GD 複雑な重心配置にしても、見た目はシンプルに作れる。そのメリットをメーカーは生かすようになったんですね。
長谷部 上級モデルにしても、アマチュアモデルにしても、どんどん中空が増えてきたのはそれが理由です。でも、ヘッドサイズが大きくなればなるほど、異素材が必要になるので、逆に中空だと作りづらくなります。今ぐらいの「そこそこ」のヘッドサイズであれば、設計の自由度は高いでしょうね。
GD 今出ている中空はかなり完成度が高いってことですか?
長谷部 充填剤を入れることで打音も静かにできるし、なおかつ、テーラーメイドやロイヤルコレクションの新しいアイアンでも採用しているインジェクション製法を使うことによって、樹脂の種類を選ぶことができます。
GD 樹脂って何グラムぐらい入れるんですか?
長谷部 空洞が大きければ10グラムぐらい入るし、小さければ3グラムとか2グラム程度だから、その場合、重心への影響は少ないでしょう。
GD フェースの弾きとか、フェースのたわみといったヘッドの基本性能に影響は与えないと?
長谷部 それほど影響はないでしょうね。
GD ということは、キャビティはある程度「限界」に来ている?
長谷部 重心を深くするという意味では、もうタングステンを後ろにボコっとつけない限りは深くならないことがわかっているし、フェースをチタンにして軽くしないといけないのもわかっているか
ら、キャビティ構造は残るだろうけど、単一素材の、軟鉄鍛造のキャビティだと、同じロフトのものを比べたらボールは上がりませんよね。
GD ヤマハの『UD+2』みたいに、ソールを広く張り出させて。でも、結局、構えたときに後ろが見えちゃう。それを嫌がる人って多いじゃないですか。あれってやっぱり重心を下の後ろに持ってきたいから、あのような形状にしているのでしょうけど、あれはあれで効果があるわけですか?
長谷部 あれはあれであります。全体的にフェースが薄くなるので、打感は良くないでしょうね。フェースの後ろに「ターボラバー」じゃないけど、ゴムがあったりとかしない限り打感は良くならないし、スイートスポットって上に広がっていかないから、アマチュアだと打ち込んだときにフェースの上に当たることがあるので、そういった意味でも上下の慣性モーメントは小さくなる。
GD プロが使っていた当初のアイアン型ユーティリティも低重心で、フェースの上目が弱いって言われていました。今、あのような形状のユーティリティはあまり見かけなくなりました。
長谷部 あの時はフェースがシャローだから、上目に外すっていうのは、よほどミスヒットということです。そういった意味では、重心から大きく外すことはそんなになかったんですが、やっぱりヤマハみたいに思い切ってシャローフェースにしない限り、でかいフェースのまんま重心だけ低くしようとすると、重心より上の面積が大きくなるから、ミスヒットが起こってしまいますね。
GD 重心の広がりはフェースの上方向には広がらない?
長谷部 縦に生かすためには、やっぱり上にも加重する必要があります。
GD 下に過重したら……。
長谷部 下に行くだけ。下に行ったら下に広がってしまうから、上にスイートエリアを拡大したかったら、上に重量を持ってこなきゃいけない。
GD 低重心の逆をやんなきゃいけない。
長谷部 それを防ぐのが重心の深さで、深ければ深いほど、上下に広がるから深いほうが安定します。
GD ロフトがこれだけ立ってきました。いま7番で「26度」なんていうのもあるけど、どこかの時点でキャビティと中空のメリット、デメリットが発生してくる。ロフトが立つことによって、もうキャビティではカバーできませんよ、というのが、今回の中空が増えているように見えます。
長谷部 7番アイアンでティーアップして打ったとき、上目に当たることがある。そうなるとキャビティだと飛ばないんですよ。だけど中空だと、 ちょっと上目にあたってもそこそこ飛ぶから、上下の安定性は中空のほうが高いでしょうね。
GD ロフトを7番で同じ30度とした場合、アマチュアにとっては中空を選んだほうがミスは減るように思えますが、中空は後ろがふさがっているぶんブレード感があって難しそう見えます。
長谷部 自分が使えるのかな? って思う人も多いんだけど、結果的に言うと、アマチュアの場合は低重心のメリットがあるのは、ある程度スウィングが安定した人に限られる。やっぱりインパクトまでの入射角がバラつくようなアマチュアにとってみれば中空のほうがメリットはあるでしょう。
GD 今回ゼクシオが部分的ではありますが中空構造を採用してきたんですよ。中空にすると、全体的にヘッドがボテッとしたような気がします。
長谷部 ボテッとなります。
GD シャープ感がない。それ比べるとキャビティのほう方がシャープ感がある。これは好みの問題かもしないけど、見た目の影響はあると思います。性能重視でいったら、中空なのかもしれませんが、その先にあるのは、アイアンのユーティリティ化じゃありませんか?
長谷部 そうです。ユーティリティと中空アイアンは、いずれ繋がる感じがしますね。
GD いまは7番まで中空が当り前になった。じゃあ次は8番も?
長谷部 もうすでにピッチングまで中空にしているメーカーもありますが、中空だとわからないようにしているし、中の空洞の面積も大きくありません。ユーティリティのタイプにもよりますが、女子プロだともう30度のユーティリティが当たり前のように入っていて、キャビティのアイアンを入れるのか、そのままロフトの寝た中空アイアンを入れるのかって言ったら、中空アイアンを選ぶようになるんじゃないかな。
GD その流れだと、打感は犠牲になってくる?
長谷部 なります。
GD ゴルフが上手くなればなるほど、打感からのフィードバックを求めると思うのですが……。
そうすると、中空なのに打感がいいクラブというのが、今後の進化のテーマになるのかなと。
やさしさ(寛容性)と打感は反比例しているような気がする。ここは解決できるものですか。
長谷部 今後、中空がどんどん進んだとき、ある意味諦めざるを得ないところも出てくるかもしれませんが、中空でも打感がいいものが作れるようになってしまえば、キャビティの必要はまったくなくなって、「8番、9番、PW」はことさら重心を低くする必要もないから、なんならそこはマッスルバックでもいいっていう人も出てくるでしょうね。
GD そうなると、キャビティ消滅の危機なわけだ。
長谷部 危機です。
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取材協力/GDOゴルフガレージ