ツアー解説でおなじみの佐藤信人プロ。今回は、PGAツアーで117年ぶりにフランス人として優勝を果たしたマチュー・パヴォン選手について語ってもらった。
画像: 「優勝した大会は2コースを使いましたが、サウスCのポアナ芝に苦しむ選手が多いなか20フィート(約6m)以上を7回入れました。昨年のスタッツで特筆すべきものはないが今も発展途上の選手。その原動力は『ゴルフが好きでたまらない』にありそうです」(佐藤)

「優勝した大会は2コースを使いましたが、サウスCのポアナ芝に苦しむ選手が多いなか20フィート(約6m)以上を7回入れました。昨年のスタッツで特筆すべきものはないが今も発展途上の選手。その原動力は『ゴルフが好きでたまらない』にありそうです」(佐藤)

祖父と父が有名なサッカー選手で母はゴルフのテイーチングプロ

1月末のファーマーズインシュランスオープンで初優勝を飾ったのがマチュー・パヴォン。フランス人のPGAツアー優勝は117年ぶりとの報道もありますが、現行制度となっては事実上初の偉業となりました。そして翌週のペブルビーチでは2打差3位に。悪天候で54ホール短縮になり連続優勝の可能性を阻まれた形です。

この快挙に、一番驚いているのがパヴォン自身かもしれません。

欧州ツアーでは、7年連続シード権を維持している31歳の中堅選手。7年目の昨シーズン、スペインオープンでようやく初優勝を遂げました。

今シーズンから欧州ツアーのトップ10に出場資格が与えられる、いわゆる”久常ルート”でのPGAへの参戦。それも最終戦のドバイで5位に入って、ギリギリ滑り込んでの出場です。

昨年の初優勝時や、18年の全米オープンで初日6位で飛び出したとき、祖父と父親がフランスでは有名なサッカー選手であると報じられ、ボクもその存在だけは知っていましたが、しっかり長い時間プレーを見るのは中継を担当した今回の試合が初めて。

フェード一辺倒で果敢に攻め、また多くの選手がコロコロと外すトーリーパインズの難グリーンで粘り強く沈める姿が印象的でした。17番をボギーとし、それでも1打リードで迎えた18番パー5。ティーショットがバンカーの縁につかまり、なんとか脱出した3打目はボールが見えない深いラフから。

この瞬間、ボクは99年の全英オープンでの、いわゆるカーヌスティの悲劇、その主人公となった同じフランス人のジャン・バンデベルデが脳裏によぎったものです。

しかしパヴォンは二度と打てないようなミラクルショットで、ピンそば2m50㎝に乗せ、バーディで締めくくりました。経験豊富なベテランキャディが反対したそうですから、ギャンブルショットだったはず。でも、パヴォンが自分の判断を信じて賭けに成功したミラクルショットなんだと思います。

祖父や父の影響でサッカーを13年間続けるも「ミシェルの息子なのに」などとよく言われてつらかったようです。しかし母がゴルフのティーチングプロで、次にゴルフを選んだのは自然な流れだったのでしょう。世界アマチュアランクは、最高位でも890位。

20歳でプロ転向しますが、欧州の3部ツアーであるアルプスツアーからのスタートでした。18歳のとき、サンディ・ライルのキャディのつてを借りて渡米し、フロリダで練習したり、ミニツアーにも参戦。

このときの陽気なアメリカの雰囲気が気に入って「いつかはアメリカでプレーしたい」との思いが心の奥底にあったそうです。3日目を終えて「もし優勝したら?」の質問に、「そんな考えはとてもとても。これはご褒美で、アメリカで1年間ゴルフができるのが楽しい」との答え。

この優勝によって、フランスゴルフ史に名を刻んだばかりかパリ五輪の代表はほぼ確実に。これだけアマ時代も含めて活躍の地味な選手がPGAで2週連続優勝しそうになるのはレアケース。特にフランス選手には勇気を与えているのではないでしょうか。

PHOTO/Getty Images

※週刊ゴルフダイジェスト2024年3月12日号「さとうの目」より

This article is a sponsored article by
''.