「長谷部祐とギア問答!」は、国内外大手3メーカーで、誰もが知る有名クラブの企画開発を20年超やってきたスペシャリストの長谷部祐氏に、クラブに関する疑問を投げかけ、今何が起こっているのか? その真相を根掘り葉掘り聞き出すものです。クラブ開発の裏側では、こんなことが考えられていたんですね……。

7番のロフト30度で、ウェッジ「3本体制」が確定!

GD 基本的にアスリートゴルファーって飛ぶアイアンを使いたがらなかったじゃないですか。

長谷部 タテの距離が今までの感覚とズレるから。

GD それがだんだん容認されるようになってきている?

長谷部 プロが一番嫌うのは初速が速いこと。初速が速い故に、初速が落ちたときに、タテ距離で10ヤードぐらい平気で変わってしまうことがあるから、反発のいいアイアンとかドライバーは、「試合向きじゃない」ってことで大体却下されてきました。でも、最近はそこも慣れてきているのか、許容されています。全然気にせず、反発のいいアイアンを使うプロが増えてきているので、いわゆる小ぶりのヘッドで、中空構造ものが製品化される流れになっていることは興味深いですね。

GD 女子プロのアイアンって言ったら、ゼクシオの時代があったじゃないですか。でも、今ゼクシオを使っている女子プロはほとんどいません。スリクソンだったら『ZX5 MkⅡ』とか、タイトリストだったら『T200』、『T350』とか。飛び系ではありますが、ゼクシオよりはワンランク上のアスリートモデルを使うようになっています。

長谷部 めちゃめちゃでかいヘッドのアイアンを好んで使う人が減ってきているってことでしょう。やっぱり女子プロも少なくなってきているし、一般のアマチュアも中空アイアンに手を出しやすくなれば、フェースのでかいキャビティアイアンを持つ必要はありません。小ぶりなヘッドでもいいから飛ぶやつが欲しいっていうマインドとかニーズがあるように見えます。

GD 止まる止まらない問題があるじゃないですか。結局は、止まらなくても、そのゴルフに慣れている?

長谷部 そういうことでしょうね。スウィング技術で高いボールが打てるようになっていることもあるでしょうね。

GD 『ミズノプロ243』の印象はどうでした? 7番32度、PW44度でロフト的には飛び系でも良い感じですが。

画像: 『ミズノプロ243』。アイアンのミズノと言われるだけ、綺麗な削りをしている

『ミズノプロ243』。アイアンのミズノと言われるだけ、綺麗な削りをしている

長谷部 やさしいという印象はないんですけど、JPXもですけどPWが(46度から2度立って)44度なので、PWの下を打つギャップウェッジが必要になります。

GD そうなると、PWを除くウェッジ3本体制というのは確定的ですね。4度ピッチでいけば、44、48、52、56、もしくは58。PWが46度だったら52、58でカバーできたものが、このロフトだとウェッジ3本は大前提ですね。

長谷部 ウェッジのロフトもバリエーションとして用意してあるから、こういうロフト設定ができるわけです。

GD ピン『i530』はどうでした? 7番27.5度、PW41度とかなりのストロングロフトです。見た目、カッコいいアイアンですが。

長谷部 セミアスリートじゃないですけど、ちょっと力の衰えたシニアの上手な方に受けそうなアイアンです。でかいヘッドは使いたくないけど、ちょっと飛距離が落ちているから、「飛ぶアイアンないか~」となったとき、この精悍な顔つきがうけるのかなと思います。そんなに市場は大きくないけど、使いたいという人たちの評価は高くなりそうな、ターゲット層にはミートしていると思う。

画像: ピン『i530アイアン』。最近のピンのアイアン同様、シンプルなデザイン。ベテランアスリートに受け入れられそうな雰囲気がある

ピン『i530アイアン』。最近のピンのアイアン同様、シンプルなデザイン。ベテランアスリートに受け入れられそうな雰囲気がある

GD シンプルなデザインで……。

長谷部 余分なものがなく、ロゴも小さくちゃんと入れていることも、そういったベテランゴルファーの嗜好に合っていると思う。

GD キャロウェイは『Xフォージド』と『Xフォージド スター』の2モデルあって、スターが7番29度、PW43度。ノーマルが7番33度、46度で一番手ロフトが立っています。これは明らかにターゲット層を分けていますね。

画像: キャロウェイ『Xフォージド』。7番33度、PW46度。ソールの面取りにこだわっただけあっていかにも抜けがよさそう

キャロウェイ『Xフォージド』。7番33度、PW46度。ソールの面取りにこだわっただけあっていかにも抜けがよさそう

画像: キャロウェイ『Xフォージド スター』。7番29度、PW43度。Xフォージドよりも1番手ロフトが立っている

キャロウェイ『Xフォージド スター』。7番29度、PW43度。Xフォージドよりも1番手ロフトが立っている

長谷部 スターのほうは女子プロアイアンを意識しているのかな。シルエット的には兄弟モデルだから、「5、6、7番」はスターを入れたほうが楽だなという人が、コンボにするかもしれません。

GD コンボの可能性はあっても、同じシリーズで1番手ズラしで出してくるキャロウェイの狙いはなんでしょう。

長谷部 明確なライバルがあるってことでしょう。日本仕様で、ロジャー・クリーブランドの監修ではなくグローバルモデルとの差別化をはかっているクラブなので、日本の鍛造アイアンを間違いなくターゲットにしています。

GD それってミズノだったり、スリクソン、ブリヂストンだったり?

長谷部 ツアーでシェアの高い遠藤製もターゲットでしょう。ただオフセットはどちらも強くなかったので、そこは米国のブランドらしくスッとしたきれいな形状にまとまっていた印象です。

GD そうなるとスターも上級者モデル?

長谷部 上級者を意識しているとは思うけど、そこまで難しいキャビティには見えないですよね。重心を低くしていることと、ソールにこだわっているということだけあって、ソールの面取りは大胆にやってあるから、昔で言えばブリヂストンのグライディングソール、今で言えばスリクソンもフェースとバック両方の面取りが施されています。

GD 両方ってリーディングエッジとトレーティングエッジ?

長谷部 両方を大胆に削るってことがアイアンにはすごく重要で、リーディング側を三日月型に削って、後ろ側の面取りを意識してやっているからバウンスが強くても抜けがよくなるのでシャープなアイアンになります。

GD このアイアンはいわゆる1枚ものじゃないですか。軟鉄だけで作られている? なにかヘッドに埋め込まれているのかな?

長谷部 完全な1枚ものですよね。中空にしたり、マレージングにしたり、反発をよくして飛距離を稼ぐというアイアンとは違って、カチッとした打感を日本のメーカーじゃないのにしっかり作られています。

GD 日本のメーカーの鍛造アイアンで気になったのはヨネックス『CB501』。キャロウェイとは違って日本のアイアンって感じがして、いいなと思いました。7番32度、PW46度、グースもまあまああって、昔ながらのマッスルバックが感じられます。

長谷部 ヨネックスのグースは独特ですよね。ヒール側のネックとの繋がり感、ここに膨らみをもたせるのは日本の古き良き形状、ジャンボプロモデルとかの雰囲気が色濃く残っていますよね。

GD 池田勇太もヨネックスを使ったということも……。

長谷部 そういう関係者の好みが、ヒールの高さに安心感を感じるのでしょう。ヒールで打ちたいイメージに持っていかせるのと、インに引きやすいとか、「フトコロ」ってよく言うんですけど、しっかり肉を盛ってくるのが、昔のベンホーガンなどのアイアンにあったフェードヒッターならではの形です。

画像: ヨネックス『CB501』。構えたときの「フトコロ」に、古き日本のアイアンのアイアンの良さを感じる

ヨネックス『CB501』。構えたときの「フトコロ」に、古き日本のアイアンのアイアンの良さを感じる

GD 昔ながらの日本のアイアンといったら、マスダゴルフがありましたね。

長谷部 これはジャンプロ(ジャンボMTN Ⅲ)ですよね。

GD 少し現代風になっている?

長谷部 少しブレードがシャープかな?ぐらいで基本変わっていない。この形状が好きな人は、いつまでも好きなんだろうなって思います。こういう個性は大事ですよね。

画像: マスダゴルフ『JM-H2』。ジャンボ尾崎のクラブを作り続けてきたマスダだけあって、往年の名器『ジャンボMTNⅢ』の雰囲気を感じる。トウ下に丸みをつけて「逃げ顔」にしてあるのが特徴

マスダゴルフ『JM-H2』。ジャンボ尾崎のクラブを作り続けてきたマスダだけあって、往年の名器『ジャンボMTNⅢ』の雰囲気を感じる。トウ下に丸みをつけて「逃げ顔」にしてあるのが特徴

GD ヨネックスといい、マスダといい、嫌いじゃないな……。

長谷部 トウの下側を削って、トウの頂点を手前に持ってくることで、フェースがかぶって見えないようにしているのが特徴ですが、むかし昔のスポルディングとか、ベンホーガンの特徴をそういったところに残していて、日本のゴルファーはこの形で育ってきているから、好きな人は好きなんだと思います。

GD 米国アイアンには、この感じありませんよね。

長谷部 それはネックまわりに肉があると芝が絡まって抜けにくいというのがわかっているから、いかにネックを細くして抜けやすくするか。特にショートアイアンはウェッジみたいに絞った方がいいってことは米国のメーカーはわかっているから、昔のピン(アイ2)が代表的で、かなりネックを絞った形になっている。
日本のメーカーのアイアンがこうやって独自の路線を歩んできているのは、日本の高麗芝だったり、ラフがそんなに長くないという環境の中でやっているから、これでも十分球は打てる。 だけど米国に行ったプレイヤーは必ずぶち当たるのが芝生の違いなので、すぐにアイアンを変えますよね。

GD 尾崎直道がPGAツアーに参戦して米国ブリヂストンの『プリセプト7TP』を使ったのもそういうことですか。随分昔の話ですけど……。

長谷部 レイモンド・フロイド監修でピン『アイ2』を模したって言われそうな形状のアイアンでした。ネックに特徴のあるアイアンでしたけど、直道プロがすぐにスイッチして使ったということは、見た目の違和感よりも抜けの良さにメリットを感じていたのでしょう。

GD ネックの細さに日米のアイアンの違いがあるんですね。今度からそう言う見方でアイアンを見てみます。

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