それにしても今年のフェニックスは逮捕者が54人と、前年の18人から3倍増。もともと荒れる大会で有名ですが、今年は悪天候でサスペンデッドが長引き、酒の入ったギャラリーが大騒ぎ。おまけにSNSでは「タダで入れる」といった情報が拡散し客が殺到してゲートを締める事態に。すると今度はチケットを持った人が入れないと大騒ぎ。SNSを見ると、全身泥だらけの酔っぱらいや上半身裸の女性、客同士の怒号や殴り合い……と、コントロール不能のカオス状態になっていました。
試合は47歳のチャーリー・ホフマンとカナダ人のニック・テーラーとのプレーオフに。テーラーからすれば完全アウェイ状態です。
しかし、そうした周囲の喧騒を遮断する能力があるのか。フェニックスは、昨年2位となった相性もいい大会。またツアー3勝目は自国のナショナルオープンである昨年のカナディアンオープンで挙げましたが、このときもカナダ人が優勝すれば69年ぶりということもあり、大きな声援とプレッシャーのなかでの勝利でした。
付け加えれば2勝目となったのが20年のペブルビーチ。セレブリティが数多く参加するプロアマで、試合時間が長く選手にはストレスの多い大会。テーラーはそういう星の下に生まれたのか、なぜか喧騒のなかで影響されずに優勝するタイプのようです。
35歳のテーラーがPGAツアーで存在感を示し始めたのはこの2年ですが、昔を知っている人からすれば、これが本来の力で「いよいよ本領発揮か!」といったところでしょう。ワシントン大時代に全米オープンのローアマを獲得、この第2ラウンドの65は今もアマチュアによる同大会最少ストローク。またベン・ホーガンアワードにも輝きました。
07年から始まった世界アマランキング、これまで1位に輝いたのは48人。テーラーはそのうちの一人であり、カナダ人としては唯一です。もともとショットメーカーで、唯一難があったのがパッティング。
そこで2年前からガレス・ラフルスキーの指導を仰ぎます。畑岡奈紗さんやリディア・コー、コ・ジンヨンなど女子を多く指導している有名なパッティングコーチです。
インタビューを聞くと、テーラーが改善したのは大きく2つ。ひとつは右に30度傾いていた頭を真っすぐにすること、そしてクローグリップに変えることでした。ただ、ラフルスキーは付け加えます。
「それを理解したうえで重要なのが、同じことを繰り返せること」。テーラーはこれを、ラウンド前に15分、ラウンドのないときは45分、家では1時間以上、約2年間繰り返しているようです。
効果は優勝したフェニックスで表れました。残り4ホールで3打ビハインドの状態から、15、16、18番、そして2ホールに及ぶプレーオフで、いずれもど真ん中からバーディパットを沈め、珍しくガッツポーズし感情をあらわに。
今年のプレジデンツカップはカナダ開催。熱狂舞台を得意とするテーラー、また活躍するかもしれませんね!
PHOTO/Blue Sky Photos
※週刊ゴルフダイジェスト2024年4月16日号「さとうの目」より