「オフは1日9時間、科学的練習をして欠点を克服したのが勝因です」(兼本)
舞台となった箱根カントリークラブは、日本のゴルフ草創期から活躍し、日本のゴルフの水準をより高めるために尽くした赤星四郎が設計した名コースだ。
シニアツアーと言えども、コースの全長7060ヤード、パー71とかなりタフな設定がされ、往年のスター選手にとって持てる力量を発揮させるに十分と言えるだろう。スタート表を見ると、倉本昌弘、宮本勝昌、尾崎直道、高橋勝成、芹沢信雄、片山晋呉、丸山茂樹、谷口徹、奥田靖己、湯原信光、羽川豊、井戸木鴻樹と、かつてレギュラーツアーで優勝を競い合った選手が多く参加しているのも嬉しい。2日間の力量が問われ、ギャラリーにとって卓越された技を間近で見ることができるのはゴルフファンとして価値があるといえる。
だが、シニア競技の特徴ともいえる「和気あいあい」という雰囲気もおおいに漂い、ロープに沿ってコースを歩き、熱戦を展開する選手を応援して一喜一憂する奥様達を発見することもできる。その日の戦いが終わればクラブハウスで家族とともに寛ぐ選手の穏やかな表情がそこにはあり、とても好感がもてる。
初日だった4月18日は17.3度と気温がやや低く、箱根外輪山を吹き渡る風は冷たい。そのような状況のなかで兼本貴司選手は6アンダーを記録した。シニアながらドライバーの飛距離は300ヤード、3Wは280ヤードという“強力な武器”を駆使しての好スコア。本人曰く「ドライバーを曲げないでフェアウェイにあれば好スコアに繋がる」とし、8番ホールではイーグルを記録している。
初日を終え、追いかけるのは1打差で伊澤利光、横尾要ら6人がひしめき、2日目の決勝はスタート直後から大混戦が予測された。
さて、最終日は陽光降り注ぐ青空で天候に恵まれた。
注目の兼本選手は出だしのホールで震えたことから、手堅く2番アイアンでティーショット。残り115ヤードをウェッジで打った。ところがバックスピンがかかり過ぎて手前のラフまで戻ってしまい痛恨のボギー。前半はスコアを伸ばす選手が続出し、スタート前の予想通りたちまち混戦模様となってしまった。
スタートのつまづきを前半に4つのバーディで挽回した兼本選手はスコアを伸ばしたが、同時に片山晋呉、深堀圭一郎、横尾要という強豪選手が1打差で首位を追尾し、午前中は混沌とした展開が続き「5番のボードを見て負けても仕方がない」と兼本は思ったが、9番ホールをバーディにしたことで2位に2打差をつけることができた。
後半の9ホールはそれほどスコアが伸びないことから踏ん張れば勝てる、その状況下で13番ホールをバーディにし、追いすがる2位の片山晋呉に3打差をつけ逃げ切ることができた。
勝因は「オフに1日9時間練習とトレーニングをし、スウィングを科学的に分析し、今までのように経験値ではなく、理想とする数値に近づけるようにした結果、ドライバー飛距離は303ヤードから313ヤードと伸びた。海外有名プロのレッスンをYouTubeで見て研究したのも良かった」と語った。
これからは国内でさらに勝ち、可能ならば『米シニアツアーに参戦したい』と夢を語ってくれた。
TEXT&PHOTO/吉川丈雄
※2024年4月20日13時08分、一部加筆修正しました。