1960年代から2000年代初頭まで、50年の長きに渡って躍動した杉原輝雄。小柄な体、ツアーでは最も飛ばない飛距離で、当時トーナメントの舞台としては最長の距離を誇る試合で勝ったこともある。2打目をいちばん先に打つのだが、そのフェアウェイウッドが他の選手のアイアンより正確だった。ジャンボ尾崎が唯一舌を巻いた選手で、「マムシの杉原」、「フェアウェイの運び屋」、「グリーンの魔術師」「ゴルフ界の首領(ドン)」と数々の異名をとったのも頷ける話だ。「小が大を喰う」杉原ゴルフ、その勝負哲学を、当時の「週刊ゴルフダイジェスト」トーナメント記者が聞いた、試合の折々に杉原が発した肉声を公開したい。現代にも通用する名箴言があると思う。
画像: 2008年中日クラウンズにて(撮影/岡沢裕行)

2008年中日クラウンズにて(撮影/岡沢裕行)

敗戦を割り切らない勝負哲学

ーー「負けた記憶がやり返す力になる。敗戦をひきずって陰にこもるのはいかんが、割り切るのはもっとアカン」

これまでのボクのゴルフ勝負人生を振り返ってみると、実に「ハッタリ」とか「負けず嫌い」の部分が支えてきたのやなと思います。ボクはこれまで50何勝かしていますけど、裏返せば1000回以上負けているんです。そして記憶に残っているんは、勝った試合より負けた試合です。特にプレーオフでやられた記憶のほうが強いですわ。1回負けたら2回やり返したい。こんな思いがボクを支えてきたと思うんです。負けた悔しさをバネにして、ゴルフに打ち込んできたなとも思います。

敗戦をいつまでも引きずってはいけません。しかし、負けたことを簡単に割り切ってしまうことがもっといかんのです。偽悪的に聞こえるでしょうが、ボクは相手に憎まれるくらいになりたいと思っています。だから、普段のラウンドのときからでも真摯に、徹底的に勝負にこだわってやります。いや、顔には出しませんよ。態度ではこだわりませんが、内面では徹底的にこだわっています。

そのこだわり方やいうと、一例をあげると、パットは外すときでも決してアマサイドには外しません。フックラインなら入らなくても必ず右に外す。死んでも左に外さんよう集中してパットします。スライスラインなら右には絶対外さない。アマサイドへいくパットは100年たっても入らんからです。こうしたことを普段からやっておけば、あいつはコワイなという印象を与えられますやんか。そのことが次に対戦したときに生きてくるわけです。こんなハッタリが勝負を分けることもあるんです。

プレッシャー克服は技術を磨け

ーー「重圧をはねのけるために技を磨く。結果をあまり意識してはいかん。意識するとたいがい裏目にでるもんや」

若い時、杉原はプレッシャーに強い、煮ても焼いても喰えないなどといわれましたが、こんなん誰が喰いますか(笑)。真面目な話、ボク自身プレッシャーに強いと思ったことはありません。対処法だって正直分りやしません。ただプレッシャーを感じたら、思い切ったことやったらいいやないか、自分がやれるだけのことやったらいいやないか、とは思ってました。

思い切ったことをやれるというのは、裏返せば技術に自信を持ってるかどうかやだと思います。これまで、この時のために技術を磨いてきたんですそれも得意技、これだけは誰にも負けへんでという技術を持っていれば、重圧がかかっても千人力の味方を得た気持ちになるんや思います。

そもそも、プレッシャーがかかる位置にいるということを感謝せななりません。優勝争いや高額賞金を争う位置にいるからこそ、プレッシャーもかかるわけなんやから。最下位争いにプレッシャーなんかかかりませんわ。確かにプレッシャーをはねのける技術なんて並大抵のことでは身につかんやろが、日々辛抱強く磨いていくしかないやろなと思います。

そしていい結果になるよう望むけど、あまり結果を意識してもいかん。アバウトなところでいいんです。意識するとたいてい失敗します。なるようにしかならんのです。なるように努力しても報われんこともあるんです。これを心のどこかに持っていればプレーに歯切れがでてきます。最後は、勇気、思い切りですよ。

文/古川正則(ゴルフダイジェスト特別編集委員)

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