敗戦を割り切らない勝負哲学
ーー「負けた記憶がやり返す力になる。敗戦をひきずって陰にこもるのはいかんが、割り切るのはもっとアカン」
これまでのボクのゴルフ勝負人生を振り返ってみると、実に「ハッタリ」とか「負けず嫌い」の部分が支えてきたのやなと思います。ボクはこれまで50何勝かしていますけど、裏返せば1000回以上負けているんです。そして記憶に残っているんは、勝った試合より負けた試合です。特にプレーオフでやられた記憶のほうが強いですわ。1回負けたら2回やり返したい。こんな思いがボクを支えてきたと思うんです。負けた悔しさをバネにして、ゴルフに打ち込んできたなとも思います。
敗戦をいつまでも引きずってはいけません。しかし、負けたことを簡単に割り切ってしまうことがもっといかんのです。偽悪的に聞こえるでしょうが、ボクは相手に憎まれるくらいになりたいと思っています。だから、普段のラウンドのときからでも真摯に、徹底的に勝負にこだわってやります。いや、顔には出しませんよ。態度ではこだわりませんが、内面では徹底的にこだわっています。
そのこだわり方やいうと、一例をあげると、パットは外すときでも決してアマサイドには外しません。フックラインなら入らなくても必ず右に外す。死んでも左に外さんよう集中してパットします。スライスラインなら右には絶対外さない。アマサイドへいくパットは100年たっても入らんからです。こうしたことを普段からやっておけば、あいつはコワイなという印象を与えられますやんか。そのことが次に対戦したときに生きてくるわけです。こんなハッタリが勝負を分けることもあるんです。
プレッシャー克服は技術を磨け
ーー「重圧をはねのけるために技を磨く。結果をあまり意識してはいかん。意識するとたいがい裏目にでるもんや」
若い時、杉原はプレッシャーに強い、煮ても焼いても喰えないなどといわれましたが、こんなん誰が喰いますか(笑)。真面目な話、ボク自身プレッシャーに強いと思ったことはありません。対処法だって正直分りやしません。ただプレッシャーを感じたら、思い切ったことやったらいいやないか、自分がやれるだけのことやったらいいやないか、とは思ってました。
思い切ったことをやれるというのは、裏返せば技術に自信を持ってるかどうかやだと思います。これまで、この時のために技術を磨いてきたんですそれも得意技、これだけは誰にも負けへんでという技術を持っていれば、重圧がかかっても千人力の味方を得た気持ちになるんや思います。
そもそも、プレッシャーがかかる位置にいるということを感謝せななりません。優勝争いや高額賞金を争う位置にいるからこそ、プレッシャーもかかるわけなんやから。最下位争いにプレッシャーなんかかかりませんわ。確かにプレッシャーをはねのける技術なんて並大抵のことでは身につかんやろが、日々辛抱強く磨いていくしかないやろなと思います。
そしていい結果になるよう望むけど、あまり結果を意識してもいかん。アバウトなところでいいんです。意識するとたいてい失敗します。なるようにしかならんのです。なるように努力しても報われんこともあるんです。これを心のどこかに持っていればプレーに歯切れがでてきます。最後は、勇気、思い切りですよ。
文/古川正則(ゴルフダイジェスト特別編集委員)