1960年代から2000年代初頭まで、50年の長きに渡って躍動した杉原輝雄。小柄な体、ツアーでは最も飛ばない飛距離で、当時トーナメントの舞台としては最長の距離を誇る試合で勝ったこともある。2打目をいちばん先に打つのだが、そのフェアウェイウッドが他の選手のアイアンより正確だった。ジャンボ尾崎が唯一舌を巻いた選手で、「マムシの杉原」、「フェアウェイの運び屋」、「グリーンの魔術師」「ゴルフ界の首領(ドン)」と数々の異名をとったのも頷ける話だ。「小が大を喰う」杉原ゴルフ、その勝負哲学を、当時の「週刊ゴルフダイジェスト」トーナメント記者が聞いた、試合の折々に杉原が発した肉声を公開したい。現代にも通用する名箴言があると思う。
画像: 90年関西オープンでの杉原輝雄

90年関西オープンでの杉原輝雄

手堅いだけで勝てるわけがない

ーー「自分を手堅いゴルファーとは思ったことはないんや。積極性こそ本領やと思ってます」

「稽古は複雑でも舞台ではシンプルでなければならない」とは故森繁久弥さんの言葉です。この言葉に共感したことがありました。試合ともなると、いいゴルフをせなとか、いいショットをしたいとかいろんな思いが頭に渦まきます。ところが、7000ヤードを超す長いコースで勝った時など、まず2打目を届かすということしか考えんのです。つまり、シンプルに攻めるいうこと。それが勝つという一点に集約されたんやないかと思うんです。

ボクは自分のゴルフを積極的だと規定してますのや。よく「フェアウェイの運び屋」とか「粘りの杉原」「マムシの杉原」とか人は呼んで、手堅いゴルフの代表みたいに思われているようやが、ボク自身は決してそうは思うてません。プロ入りして初優勝した日本オープンでのこと。最終日17番で第2打をグリーン横のバンカーに入れました。このホールはグリーンまわりにラフが深く、ラフよりバンカーがいいやろ思って、その上にあるピンを狙っていったんです。それが届かずにバンカーへ入り、そこからうまく寄せてパーを拾った。この時も粘りのゴルフといわれましたが、なあに、実はピンを積極的に狙っていったうえでの結果だったわけです。

この時は苦笑して反論はしませんでしたが、「手堅い」だけでは上位にはきても優勝はなかなか難しいのではないかという気がするのです。自分では積極性こそ本領や、と思ってます。

徹するということ

ーー「徹する強さは決して才能だけで解決できる問題ではありません。もっと深いもんや」

あれは昭和59年ごろやったと思います。アメリカの女子プロ選手権を勝った樋口久子選手がその前の年、国内で初の予選落ちが話題になりました。国内で256試合、海外も含めると338試合の連続予選通過というとてつもない記録を打ちたてました。まだボクは47勝しかしてなくて、50勝を目指していたときだもんやから、そりゃ凄いことだと思いました。

野球では衣笠祥雄選手が連続出場2215試合、そして現在阪神の金本知憲選手が全イニング1492試合という気が遠くなるような記録を目の当たりにすると、才能とは何ぞや、なぞと考えてしまいます。長く続けるとはなんぼ才能があっても、それだけでは絶対やれることやない、そう思います。野球には故障、ケガがつきものやし、スランプももちろんあるでしょう。ゴルフにしたって「運」という不確定要素があります。ましてや樋口選手は女性として体調にも微妙なサイクルがあるはずです。そういうことを克服して、毎週のように気力充実させ、体調を維持して、それを17年間続けたわけやから、もう頭がさがりぱなしと書いたことを思い出します。誰がいったか知りませんが、次のような話を聞いたことがあります。

「やるべき目標が決まったら、執念をもって、とことんまで押しつめる。やれるかどうかの問題点は、能力の限界ではなく執念が欠如していないか、どうかということだ」

才能だけで解決できることではないということを、端的に示していると思う言葉です。73歳のボクも年間6試合ほど出場を目指しています。ボクの執念です。

文/古川正則(ゴルフダイジェスト特別編集委員

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