ツアー解説でおなじみの佐藤信人プロ。今回はプロ13年目でPGAツアー初優勝を飾ったドイツ人のシュテファン・イェーガーについて語ってもらった。
画像: 「イェーガーはアメリカ人かと思うほど流ちょうな英語を操る。ボールマークは息子、愛犬、父の顔の3種類があり、無作為に選んだものを1日使うそうです」と佐藤プロ(PHOTO/Getty Images)

「イェーガーはアメリカ人かと思うほど流ちょうな英語を操る。ボールマークは息子、愛犬、父の顔の3種類があり、無作為に選んだものを1日使うそうです」と佐藤プロ(PHOTO/Getty Images)

3月最終週のヒューストンオープンでPGAツアー初優勝を飾ったのがシュテファン・イェーガー。ミュンヘン生まれの35歳のドイツ人。プロ13年目、PGAは135試合目での初優勝と時間はかかりましたが、昨年からの安定ぶりを考えると、ボク的には順当な優勝かなと思います。

17歳のとき、テネシー州のベーラースクールに交換留学生として渡米。同級生にはキース・ミッチェル、ハリス・イングリッシュがいます。そこでの活躍が注目され、テネシー大に進学。大学通算で4勝するとともに、オールアメリカンにも選ばれました。 

プロ転向は12年。これまでコーンフェリーで6勝しているのですが、PGAの厚い壁に跳ね返されるシーズンを繰り返してきました。16年にコーンフェリーで初優勝した試合で初日に出した58は、PGAで初の快挙でしたが直後にジム・フューリックがレギュラーツアーで58をマークしてかき消されました。

転機となったのは22年。20-21シーズンにコーンフェリーで2勝すると、この年昇格したPGAで初のシード権を獲得します。しかし父親が亡くなり、また4月までに4試合連続の予選落ちを2度するなどゴルフもどん底。

そんなとき第一子の妊娠が判明。「ここで踏ん張らないと一生コーンフェリーのまま……」との思いもあったのでしょう。背水の陣の覚悟で、自分と自分のゴルフを変える挑戦が始まります。まず訪ねたのが、トレーナー・コーチのマイク・キャロル。

それまでのイェーガーは飛ばない、FWキープ率も悪い、という選手でした。キャロルの指導は主にジムトレーニングでしたが、相性がよかったのかポテンシャルが高かったのか、すぐに効果が表れます。

21年に飛距離293Y、FWキープ率57%だったのが、23年には306.1Y、57.86%、そして今年は310Yでランキング10位、”飛ばし屋”に生まれ変わったばかりか、FWキープ率も62.2%まで上がっているのです。 

これはPGAでも極めてレアケース。これまで飛距離アップの成功例……たとえばブライソン・デシャンボー、マシュー・フィッツパトリック、マイケル・キムなど……を見ると、もともとFWキープ率が高かった選手がほとんど。飛距離を求め多少FWキープ率が下がっても、伸びた飛距離がそれをカバーするタイプでした。

ところがイェーガーの場合は、飛距離を伸ばしてさらに曲がらなくもなったのです。そこには飛距離が伸びた自信によって飛ばない劣等感が解消されたことがあるのかもしれません。 

さらにメンタル面では、ジュリー・エリオンという女性コーチのもとに足を運びます。昨年、全米オープンで優勝したウィンダム・クラークのコーチとして注目を集めた人物です。

PGAでプレーする選手は常人には考えられないエネルギーの持ち主。クラーク同様、怒りやフラストレーションのコントロールを、どうやらこの女性コーチのもとで学んだようです。 

飛距離もFWキープ率も手に入れたイェーガーですが、レアケースだけに今後の成り行きを注目したいと思っています。

※週刊ゴルフダイジェスト6月11日号「さとうの目」より

This article is a sponsored article by
''.