ボール探しの3分は「誰がどのように計測するか」
畑岡がインスタに挙げた意見書のタイトルは、「ShopRiteLPGA Classicで失格となった件について」。
意見書の1「ルールの曖昧さについて」を、畑岡は以下のように記した。
“規則上、「ボールを捜し始めてから3分以内」に見つけることができなければ、紛失したとみなされるとなっていますが、時間計測を開始するタイミング、誰がどのように計測するのか(誰が計測した時間を採用するのか)などは明確ではありません。
違反すれば結果的に失格にもなり得る重大なルールですので、可能な限り曖昧さを排除すべきですし、現実的に運用可能な環境を整備することが重要と考えますので、このような観点からルールの明確化が必要であると考えます。"(原文まま)
日本女子ツアーでは”ボール探しのルーリング”はどのように運用されているか。
畑岡が意見書をSNSに挙げる数日前に、女子ツアーの競技委員を務める中崎典子さんに話を聞いた。
まず意見書の1の前半部分「誰がどのように計測するか」。レフェリーがいる場合といない場合の対応について聞いた。
「基本的に球の捜索の3分間がスタートするタイミングや捜索時間は一般的な規則でカバーされている部分であり、USのLPGAだろうが、私たち(JLPGA)が計測しようが同じです。レフェリーがいない場合は、選手たちが『今から球の捜索をします』と時計なり何かを見て3分間、時間を確認する責任を追います。ルーリングで呼ばれたりした場合は、『いままで何分間ぐらい探してましたか』と時間を確認します。たとえば選手から1分と言われたら、そこから『あと2分捜索時間があります』とストップウォッチを押します」
「レフェリーがその場にいれば、あと30秒になります」と必ず声をかけるという。さらに選手自ら計測する時間を宣言し、そこにレフェリーがいたならば、時間を指摘してもらえるとも。
では、小社関係者がその場にいなかったので、あくまでも”報道によると”という但し書きがつくが、競技委員がそこにいたという情報もある。その点については?
「記事を読む限り、アンプレアブルの処置に立ち会っただけで、おそらく球が見つかった後に呼ばれたんじゃないかと推測します。また、球を捜索したこと自体、その時点で知らなかった可能性もあります。競技委員が球の捜索にいた場合は、必ず計測するはずです」
また「残り10秒です」と3分の時間が迫れば10秒単位で細かく声かけするとも話した。
“球の捜索の3分間がスタートするタイミングや捜索時間は一般的な規則でカバーされている”というが、ほかのツアーではどうか。
日本オープンなどで競技委員を務め、R&Aのレベル3「Distinction」(最高位)を獲得したルールに詳しい松山浩晃さんも同じように説明する。
「球の捜索はプレーヤーかキャディが捜索を開始したときに計測がスタートします。私がレフェリーとしてフィールドに居る場合、選手やキャディが捜索開始する瞬間に立ち会える場合、選手やキャディが球のあると思われる辺りまで来てから『今から3分間計測します』といったような声かけで計測を開始します」
時間経過の対応も中崎さんと概ね同じ。
「『残り1分です』『残り10秒です』、終了したら『3分経ちました』といったように伝えます。ボール探しをしているところを見かけて途中で加わる場合、『今どのくらい探しましたか?』と尋ね、その答えに応じて残り時間を計測するようにしています。計測する場合、3分経過したことを明確に伝えることが重要です」と松山さんは話す。
畑岡以外の選手たちも「"3分ルール"は曖昧」
畑岡と同じ立場の選手たちはこのルールにどう対応しているか。
ツアー16年目で通算6勝の菊地絵理香は、畑岡に何度も同情しながら語る。
「今回の畑岡さんはやっぱりかわいそう。ボールを探し始めるタイミングはすごくあやふやですから。1秒、2秒、3秒とか、10秒とか選手はみんな微妙に思っていて、どの選手も正確に測れるものではないと思います。ボールを探すことはあまり経験がないですが、私は時計をつけているので、ボールがないなあと思ったときには、『今から探します』と声かけします。ただ、時計を持っていない選手もいるし、『今から探します』というタイミングも難しい、そこも曖昧な部分。ラウンド中はほかの選手も一緒に探してくれるし、キャディさんも測ってくれますが、このような曖昧なルールで、世界的に改善できるものがない限り本当の解決にはならないのではないでしょうか」
意見書の1の後半部分、「可能な限り曖昧さを排除すべきですし、現実的に運用可能な環境を整備することが重要と考えます」という畑岡の考えに、菊地の意見は似ている。
また菊地は「競技委員がいれば時間を正確に測ってくれてラッキーです」と話すように、レフェリーがいない限り、より明確で正確性を求めことは難しいという意見も付け加えた。
20~22年に渡りプレーヤーズ委員長(選手会長)を務めたプロ13年目で通算5勝の青木瀬令奈も畑岡に同情する。
「ボール探しのルールは難しいところがあります。やはりどこ(どのタイミング)から測るか。キャディさんが先に行って探す場合もあるし、選手が探し始める場合(タイミング)もあるし。競技委員がいたら、聞きます。選手間でも今回の話から、40秒(1打に対する所要時間)の問題になりました。ボール捜索のルール以外でも、レフェリーはどこから測っているのかが曖昧。選手からもそういう意見が多くあります。プレーヤーズ委員会(選手会)でもその議題が多く、そのへんのルーリングと選手との認識のズレもある。時間についての曖昧なルールは多いです。5分から3分とか、ルール変更が毎年変わるので,選手と競技委員との間で勉強していかなければいけないかもしれません。映っている選手だけがルールにひっかかるのも曖昧だし、問題だと思います」
プロもアマもボール探しで失敗しない方法
「自己責任」「自分がレフェリー」といわれるのがゴルフ。しかし、「時間」という曖昧なルールのなかで、一般ゴルファーはどう考えればいいか?
前出の松山さんは「そもそもレフェリーがおらず選手やキャディが時計を見ていない状況では3分以上捜索していることも多々あると思われます。規則は明確ですが、計測することについては規則で具体的に定めていないため、曖昧になりがちなのは否めないと思います。2019年の規則改正でプレーのペースについて規則書内で言及されるようになりましたが、今後は計測に関してもプレーヤーやキャディが時計を持ちいつでも計測できるようにする責任があることを言及するべきなのでは」と話す。
意見書の1の「ルールの曖昧さ」について問題はまだ残るが、今後ゴルフをするプレーヤーの対策法をまとめた。
・「今から測ります(もしくは今から探します)」と携行した時計などで自ら(もしくはキャディ)が捜索開始時間を同伴競技者に伝えて、時間を確認する
・レフェリーがいる場合、レフェリーの指示(計測)に従う
・レフェリーが途中から捜索を始めた場合は、それまで経過した時間を伝えて、残りの時間を計測してもらう
暫定球のように”暫定球を打ちます”と宣言しなければならないという明確なルールはないが、ボール探しの3分ルールで失敗しないためには、「これから時間を測ります」と宣言し、自らが時間を計測することが、求められるのかもしれない。
●畑岡奈紗の失格の経緯
大会初日畑岡は最終ホール(9番)でセカンドショットを茂みに打ち込み球を探すまでに時間を要した。捜索時間は3分以内とルールに定められているがそれを超過してボールを発見。しかしその場に競技委員も立ち会っていたが“お咎めなし”だったため、アンプレアブルを宣言してそのままプレーを続行し単独4位でホールアウト。
ところが翌朝現場にいた関係者からLPGAツアーに「捜索に3分以上かかっていた」と通報がありVTRで確認したところ3分25秒を要していたことがわかった。3分以内にボールが見つからなかった場合は2打地点に戻り4打目を打つべきだが、プレーを続行したことが「誤所からのプレー」とみなされ失格となった。
(みんなのゴルフダイジェスト「https://www.golfdigest-minna.jp/_ct/17704451 」より)